読書メモ
・「危機突破の経済学」
(ポール・クルーグマン :著、大野 和基 :訳、PHP研究所 \952) : 2010.10.17
内容と感想:
本書はクルーグマン教授が2008年のノーベル経済学賞を受賞したのを受けて企画されたもので、
著者こそクルーグマンになっているが、訳者の大野氏が2008年末から翌年3月までに計4回に渡って教授にインタビューしたものをまとめた本である。
勿論、タイトルの「危機」とは今回の世界金融危機のことを指している。そのタイミングで出された本だ。
危機発生の原因や、アメリカや世界の経済の行方、未来について語っている。そして日本がやるべきことについても。
彼は自分なら信用緩和政策を採り、経済をどんどん動かすことに取り組み、インフレターゲット策も導入すると言っている。
こうした意見は政府、日銀の耳にも入っていると想像するが、困ったことにとにかく日本はスピード感がない。歯がゆい。
第2部でも語っているように教授本人は政権内に入るよりも、「アウトサイダーとして役に立ちたい」、
政府を批判し、警鐘を鳴らし続けるのが使命だと考えているようだ。
また、教授の見立てでは、景気は2009年か10年の終わりには底をつき、そこから本当の回復が見られるまで4〜5年はかかると言う。
さて、クルーグマンという人がどんな人かというと、「解説」の若田部昌澄・早大教授によれば「難しい概念を噛み砕いてわかりやすく説明する力には天才的なものがある」
とのことである。興味あるかたは彼の著書を読んでみてはいかが。
○印象的な言葉
・日本はまだ失われた10年から完全に回復していない。2003年以降の「順調な時期」に政策を間違った。
インフレが起きるまでゼロ金利、財政拡大を継続すべきだった。
・アメリカの伝統的な考え「福祉は個人でやるもの」
・従来の銀行が行なうべき多くのことを、証券化に頼ってしまった。証券化では統計的モデルに依存しすぎた。そのモデルが間違っていた
・日銀による2006年の量的緩和解除、同年と翌年の誘導金利引き上げ(金融引き締め)が、デフレが克服しないまま行なわれた
・貿易は経済動向に敏感。景気後退が生じると貿易は経済全体より早く落ち込む
・リーマンショックはオバマが危機に際して、非常に知性があり、思慮深く、冷静で、パニックにならない人物であることを印象づけた。頭脳も明晰、国民の信用を得た。
・今回の危機はアメリカ国民の国家観を変えるほどの大きなもの
・景気刺激策は規模よりスピード
・オバマの国民健康保険制度の構想は、公的保険と政府の補助金付き民間保険の組み合わせ。マサチューセッツ州のシステムが近い。同州では97%の人が保険に入っている
・アメリカの医療システムは悲惨で、ひどく不公平。企業を解雇されると保険給付が受けられず、病院にも行けない
・オバマの経済政策はウォール街とのしがらみから抜け出せない懸念
・アメリカで自己破産が多いのは、いい学校がある地域に家を買うために支払い能力を超えて借りたから。背景には教育システムの問題がある
・格差社会の進行は社会に破壊的な影響を及ぼす可能性がある。国民の社会的一体性を蝕む
・アメリカで磐石な成長産業はヘルスケア
・インドは貿易に関しては外から見るほどオープンではない。資本移動もかなり規制をしている
・ロシアは新興財閥が国の代わりに巨額の借金を重ねていて、非常にもろい状態にある
・アイルランドは銀行救済コストがあまりに大きくて政府の支払い能力が疑問視されている
・多くの国で政治的不安定の危険性がある。最もリスクがあるのは東欧。民主主義があまりしっかりしていない
・株価より長期国債の金利に注目する。投資家たちが景気回復を期待すると金利が上がる
・「ファウンデーション」(アシモフ:著、邦題:銀河帝国興亡史)は銀河系の文明を救った社会科学者の話
・世の中で何が起きているか把握し、事実を知り、歴史を知り、他の人が見失っているデータを探す
・学んでいる課程で新たなひらめきを得ることができる
-目次-
第1部 日本は危機を突破できるか
「失われた10年」の教訓を日本は活かせるか
危機はなぜ起こったのか
日本は何をしておくべきだったのか
ドルと円のゆくえ
第2部 アメリカと世界の経済はどうなる
オバマは「チェンジ」できるのか
アメリカ経済のゆくえ
世界経済の未来
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