読書メモ
・「最強国家 ニッポンの設計図 〜ザ・ブレイン・ジャパン建白」
(大前研一:著、小学館 \1,500) : 2010.02.14
内容と感想:
本書は大前氏が日本改造計画「ザ・ブレイン・ジャパン」(TBJ)構想を建白したものである。
TBJは国民・生活者のための国家レベルのシンクタンクとして設立するとし、
賛同者には頭脳提供と出資を募っている。
(今日現在、「ザ・ブレイン・ジャパン」でググるとスタッフ募集のページしか見つからないから、
まだ始動はしていない模様。まったく経過が分からないから何とも言いようがない)
単純に言えば「いい国作ろう!」が本書の主旨である(「おわりに」)。
本書は政権交代前の2009年6月に出た本だが、政権交代しても大した変化はないだろうと著者は言っている。
旧来型の政治では日本は良くならないと見ているのだ。ゆえにTBJの使命は真の国家戦略の立案である。
本書では日本が抱える様々な課題に対して、提言を行なっている。TBJが始動した暁には、ここで示した案を元に
具体化し、政党や政治家、国民にそれを問うていくことになる。
最も国民生活に密着した分野としては年金と税金だろう。
「安心と意欲」を作り出す仕組みを提言している。
そして景気回復、産業振興策にも取り組んでいる。
教育と雇用対策もある。世界に通用する人材・グローバルリーダーや、問題解決型人材の育成を目指している。
著者は失業よりも労働者の質や競争力の低下を危惧している。
また、憲法改正にも踏み込んでいる。
道州制とし、国会は一院制で、11道州の大選挙区、定数100人。議員は国事に関する問題のみを扱い、地元への利益誘導はできないようにする、という。
道州の財源は付加価値税で、道州に完全な立法権、徴税権、行政権を持たせることとしている。
天皇制を堅持した上での道州連邦制をイメージしているようだ。
外交・防衛も重要なテーマだ。
「左翼的な”妄想平和主義”では国は守れない」とし、
対等の外交のためには戦争というオプションも視野に入れておく必要がある、とまで言っている。
最後に再び世界金融危機を起こさせないための世界的な仕組みづくりにも触れている。日本は無関係では済まされない。
積極的に参加し、あるいはリードしていかねばならないだろう。
危機の後、ドルの凋落が指摘されているが、ドルの完全崩壊を防ぐためにアメリカは「EUと通貨協定を結んでドルとユーロの換算レートを固定することしかない」とし、
最終的には統一通貨が誕生するというシナリオを著者は描いている。
「いま世界に必要なのは資本主義に代わる新しいコンセプトではなく、資本主義を正常に機能させる新しい秩序」(第6章)だとし、
暗に金融危機後にそうしたコンセプト本が多く出ていることを批判しているようでもある。
本書で取り上げているテーマは、いずれもひとつひとつがスケールが大きい課題であり、一冊の本で全てを語り切れないところもあっただろうが、要旨は分かった。なにしろ構想力が凄い。
その問題意識の高さは並の政治家では足元にも及ばないだろう。
民主党や自民党でもここまで具体的にはマニフェストにも書けないだろう。
TBJは特定の政党にも政府にも属さないとしているから、大前新党なるものを構想しているのではないことは分かった。
我々としては、こうしたTBJのような形など、民間や国民の側からの政治参加の機会をできるだけ増やし、「よい国作り」に貢献して、自らの力で住みやすい国にしていくことが必要だろう。
それが真に自立した国民であり、真に独立した国家になる道だろう。
○印象的な言葉
・新2階建て年金
・生活コスト引き下げ要求
・大選挙区制、一院制、重要案件は国民投票
・イスラム・テロ根絶のためのアラブ連合(AU)設立。傑出した指導者がいないイスラム社会。民衆はおとなしくしている見返りに石油利権の分配にあずかる。
・世界恐慌を防ぐための銀行ER(Emergency Room)。資金の流動性だけは確保。不良債権の選別や処理には3〜5年かかる
・ヘッジファンドへの融資を制限・禁止する国際為替安定化機構の設立。IMFや世界銀行は今回の危機では機能していない。各国政府に強烈な提言や警告をできる権限。
・金融商品の品質検定をする国際的な機構
・国民の個人情報を管理するコモンデータベース。これを第四の権力に担わせる。四権分立とする
・新興国に乗り込んでパイオニア的な仕事をこなす能力、根性
・改革は痛みだけでなく、希望を伴わなければ動き出さない
・オーストラリアは20年以上前に移民政策を大幅に緩和した結果、中国からの移民が大量に流入した
・私鉄は世界中で日本にしかない。鉄道会社というより総合デベロッパー。沿線に住宅地を造成、商業施設を作った
・日本の不動産資産は約1,300兆円
・付加価値税:付加価値を創造した法人や事業者が、生み出した付加価値に対して一定の率で課税。消費税と同じ5%とすれば、年間約25兆円の税収。
・警察、消防、海上保安庁などの職員を自衛隊でも働けるよう訓練し多能工化。フルタイムの自衛官を削減
・世界中に外務省の人間を張り付けておく必要はない
・アキバ系サブカルチャー市場は小さすぎる。製造業の衰退を補えない
・鉄鋼、造船、運輸、工作機械など日本の古い産業が蘇って経済を下支えしているのは中国特需のため。それが終われば斜陽産業、構造不況業種となる
・会社は外資に買収されても、土地までは持っていけない
・最大の埋蔵ウランはアメリカとロシアの核兵器の中にある
・原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜ合わせたMOX燃料を使う「プルサーマル」方式がある。高速増殖炉は不要
・原子力が衰退産業になっても日本とフランスだけは人材を維持した
・日本は風力発電の風車を立てる場所が限られる。水力発電用の水源も開発され尽くした。火山国の地熱発電は活用すべき
・メタンハイドレートは触媒技術が難しく、未知数
・軽油のような油を生成する藻
・農民は農政の犠牲者。補助金で恩恵を受けたのは中間で利権を得る全農や農協の職員、地方自治体の農政担当者、種苗・肥料・農薬・農業機械を売る業者ら。
農機を買わされたり、転作させられたり、専業農家でも借金だらけで儲からない。農政予算でやったことは公共土木工事。生産性や国際競争力は全く上がっていない。
食料確保、食料安全保障にもつながっていない。国土の8割が山地で、平地に人口が密集。農業に適した国ではない。
・備蓄が難しい生鮮食品は優先的に国内で供給
・製造業を守るなら税制優遇で。減価償却期間を短くする。
・アクティブシニア・タウン:元気な高齢者がセカンドライフを過ごすコミュニティ。巨大産業になる。地方活性化になる
・誰が良い仕事をしたかは上司ではなく、お客さんが決める。また頼みたい、と言われること。ご指名。
・政治は社会の縮図。問題は日本の多くの組織に共通。
・朝日新聞的戦後民主主義という浅はかな悪平等主義が蔓延
・政治リーダーには利害や考え方が違う国民を、いかに最大公約数でまとめていくかが問われる。簡単に白黒つかない、その道なき荒野に道を創り、国民を導く
・リーダーはまず方向を決め、程度(スピード)を決める。数字だけを目標に掲げても駄目。
・松下幸之助は質問が天才的にうまかった
・答えがない時代、先生は生徒に答えを教えることができない。伴走者やキャディになるべき。一緒に考える。同じ目線。
・分からないことは恥ではない。自分の考えを万人に分かるように論理的に説明できることが重要
・ブランド維持には一人のプロデューサーがいればいい
・労組が労働者のためにも社会のためにもなっていない。活力や能力を低下させる元凶。既得権益者になっている。産業の空洞化と雇用減少を招いている。
・民主党は「自民党B」
・政治判断とは何かを助けるために何かを捨てる冷酷なもの
・新たな憲法には4つのアジェンダ(検討課題):1.国の統治機構(道州制)。2.国際社会での役割。3.富を創出する仕掛け。4.セーフティネット。
・福岡はアジア本社のヘッドクォーターに最適。黄海経済圏の中枢、アジアのハブ
・官僚が腐敗するのは目的がなくなっているから
・世界では地方議会にフルタイムの議員はいない。パートタイムで十分
・地方行政は全国一律のITシステムにしてコストを削減すべき。業務も標準化し、裁量行政の余地をなくす
・アメリカ経済は個人消費の半分を占める住宅市場が回復しなければ再生できない
・EUも最初は後ろ向きな弱者連合だった。危機感を共有。民族問題も緩和
・中国は台湾問題で6回もオリンピックをボイコットしている
・アメリカやEUは中央政府の締め付けが緩やかなほうが結束が強まることを示す
・北方四島はトルーマンがスターリンに妥協して与えたもの
・領土問題でものを言うのは歴史的経緯ではなく、実効支配
・極東ロシアには豊富な森林資源や原油、天然ガスなど地下資源が眠ったまま。ロシアは日本の力を欲している
・アメリカ、中国、インド、EUおの付き合い方は等距離外交で。
・日本外交は利権単位の縄張りが出来上がり、トータルで機能していない。ODAにゼネコンや商社が群がる。
・北朝鮮には継戦能力はない
・核保有は敵を増やすだけ、維持も大変、マイナス面が大きい
・自衛隊のシビリアン・コントロールについての定義が明確でない。
・国民すべてに自分たちの国および財産を守る義務と責任があることを教育すべき
・日本国民は戦争について考えることも国を守ることも放棄している
・アメリカが過剰に印刷したドルは海外に流出し、国内にダブついているわけではないため、インフレにならない。ユーロ・シフトが進むとドルが還流し、ハイパーインフレになる。
・EUの結束が問われている。日本にとっては中・東欧諸国に経済援助する絶好のタイミング
・世界の民間銀行の資産におけるドルとユーロの比率は6対4.
・山の頂を高くすれば、おのずと裾野は広がり、多くの人に恩恵がもたらされる
・ボーダレスな状況ではマクロ経済学は機能しない。経営者や消費者の心理を解き放つミクロな政策が必要
<感想>
・日本の進んだ山文化を中国にも展開できそう。スキー、スノボーも。
-目次-
序章 日本は最強国家になれる!
第1章 「年金と税金」で国民の「安心と意欲」を作り出せ
第2章 経済を復興し、産業を興せ
第3章 教育と雇用 ―世界で大活躍する人材を育てろ
第4章 憲法改正と道州制で「新しい国家のかたち」を作れ
第5章 最強国家にふさわしい「最強の外交・防衛戦略」とは何か
第6章 二度と世界金融危機を起こさないボーダレス経済の新理論
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