読書メモ
・「スラム化する日本経済 〜4分極化する労働者たち」
(浜 矩子:著、講談社+α新書 \838) : 2012.12.20
内容と感想:
前著「グローバル恐慌」の姉妹編。恐慌の過程そのものに焦点を当てた前著では十分に
立ち入ることができなかったテーマを取り上げている。
グローバル恐慌が襲ってきたとき、地球経済は「インフレとデフレの両面を合わせ持つ経済だった」というのは、
日本にいるだけだと実感できないが、地球規模ではそういう面があることを知る必要がある。
「日本のデフレが世界のインフレの火種になった」というのも、日本経済が世界と関連していること、影響力の大きさを改めて感じられる。
サブタイトルの「4分極化する労働者たち」というのは、
正規労働者、非正規労働者、外国人労働者、と労働者になれない「労働難民」を表わしている。
終章にもあるように、人も企業も国も、経済的な苦しさから「誰もが自分だけのサバイバルを追い求めれば追い求めるほど、誰一人としてサバイバルできなくなる」というのは真理。
結局、「誰もいなくなる」ことになるからだ。
グローバル恐慌後、広がった「自分さえ良ければ」主義から、「皆で一緒に豊かになろう」主義に転換していかねば、世界経済は持続できない。
○印象的な言葉
・ファンド資本主義。投資ファンドは擬似資本家。彼らは雇われ者。運用する資金は彼らの所有物ではない。お雇い資本家であり、同時に擬似経営者でもある
・グローバルジャングルの中で、共存共栄していくためのコツを身に付ける。それができないとそのジャングルは砂漠化する
・デフレを生むインフレの時代。デフレとインフレが互いを生む
・グローバル全体主義
・バントウ(番頭)外交の好機。大番頭は控えめながら仕切り役、腰は低いが粘り強くて、難題を丸く収める危機管理の名手
・富を分かち合うことで皆がより豊かになれる。富と機会のシェア
・コスト削減のために企業がコントロールできるのは人の価格、人件費だけだった
・国境を超えた賃金競争のため、賃金はいくらでも下がるようになってしまった
・アフリカ全体の原油埋蔵量は中東にははるかに及ばないが、欧州および旧ソ連の合計に迫る
・英国初のPFI。民間資金で実施する公共事業。財政支出削減につながる。民間委託された公共サービスの世界ではその労働者らが劣悪な環境で働かされている。
極めて低い賃金により派遣労働者がワーキングプア化している。結局、弱者救済のための財政負担が大きくなっていく
・グラミン銀行の預金者の5割強は会員預金者。融資先の多くが同時に預金者になっている。融資対象者らは銀行の大株主でもある。会員の持ち株比率は94%。
それはかつての日本の銀行と融資先とおの関係に似ている。一蓮托生の関係
・グラミン銀行のアメリカ進出。アメリカには銀行口座をもてない移民が2800万人いる。口座はあっても信用力不足で融資を受けられない人が4500万人いる
・投資ファンドの出現により機関投資家たちの行動も変わった。アメリカを初め、巨大年金基金の多くが投資ファンドを活用
・資本の二重構造化が経営の集団無責任化につながっていく。経営に関する最終責任が曖昧になってきている
・介護従事者不足のドイツでは東欧諸国から人材を募集した。受け入れ条件は厳しく、ドイツ人の雇用が優先され、成功したとはいえない
・欧州の先進国の外国人労働者の比率は1割前後
・2008年7月のWTOドーハ・ラウンドの決裂。新興国集団と成熟諸国集団との対立。WTOは理念を喪失し、紛争処理機関に成り下がった
・互恵主義は「互いに最大限の恩恵を施しあう」発想。他国も豊かになってもらわねば、生産してもどこの国も買ってくれない
・貿易の三原則:自由、無差別、互恵
-目次-
第1章 金融恐慌の第三幕
第2章 人を痛めつける二一世紀の経済
第3章 固定化される貧困と格差
第4章 新・資本主義下の国民生活
第5章 グローバル社会主義の成否
第6章 世界経済は砂漠化するか
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