読書メモ

・「日本の「世界商品」力
(嶌信彦 :著、集英社新書 \720) : 2010.02.28

内容と感想:
 
サブプライム・バブルがはじけて日本も世界大不況に巻き込まれた今、強欲資本主義から「モノづくりによる堅実な資本主義が再評価」されている。 経済成長が長く停滞した日本には、これからは「欧米の追随ではなく独自の”再成長のエンジン”」が必要だと著者は言う。 「クール・ジャパン」に着目した著者は、それを活かして「世界商品」にしていくことを本書で提言している。
 我が国は鉱物やエネルギー資源には恵まれないが、「世界に誇る技術と経済戦略になり得る様々な文化」があると著者は考えている。 クール・ジャパンというとアニメ、漫画、ゲームなどポップ・カルチャーだけかと思われるが、 彼は和食や農産物、伝統芸能、観光、省エネ・環境技術などもそれに含めて広く捉えている。 商品は揃っているとして、その世界商品を誰に買ってもらうかが問題だが、 「今後ターゲットとすべきなのは世界、とりわけ発展するアジアの中流層」だとしている。
 著者はクール・ジャパン産業の経済効果を20〜30兆円と見ており、 4〜6%の潜在成長率をもつとしている。この数字は大きい。 本書ではそのクール・ジャパン産業が 今後の日本の経済成長戦略として値するか、「数字的裏付けや成長性はどんなものか」を検証し、 あわせてクール・ジャパンの源流である日本文化の各要素の「歴史的な背景や日本独特の土壌」などにも誇りや自信を込めて書いている。
 本書の中に1.5次、2.5次、3.5次産業という表現が出てくる。 従来の一次、二次、三次産業に対して、 クール・ジャパンの価値を活用し、プラスアルファした産業をイメージしているようだ。 先に挙げた世界商品となりうる商品たちを見れば分かるように、これらは特定の産業に依存したものではなく、 一次から三次産業まで様々な分野に広がる。
 これまでの自動車や家電などの製造業、輸出産業中心の日本経済にも限界が近づいている。モノづくりだけではこの先、苦しい。 本書が押すクール・ジャパン戦略がどれくらい経済成長に貢献できるかは未知数だが、著者もいうように戦略的に世界へプレゼンテーションしていく必要がある。 ポップ・カルチャーなどは戦後、発展したものだが、それよりも遥か昔から脈々と受け継がれてきた伝統文化が残っているのだからこれを活かさない手はない。 世界の人々に理解して買ってもらうためにも、上手に世界に発信していくことが大事だ。
 残念なのは明治維新以降、西欧化を進める中で、あるいは戦争で捨て、破壊してきたものが想像以上に大きかったのではないかということだ。 消えてなくなったものを復活させるのは難しい。文書や人の記憶に残されたものであれば何とか、後世にも伝えることができるが。 これまでに我々が捨ててきたものが見直され、歴史や伝統を大切にする気持ちがもっと盛り上がれば日本人としての自信の回復にもつながるだろう。

○印象的な言葉
・型でひきつける伝統芸能。能、狂言、歌舞伎。基本型からの変化の面白さ
・日本庭園ブーム
・和家具:釘を使わない「接ぎ手」(つぎて)という技。表面から接ぎ手は見えない。江戸指物(さしもの)。堅牢、丈夫で木目の美しさ
・和紙、竹細工:内装や間接照明にも
・土壁:その土地の水と土を使って独特の色合いや感触を出す。混ぜ物を使わず、土本来の自然にもっとも近い状態を生かす
・錦鯉:姿、形、色、模様の美しさ。
・祭り
・日本語を英訳できる人材→日本の文学も世界商品となる
・文化の匂いのするハイセンスな商品
・SOBRIO:イタリア語で個性的、ハイセンス、美しい、安全で安心、上質、上等、上級、お洒落、機能的、上品、エレガント、控えめ、誠実、信頼、実力もある
・雅、幽玄、伊達、粋、ケとハレ、わび・さび、華。繊細、華麗、優雅、匠の技術、美意識、様式美、味わい深さ
・文化で世界に存在感を示す
・普遍性をもつ文化としての歌舞伎
・日本食の美しい盛り付け・食器、もてなしと作法。豊富で新鮮な素材、旬の食材。多彩な料理法。季節感、地域ごとの特色。階層によって異なる料理文化。
・UMAMI「うま味」は国際語。昆布だしの正体、グルタミン酸。隠し味。
・伊藤若冲の絵画の動物的な生命力
・江戸の画家、浮世絵師らは着物の下絵も描いていた。呉服問屋は有名な絵師を抱えていた
・村上隆のスーパーフラットという絵の概念。極限の平面性。立体感のなさ。芸術をHighもLowもないものに。限られた人々へ発信するアートへの疑問。 コンビニ・エディションは大衆に根付くアート。
・子供のままの精神年齢国家・日本。戦後の戦闘意欲喪失プログラムにより、子供的なる脱力社会が完成(村上隆)
・わざとらしさの拒否
・人工的なもの、人の手が加わった痕跡を極力消そうとする日本庭園
・ハローキティ:自己主張のなさ、自我を持たないキャラクター
・日本マンガの普遍的な読みやすさ、楽しさ
・シニアや女性層が簡単に使いこなせるWii
・村上春樹が世界で読まれる理由:西欧的な文化におそれや遠慮がない。世界が日本とつながっている。西洋でもあり東洋でもある。孤独感と無力感。 社会システムや共同体を冷ややかに傍観。寂寥感、喪失感。精神的飢餓感を満たす。
・日本社会が置かれた状況は世界の最先端にあるともいえる。日本を描くことは、ポストモダンの世界の近未来を描くこと
・欧米人の味覚は四味、中国人は五味、日本人は七味。
・アジアに広がるインスタントラーメン
・牛丼:Beef Bowl
・蛋白質やカルシウムを多く含む大豆製品。低カロリーで高栄養の豆腐。大豆蛋白を酵素分解して作る醤油
・近松門左衛門はシェークスピアと同時代の人
・江戸独楽(こま):独特の回り方をする独楽。からくり技術が仕込まれている
・カラオケ:アジアは独唱・陶酔型、欧米は合唱型
・一次産業の経営の大規模化、環境によい農業への補助、輸入規制から輸出振興へ。生産者の育成。生産から流通、販売までを一貫。ネット販売。消費者に直結。 農家の一世帯あたりの年収は平均200万円。形の悪く破棄される農産品は2割。
・ニーズ、販売法を考えず、ただモノ作りに没頭しているだけでは駄目(奥山清行)
・日本のコンテンツ産業の規模は2006年で14兆円。輸出はそのわずか2%。アニメ、漫画、映画など本体以外に、DVDや玩具、TVゲームソフト、衣料品やテーマパークなどキャラクター使用料など。
・日本の農政予算の3分の1は公共事業費。農家支援策が直接、農家に届かず、団体や組織に支援金として給付されている。欧州では価格補償金や輸出補助金など直接、生産者に結び付いている。
・東南アジアでは日本の稲作技術を取り入れ、おいしい米作りに力を入れ始めている(→他の農産物もそうなる)
・スイスやオーストリアでは外国人の消費が国内消費額の5割を超え、観光と文化が「輸出」産業になっている。
・日本は安全で見所が多い。四季を通じて観光が可能。自然と四季の美しさ。円高がマイナス材料。工場などを見て回る「産業観光」
・日本は空港から中心街までの交通の便が悪く料金も高い。
・スポーツビジネス:TV放映権、関連グッズ、選手の肖像権、ゲーム化、入場料、広告収入。小中学生の指導、地元に支えられた経営

<感想>
・都市鉱山といわれる廃棄された携帯電話→金(gold)などを回収できるというがコストに見合うのか
・日本のコンテンツ産業→日本的価値観(文化)を世界に理解してもらうチャンス
・日本農業の衰退→自民党による農家「愚民化」政策の結果
・生鮮食料品は輸出に向かないのでは?輸送燃料もかかり、エコでない
・戦争を知らない世代同士なら文化を通じて交流も深まる、関係改善

-目次-
第1章 活気づくクール・ジャパン
第2章 世界に誇る日本の美 ―ファッション大国への可能性
第3章 世界を席捲する日本のコンテンツ ―アニメ、マンガ、ゲーム、映画、文学
第4章 トップに躍り出た和食文化と農業産品
第5章 世界が注目する日本の伝統と技術
第6章 クール・ジャパンと「世界商品」戦略
終章 再成長のエンジンで五%成長は可能だ