読書メモ

・「シリコンバレーから将棋を観る 〜羽生善治と現代
(梅田 望夫:著、中央公論新社 \1,300) : 2010.08.11

内容と感想:
 
「ウェブ進化論」の著者が将棋好きだということは知っていたが、今度は将棋をテーマに本を出した。 一連の著作の中で言及されている「ネット上にできた学習の高速道路」論では将棋が事例として挙げられていた。 著者の趣味は「将棋鑑賞」とのこと。まあ、プロ野球ファンだって、そういう人のほうが多いだろう。 本書からは著者の将棋への愛情が伝わってくる。 私は将棋は指さないが、将棋の奥深さはなんとなく感じている。
 本書では羽生善治、佐藤康光、深浦康市、渡辺明らトップのプロ棋士を取り上げている。 第二章には棋聖戦観戦記(佐藤棋聖vs羽生)、第五章には竜王戦観戦記(渡辺竜王vs羽生)が掲載されている。 これらはリアルタイムでウェブに公開されたものだそうだ。 野球やサッカー中継と違って将棋は見た目の動きが少なすぎるから派手さや面白みに欠けると私なんかは思ってしまうのだが、 きっと将棋ファンには嬉しい試みであったことだろう。
 第二章に羽生氏のこんな言葉があり意外だった。 「将棋には闘争心はあまり必要ない。相手を打ち負かそうなんて気持ちは必要ない」。やはり、ただの勝負師ではない。 第七章はその羽生氏との対談が収録されている。
 なるほどなと思ったのは「あとがき」。 将棋は二人で作る芸術、一人では絶対に作れない、同志が重要だという点。 これは将棋に限ったことではないだろう。 スポーツなども含め勝負ごと全てに共通することではないだろうか。 相手があっての勝負ごと。それを芸術にまで高めるには互いが志を高くもち、切磋琢磨することが大切だ それが文化を豊かにし、深めることになる。

○印象的な言葉
・オールラウンド・プレイヤー思想。あらゆる戦型に精通。得意戦法は持たないほうがいい。良い戦法なら棋風にこだわらず使う。相手に自然に合わせる。自然体。
・知のオープン化。みんなで強くなる、進化・成長する。知識の共有が最適の戦略。知的財産権など権利関係がないおかげで急速に進化する。
・子供の頃好きだったxxから離れて長いけれど、心の片隅でxxを愛し続けている
・隠れファンだが、自分なりの貢献があり得る。ファンの裾野を広げ、豊かにしていく。グローバルな普及。観て楽しめるファンを増やす
・爛熟期は退廃の匂いを放つ男が英雄、草創期は禁欲の匂いを放つ男が英雄(阿久悠)
・ビジョナリー:凡人には見えない未来をイメージし、そこに向けて第一歩を踏み出している人たち
・常識を疑う、問題提起、革命を起こす、自由、変化に対応
・第一人者の態度や姿勢がその世界の雰囲気を作る
・最後は創造力の勝負。何もかもがコモディティ化していく時代
・将棋に見る無限の広がり、奥深さ。ルールによって行動が規制された小宇宙
・一手指した瞬間に自分の選択権はなくなる。制約のある中でベストを尽くして他者に委ねる
・プロ同士はわずかな差で戦っている
・未来を先取りした酔狂な人体実験
・見巧者(みごうしゃ)。語りの豊潤な言葉
・勝てるものがある、人間としてどこか勝てるものがあれば(相手は)全然怖いことない
・物事をさっと決めてその責任を引き受ける潔さ
・安易な結論づけを拒む
・シリコンバレーの経営者のタイプ:物静か、芯が強く、社会性もある。若き日の膨大な時間を投資して技術を究める。そのあと総合力を発揮
・頂点を目指す真剣勝負、本気でやり続ける気概
・才能とは結局は努力のこと。迷ったら積極的にいく(渡辺明)
・将棋を通して表現する
・棋士には勝負師と研究者と芸術家の3つの側面がある
・わからなくて曖昧なものを永遠に考え続けられる者が勝つ
・一番最後に残るのはプロセス。過程で何を成し遂げたか。進化のプロセス
・何か違う発見がある、違う道が見つかる、可能性を探し続けていく
・超一流=才能×対象への深い愛情ゆえの没頭×際立った個性

-目次-
はじめに ――「指さない将棋ファン」宣言
第一章 羽生善治と「変わりゆく現代将棋」
第二章 佐藤康光の孤高の脳 ――棋聖戦観戦記
第三章 将棋を観る楽しみ
第四章 棋士の魅力 ――深浦康市の社会性
第五章 パリで生まれた芸術 ――竜王戦観戦記
第六章 機会の窓を活かした渡辺明
第七章 対談 ――羽生善治×梅田望夫