読書メモ
・「「素人以上プロ未満」のための経済・金融入門 〜今がわかるニュースの読み方」
(五十嵐 敬喜:著、東洋経済新報社 \1,600) : 2010.11.12
内容と感想:
著者はテレビ東京のWBSなどの出演でもご存知のエコノミスト。
本書は経済や金融、マーケットを「もう一段深く」理解したいと思っている人のために書かれた。
応用問題も自分で考えられるようになるのを狙いとしている。
経済のメカニズムを分かりやすく解説している。
結論の至る道筋を大事にし、「なぜ」をきちんと分かりやすく説明することを心がけたと「はじめに」で書いている。
テレビでの語り口からも伝わってくる人柄がこの本の中からも伝わってくる。
2007年に出た本なので、少しデータは古いが、これぞ本当の「日本経済」の教科書といっていい良書だと思う。
「あとがきに代えて」では、学者やエコノミストの著書や論説を読んだり聞いたりする際に、「彼らがどんな道具立てで、どんな理屈(論理)で結論を導いていくのかを学ぶ」
ことは勉強になると言っている。論理的思考を身に付けるためにも良い本だ。
本書では相場の動き、ドル暴落の懸念、世界の資金の流れ、日本の金融政策、日本経済・社会の課題、経済成長のための政策など幅広く話題を取り上げている。
著者はデフレ脱却策について第6章で次のように書いている。
「短期間にインフレを起こす(デフレを解消する)政策はありません」と。拍子抜けしてしまうが、既に第5章で2006年5月以降の局面を見て、「日本経済はデフレからほぼ脱却した」
と書いておられるから、この時点ではまさか再びデフレに陥るとは想像できなかったのかも知れない。
インフレターゲット論については、日銀は「消費者物価上昇率が中長期的にゼロから2%の範囲に収まっていることが望ましいという見解を明らかにしていることで十分」だと述べている。
しかし口先だけではインフレ期待は高まらないであろう。本格的なデフレ対策が急務である。
○印象的な言葉
・予想(経済学的には期待。expectation)が相場を動かす
・投機は市場に不可欠な役割
・外貨準備は使えない。日本の外貨準備は為替介入を繰り返した結果積みあがった。対外資産(米国債)が増えた分だけ対内負債(外国為替証券という短期国債)も増えている
・為替介入の主体は日本政府
・国内外の金利差より為替変動リスクが大きい
・インフレ率の高い国の通貨が弱くなりやすい
・ごく近い将来の予測は困難。トレンドを正しく予測できればよい
・米国に流入している証券投資の9割以上は債券。株式はわずか。
・投資期間を5年、10年と長く取ると金利差益の累積も大きくなるため、為替変動リスクを十分しのぐ可能性もある。
10年債で利回り4%では為替リスクを考えると採算がとれない。海外投資家からみて米国の投資が割安になるためにはドル安にする必要がある。
・貿易収支:輸出入の差額。これに金利や配当金の受払いんあど貿易害収支を加えたものが経常収支。米国の経常収支赤字の9割以上は貿易収支。
足りないお金は海外から借金した、投資してもらっていた。
・米国の「双子の赤字」(経常収支赤字と財政赤字)という表現は不適切。財政赤字は経常収支赤字の一部だから
・人民元の大幅な切り上げをすると立ち行かなくなる競争力の弱い国内企業が数多くあり、わずかな切り上げでも収益に大きなダメージを被る。中国の輸出の6割は外資系企業によるもの。
・日本の中国からの輸入の大きさはGDPの1.6%にすぎない。中国製品のせいで日本がデフレだという議論は誇張
・オイルサンド:採掘コストが1バレル当たり40ドル。原油価格より低いなら採算がとれる。ただし大量の産業廃棄物が出る
・日本に流入する資本の大半は株式
・財政政策には3つのタイムラグが付きまとう:必要性を認識するまで、政策を実行するまで、政策の効果が現れるまでのラグ
・信用創造機能:銀行は無から有を生じさせることができる
・(インターバンク市場の)不胎化:短期国債を銀行に売って、増えた日銀当座預金を吸収するオペレーション。預金をそのまま放置するのは「非不胎化」
・65歳以上の高齢者人口は今後も増え続け、2050年を過ぎてようやくピークを付ける。少子化は人口の年齢構成をアンバランスにする。その問題はこれから数十年に限った問題。
・新しい成長産業:少子高齢化に伴って増える需要に応えるサービス産業。製造業でもサービス業的要素が加わったもの。サービス業もIT活用により生産性向上が期待できる。
提供するサービスの質の向上、付加価値(収益)を高めることができる
・郵政民営化は新会社が税金や預金保険料を支払うようになるので財政に貢献する
<その他>
・米国の住宅バブル崩壊が始まった頃に出た本。すでに兆候はあったはず。本書執筆時点では著者は米国は住宅市場はバブルだとの認識がない
-目次-
第1章 「予想」が左右するのが相場
第2章 くすぶり続けるドル暴落の懸念
第3章 世界を飛び回るマネーの正体は何か
第4章 「失われた10年」から立ち直った日本経済
第5章 デフレ脱却後の日本経済の新たな課題
第6章 異常な経済の異常な金融政策
第7章 少子高齢化に直面する日本経済
終章 日本経済は成長を持続できるか
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