読書メモ
・「日本は「侵略国家」ではない!」
(渡部昇一、田母神俊雄 :著、海竜社 \1,200) : 2010.04.07
内容と感想:
本書は元・航空自衛隊幕僚長の田母神氏が懸賞論文がきっかけで更迭された(2008年10月末)のを受けて、
その田母神氏本人と、論文の審査委員長を務めた渡辺氏が急遽、共著で出した本である。
この騒ぎはマスコミでも話題になって多くの人が知っていることであろう。
その論文の内容は過去の日本の戦争をめぐるものである。
更迭の理由は、その歴史認識が政府見解(いわゆる村山談話)と異なるものであったからのようだ。
田母神氏の「大東亜戦争は侵略戦争ではなかった」という論文の主張に対し、マスコミは彼を叩く論調が大勢で、朝日新聞のように「侵略を正当化」とねじ曲げるところすらあった。
渡辺氏もこの件は行き過ぎだとの印象を持ったようだ。一企業が企画・募集した論文ながらも、それは最優秀賞を受賞した。
渡辺氏は「受賞に至った十分納得できる理由を伝える義務」があると、本書を出すに至った思いを述べている。
論文の出来が酷いわけでも、幕僚長の立場を逸脱する内容であったわけでもないのだ。
それどころか渡辺氏は、その論文の内容は「防衛音痴に陥っている日本人の意識改革に裨益するところ大だろうと喜んで」すらいる。
国防の最前線にある当事者としての見解・訴え・決意であると氏は認識している。
また、「個人がどのような歴史観を持とうと全く自由」と百地章・日大教授が産経新聞に書いたものが付録として掲載されている。
つまり今回の騒動の問題点は、憲法に書かれた言論の自由、思想・信条の自由に反するものであったことだ。
この更迭劇があって定年退官となった後、田母神氏はますます盛ん。
本も出し、講演会にも引っ張りだこで、真実を渇望する人々が増えているようだ。
ある意味で彼は成功したのかも知れない。世論を喚起し、日本を変えたかも知れない。
巻末には問題の論文も掲載されており、また、これに対する東大名誉教授・小堀桂一郎氏が産経新聞に書いた評論も載っている。
小堀氏は田母神論文は「教科書として使うのにうってつけ」とまで評価している。
論文中の「戦わない者は支配されることに甘んじなければならない」という言葉は重い。
日米開戦していなければ、結果として日本は植民地になっていたかも知れないと彼は考えている。
また、今のままでは「我が国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない」、
その間にも「日本のアメリカ化が加速する」、アメリカ主導の「改革のオンパレードで我が国の伝統文化が壊されていく」と現状を憂えている。
先の小堀氏も百地氏も村山談話の破棄・撤回こそが国民の名誉と安全を守る、という立場である。
国民の皆さんにはマスコミに踊らされて個人を叩いたり、軍国主義だなどと非難するようなことは止めて、是非、本書を読んで何が正しいのか、今、何をすべきか判断してもらいたい。
○印象的な言葉
・勉強不足、無知が国を危うくする。専門家の怠慢
・防衛監察という名の思想弾圧。これは憲法違反
・日本は安全保障・自衛のために戦ったと、マッカーサーも言っている
・張作霖事件の首謀者はソ連のコミンテルン。盧溝橋事件を仕掛けたのも中国コミンテルン。盧溝橋事件は日中戦争の発端ではない。一旦は停戦合意された。
日中戦争の発端は第二次・上海事変。
・20世紀の世界史の実相は概ね田母神論文どおりだった
・田母神論文のテーマは一言で言えば「日本はいい国だ」。その論文が否定された。国家が行なった思想差別。個人の思想・信条を糾弾した。
いわゆる村山談話にも触れていない。
・マスコミが一色に染まるとき、たいてい間違いを犯すとき
・自国の歴史を語るのに他国に気兼ねする必要は無い
・日本だけが侵略国家だと言われる筋合いは無い
・かつて日本の植民地だった地域は日清・日露戦争の結果、合法的に手に入れた権益。大国ロシアに対する防衛策でもあった
・ソ連のコミンテルンに操られた蒋介石が執拗に日本に対して攻撃をしかけてきた結果、日中戦争に発展した
・第二次大戦以前は戦争を「国家として実行した場合、実行者個人は免責される」とされていたが、東京裁判では日本の指導者は刑事責任を問われた。事後法禁止の原則の無視。
東京裁判は日本という国を裁いたのではなく、戦争に導いた個人を裁くものだった。
・戦争とは国際法上、認められた一種の外交手段。一方だけが悪いということはない。ドイツを裁いたニュルンベルク裁判ではドイツ侵略国家とされなかった。
・ハル・ノートはコミンテルンの影響下にあったアメリカ財務次官の意向が反映された
・日本人は労働に幸福感を覚える民族
・「紫禁城の黄昏」(レジナルド・ジョンストン)は当時の満州の状況を伝える。映画「ラストエンペラー」の原作。
・サンフランシスコ講和条約で日本の賠償問題は終結している。戦犯もみな無罪となった。国際法上、戦争は講和条約によって終了し、戦争中のことはご破算となる。
・河野洋平、森喜朗、加藤紘一らの前代未聞の「お詫び政策」が国家100年の計を誤る「村山談話」につながった。
「お詫び政策」は国民の反対にあい国会で決議されなかったにもかかわらず、談話として発表された。
・アメリカによる、日本人に戦争の罪悪感を植え付け無力化させる政策
・公職追放により、戦前追放されていた人たちが代わりに大学等に戻ってきた。左翼系の人々。
・誇りある国として自覚を持ち、他国から尊敬される国になる
・リーダーは三箇所に3つの精神を持つ。頭にマインド、胸にハート、腹(胆)にガッツ。マインドで考え、ハートで同情し、ガッツで行動。
・近衛内閣ではソ連の指示を受けていた尾崎秀実がブレーンの一人だった
・軍事の専門分野は軍人に任せるのが常識
・吉田茂も佐藤栄作も、戦争について外国に対して謝る気はなかった
・日本の満州統治以降、満州の人口は増えた。豊かで治安も良かった。朝鮮半島も同様。
・大坂、名古屋よりも先に朝鮮半島や台湾で帝国大学を開校。朝鮮人も中国人も陸軍士官学校への入校を認めた。蒋介石も李王朝最後の殿下も士官学校を卒業。
・第一次大戦後のパリ講和会議では人種差別撤廃を条約に盛り込むよう日本は主張。
・(自虐史観、自省史観は)当時の我が国の指導者はみんなバカだったと言わんばかり。死んだ人は犬死か。
-目次-
序にかえて 「評論家」ではない「現場」からの発言に意味がある
プロローグ 空幕長解任劇でわかってきた重大なこと
第1章 無知と鈍感さが露呈した批判の論点
第2章 日本を危うくする「村山談話」の呪縛
第3章 「文民統制」に潜む危険な罠
第4章 優れた武人を育てた日本の伝統
第5章 国防に甘え・予断は許されない
あとがきにかえて 自分の国を自分で守る覚悟
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