読書メモ
・「日本人の精神と資本主義の倫理」
(波頭亮、茂木健一郎:著、幻冬舎新書 \720) : 2010.09.02
内容と感想:
ご存知、脳科学者の茂木氏と経営コンサルタントの波頭氏の対談集。
本書はタイトルにもあるように「日本人の精神」と「資本主義における倫理」がテーマである。
今の日本人のメンタリティに多くの問題があるという点で二人の著者は一致している。
2007年に出た本で、裏表紙の抜書きには「ライブドア・村上ファンド事件」という、
今では懐かしい響きのフレーズが出てくるが、ある種の日本人の精神の荒廃を象徴したものとして
取り上げている。今なら、さしずめ金融危機を引き起こした強欲投資銀行や強欲サブプライムローン・ブローカーと言ったところだろうか。
二人の対談では拝金主義的な風潮であったり、反省のなさであったり、今の日本人の問題点をずばずばと批判している。
居酒屋談義よりは少し次元の高い対談になっているが、言いたい放題である。
第三章で茂木氏は自分たちは「絶滅危惧種」みたいな存在だと言っている。
確かにお二人はそれぞれの分野でご活躍され、世間からも一定の評価をされている。
しかし全ての日本人が彼らのようには生きられないだろう。だからこそ彼らは稀少なのだが、
みなが彼らの真似をしても食っていけるかどうかと言えば疑問だ。
私にはたわ言に聞こえる。
結局、今後日本人はどこへ向かうべきなのかは私にはよく分からなかったが、「あとがき」で波頭氏が書いているように、
読者はこの対談から「気付きを得ろ」、というのが二人のスタンスのようである。
残念ながら私は得るものはなかった。
○印象的な言葉
・人間の脳は嬉しいこと、成功体験を通してこそ変わることができる
・プロフェッショナルは使命と責任を負っている
・無個性な日本人
・アメリカを進歩させたのは怒り
・金銭欲を満たした金持ちが、次に欲しがるのは名誉。彼らから寄付を引き出す
・日本には本質的な意味での心の平安を支える宗教が根付かなかった
・卑しさと無知から出る大衆の横暴に対して、頑として譲らない層がある
・働きもしない人間が福祉、福祉とたかるから国が傾く
・ハイレベルなものに触れ、味わい楽しむ、敬意を持つ
・危険なモノカルチャー。単一の原理だけで動く世の中。拮抗する強力な軸が別に必要
・自己反省のない日本人。反省のない日本。よく言えば「桜の文化」。失敗は忘れ、切腹が全ての総括になる
・ハイカルチャーが消えた
・世界一かも知れないと思わせる凄みに到達して初めて個性と言える
・個性的であることを抑えつける今の日本人の自己抑制。家康は個性を徹底的に抑圧した。心の刀狩をした。出る杭を打つ社会の仕組みを完成させた
・反常識的な解釈や情緒論を切って捨てる現実論も大きな価値を持つ
・大衆の感情は尊重するが、迎合しない
・冗談が通じるかどうかは、教養の度合い、民度の問題
・小津安二郎の映画は日常的でありながら哲学的
・今は経済自体が目的化している
・哲学は総合科学。世界は総合科学、総合学問の時代にもうとっくに入っている
・現代社会の複雑化に伴う新しい職業の発生。(→xxコンサルタントが増えていく)高度で特殊な知識や技術が必要、専門性が高い
・X理論:単純作業のほうが能率が上がるとするもの
・Y理論:複雑な仕事のほうが自発的動機付けが触発されて生産性が上がるとするもの。自主的な創意工夫を生む
・エントロピーが増大している。かつては10万年で発生していたエントロピーを今はたった一年で生み出している
・アジール:権力や世俗の介入を拒む聖域
・現象やテーマを総体として、システムとして捉える視点と学問体系が日本にはない。コーティネートして価値を生み出す。職人文化、職人気質の弊害。
-目次-
第1章 「大衆というバケモノ」が野に放たれた
第2章 個性とテレビメディア
第3章 資本主義を生き抜くためのビジョンと総合知
第4章 格差を超えて
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