読書メモ

・「経済成長という病 〜退化に生きる、我ら
(平川克美:著、講談社現代新書 \740) : 2010.09.19

○印象的な言葉
・時代の表層に浮遊せず、自らの感性をたのみ、覚悟を持って時代の変化の中心へ飛び込む
・欲望を肯定する「威張った」言説が、「バカな」人間だけによって流布され続けたのではなく、誰もが嬉々として受け入れた
・人間は欲望によって駆動されていると同時に制御する存在。バランスが問題。欲望に振り回される姿は無残
・何ものも永遠に成長し続けることはできない
・光と影は対立するものではなく、立ち位置によって変化する。ひとつのものの両面
・誰もが「事件」の外部にいたわけではない。どこかでこの時代の加担者だった
・不運と不幸の中から「これでよかったじゃないか」というものを見出す
・わかるとは因果関係を知るだけでなく、因果に自分が果たした役割を認識すること
・我々は退化したものを直視することを避けようとラットレースのような競争を続けているのか
・アメリカ社会には致命的な歪みがある。過剰と空疎のアンバランス
・アメリカは家と家の間の距離が大きすぎる(リービ英雄)。不自然。ヒューマンスケールを無視して作られたフィクションでは?(→不安が隠れている)
・アメリカには基底がない。社会が長い歴史の中で培っていく、温床のようなもの、セーフティネットがない(→共同体)
・アメリカが覇権を正当化するにはフィクションが必要だった。自由もチャンスも平和も社会の根本に欠けている。それを隠蔽するための正義。
・騙しあいの世界の金融ビジネスに玄人と思っていた連中が素人同然の覚悟しかもっていなかった。素人が玄人の真似事をして虚勢をはっていた
・専門家が見誤るのは、ときの枠組みが作った言葉で考え、その価値観で判断しているから
・統計学的な数値に頼った分だけ、統計にできない重要なファクターを見落とす可能性。データ予測と自らの願望が結果を過たせる
・日本人は野球に道徳概念、ビジネス経営、会社組織内の役割分担を投影(船橋洋一)。日本の野球は様々な精神的教訓を引き出す競技として発展。 近年、野球が情熱と創造力を失ったのは、中途半端にアメリカ流のシステムを導入したため、情熱や価値観が分断されたため。
・ウォルマートの巨大化プロセスは、アメリカそのものの未来を象徴
・人口520万のフィンランド、900万のスウェーデンなど北欧型の福祉国家モデルを、一億を越える日本にそのまま適用できない
・アダム・スミスの頭にあった市場とは英国国内だけか、欧州近隣まで。あくまで国民国家の枠組みの中。
・利益確保のためのコストダウンの方策として法律すれすれの行為をおこなう企業(→そこまで追い詰められている)。偽装が発覚した企業は下手をしてしくじっただけかも。 誰もがこうした事件の当事者になりうる。
・株式会社の所有と経営が分離した瞬間に倫理観も分断される
・平穏無事な人生よりリスクの多い生き方に価値を見出す。将来の成功に向かって自分を企投(挑戦)する。運に身を任せる。立ち位置を認め、引き受ける。 結果だけを追い求めては、ビジネスの面白さは見えなくなる。プロセスが人を惹き付ける
・ホスピタルティ:そこに金で買えないものがある。価格に表示できない意外なサービス
・我々は裸の状態で有していた力を遥かに凌駕する能力や機能を獲得した。同時に、同等の何かを喪失していかも知れない(→今から見れば超能力に見えるもの)
・コミュニケーションの利器が、ディスコミュニケーションを加速させる
・時代を変化させる最も手っ取り早い方法は、時代を風靡するような言葉を創ること
・教育の現場にビジネスの価値観を導入すれば、利につながらない学問は必ず貶められる。そうした価値観でしか考えられない生徒を大量に再生産する。
・無意味さ、ナンセンス、下らなさこそ、笑いの命。ひねった解釈、本歌取りの面白さ、風刺・諧謔の巧みさは思考回路や常識を揺さぶる。世界が反転するのようなナンセンス。
・一人の英雄によって世界が救われるような幻想を我々が持ったとすれば、それは民主主義を放擲すること(→小泉劇場を見る限りでは愚民はそれを求めていた)
・原因究明とは異質なもの、異常なものの摘出。前提は全体は健康であること。もし全体が病んでいるとしすれば意味をなさない
・我々は事件の真相を究明することで彼を社会から切断しようとしている。どうやったらつなぎ直すことができるか考えてみる必要がある
・出生率は低下しているというより、自然状態へ回帰しているというべき。人口減少社会は必ずしも暗いものではない。人口増加社会が持っていた多くの問題を解決する。
・人口減少は経済成長を鈍化させる原因ではなく、経済成長の結果
・経済が成熟期を迎え、経済成長を前提とした国家戦略も企業戦略もこれから先、現実との乖離を大きくするだけ。既に老いを迎えているのに若者に羨望し、大人になりきれない子供のよう。
・若さが常に正しく、老いが退行で、忌むべきものとは限らない
・成熟こそが我々が若さと引き換えに得た貴重な資産

<感想>
・我々は事件が起きるたびに、自分がどこかで加担したような後ろめたさを感じ、ゆえに犯人を極刑に処することに躊躇する
・「特殊な時代状況のせい」と、我々はどこか他人事
・常に悪者探しをしている我々
・過剰な正義感
・労働者派遣法の施行で若者はすすんで派遣労働を選んだ。本当だろうか?法律の策定にどれだけ関与したというのか?時の政権を支持したのだとすれば加担していたことになる。

-目次-
序章 私たちもまた加担者であった
第1章 経済成長という神話の終焉
 リーマンの破綻、擬制の終焉
 宵越しの金は持たない ―思想の立ち位置
 専門家ほど見誤ったアメリカ・システムの余命
 経済成長という病
 グローバル化に逆行するグローバリズム思想
 イスラムとは何でないかを証明する旅
 「多様化の時代」という虚構 ―限りなく細分化される個人
第2章 溶解する商の倫理
 グローバル時代の自由で傲慢な「市場」
 何が商の倫理を蒸発させたのか
 私たちは自分たちが何を食べているか知らない
 街場の名経営者との会話
 寒い夏を生きる経営者
 ホスピタリティは日本が誇る文化である
第3章 経済成長という病が作り出した風景
 利便性の向こう側に見える風景
 暴走する正義
 新自由主義と銃社会
 教育をビジネスの言葉で語るな
 テレビが映しだした異常な世界の断片
 雇用問題と自己責任論
 砂上の国際社会
 直接的にか、間接的にか、あるいは何かを迂回して、「かれ」と出会う
終章 本末転倒の未来図