読書メモ
・「さらばアメリカ」
(大前研一 :著、小学館 \1,500) : 2010.06.06
内容と感想:
サブプライム危機で世界不況の元凶となり、イラクでは大義なき戦争を始めた、
新自由主義のもと金融界と癒着しインサイダー化したジャーナリズムは地に落ち、
冷戦後に唯一の超大国となった傲慢さは世界に反米意識を高めた。
そんなアメリカに著者は「さらば」と言っている。
本書はアメリカを悲観的に見て書かれている。金融危機でアメリカの「失われた10年」が始まったと考えている。
しかし、英語でのタイトルを「So long,America! until you come back to yourself」としているように、
「永遠にGoodbye」といっているわけではない。
多くの批判を行なっているが、最後はブッシュから代わったオバマのアメリカに対して、復活のための提言も行なっている。
リーマンショック後の2009年2月に出た本で、第6章では「恐慌回避」のための処方箋も示している。
「エピローグ」ではアメリカの復活の条件として次の3つを挙げている。
世界に対して謝る、世界の一員になる、戦争と訣別する。
詳細は措くとして、一方で米国に対する日本の状況にも触れている。
日本の官僚は職能が細分化され小粒、政治家は勉強不足。
ビジョンのある為政者がいないため、「日本はその日暮らし」だと言っている。
日米関係は今後も大事にしていく必要はあるが、「従米」ではなく「真のイコール・パートナー」となるべく、
外交スキルも高めていかなければならない。安全保障に関しては未解決の普天間基地移設問題が大きい。
この問題で鳩山内閣は退陣したが、国民の信頼も米国の信用も失うようなお粗末なことは次の内閣には繰り返して欲しくない。
次の参院選では安全保障政策は争点に上がってくるだろうか?国民の関心が低い分野だけに、各政党も力を注がない。
日米同盟を含め、今後の国防をどうしていくべきか議論が盛り上がらないのは残念だ。
○印象的な言葉
・サウジアラビアに頼る中東政策の矛盾。イラクで民主化を叫びならが、サウジは王制で民主化していない。王族が富を独占。経済は無策、国民の教育にも無関心。
・驕り出したジャーナリズム。持てる者=インサイダーになった記者。
・CNN報道の9割はジャンク。米国の世界観を移す鏡。存在感を失った。傲慢、押し付けがましく嫌味。役に立つのは米国国内の政治問題と中東問題くらい。
・外敵がいないと結束できない国民
・米国の強さの秘密は大学にあり。世界から優秀な人材を集める。卒業生は寄付を続ける。
・地球破戒者との戦争
・オバマは富の創出より富の分配に力を入れる
・米国の失われた10年が始まった
・米国政府はシティグループの不良債権を保証。その売却額も予想できないのに。それで出た損失は国民のツケになる。
この事実に対してジャーナリズムは沈黙。
・米国の個人消費の半分が住宅
・米国のTV番組やCMには視聴者の不安を煽り、不安心理に付け込んで商売しようとするものがある
・米国の国防方針は「攻撃的防御」
・防衛産業は台湾よりも中国が上客になった。旅客機など民間航空機を含む。
・マイルドな中立の立場で分別のある意見を持った人がいなくなった
・ベトナム戦争以前の大統領は中西部出身者が多く、それ以降は南部出身者が多い、南部の主要産業は農業・石油・軍事。
南部サンベルト。北緯37度以南の地域。米国でも新興地域。近年繁栄するも歴史も浅く伝統もない。
・米国は核兵器以外の破壊力の大きい通常兵器の開発に注力し、ロシアや中国より10年先を行く。アフガン、イラクでその威力を
目の当たりにした他国は誰も米国とは戦いたくない。
・イラク戦争のときはベトナム戦争のときのような反戦運動が燃え上がらなかった。かつてのような復元力が乏しく、危機的。
・世界中のテロリストの起源は大半は米国。途中から反米になっていく
・アメリカの記者は個人意見を書く。それが実績になる。
・ウォールストリートジャーナルはウォールストリートの広報誌に成り下がった。記者はアナリストとべったり。
・ジャーナリズム界は他のインテリ層と同様、ユダヤ人比率が高い。
・冷戦という名の第3次世界大戦
・米国は何らかの役割を担って緊張し、ハイになっていないと堕落してしまう国。生活が豊かなため、世の中が弛緩すると若者が努力しなくなる。
・民主党と共和党には大きな対立軸がない(→日本は二大政党制を目指すべきなのか?それでいいのか?)
・国防分野での無駄遣い。見えない敵との戦いでは情報操作しやすい
・カスカディア構想:北米西部のカナダ、米国の州の地域国家。21世紀は太平洋の時代。
・新しい金融商品はテストしてから開放すべき。国際的な金融商品品質検査機関が必要
・人命にかかわる食糧だけは投機の対象にしないルールを作れ
・世界的な流動性提供機構の創設。IMFに代わる為替防衛システム
・トウモロコシはバイオ燃料化効率が悪い。スイッチグラスは効率的。エレファントグラス。
・グーグルは情報の流れだけでなく、カネの流れ(決済)、モノの流れ(デリバリー)も支配しようとしている
・国連も世銀、WTO、IMFも機能していない。
-目次-
プロローグ オバマ政権誕生 ―それでも私が悲観的にならざるをえない理由
第1章 「無責任の連鎖」が止まらない
第2章 不寛容なアメリカ「終わりの始まり」
第3章 拡大する“反米・嫌米”包囲網
第4章 アメリカン・ジャーナリズムの落日
第5章 敵国なき時代 ―オバマ外交の連立方程式
第6章 「恐慌回避」のための処方箋
第7章 属国か独立か ―日本の選択
エピローグ さらばアメリカ ―この国を蘇生させる三つの条件
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