読書メモ
・「マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術」
(松藤民輔 :著、講談社 \1,600) : 2010.07.11
内容と感想:
リーマン・ショックの直前、2008年7月に出た本。
既にベア・スターンズは救済買収されていた時期で、本書でも既に金融恐慌の入り口にあることを指摘していた。
本書は当時の世界経済状況を分析し、アメリカ、中国、中東のその後についても占っている。
そして、自身、金鉱山のオーナーとして、他の著作同様、この恐慌を逆手にとって金に投資しろと薦めている。
第四章では巨額の運用資金を持つ日本の年金積立金管理運用独法に対して警鐘を鳴らしている。
「日本の政府系投資ファンドは欧米金融機関やヘッジファンドなどとは提携しないことだ」と。
中東産油国の政府系ファンドように「結果として合法的に収奪され」てしまうというのだ。
実際に中東や中国、シンガポール、韓国らの政府系ファンドが米国の大手金融機関を救済するために、ドル防衛のために、
また自らが持つ債権を紙屑にしないために、泣く泣く巨額の資金を投入している。
第五章では、
長期的なテクニカル分析からNYダウが「かなり大きな、しかも長期的な下落になる可能性が高い」と、
その直後に起きたリーマン・ショック以降の危機を予言するようなことを書いている。
「金価格は2200ドル台を目指し」ていると凄いことを書いているが、現時点では1200ドル前後と、
リーマンショック以前の高値よりも高くなっていることは確かで、トレンドとしては右肩上がりに上昇を続けている。
さぞかし著者としてはウハウハであろう。
金の上昇サイクルは20年だそうだ。当面は上昇するらしい。信じるか信じないかはあなた次第。
○印象的な言葉
・恐慌とはあらゆるプロが負ける時代。従来の投資法が通用しない
・金融機関のビジネスが縮小すれば契約書締結をはじめ弁護士を必要とする業務は激減
・米国モノラインの信用が低下したため、地方債を見る目も厳しくなった
・格付け会社のムーディーズの最大の株主はバークシャー・ハザウェイ
・英国の法人税の2割はシティに属する企業が払う
・アメリカ政権の中枢にはずっとマーケットの動きに敏感にならざるをえない人々がいた
・中国の上場企業の株式の7割が政府機関が保有。国有企業同士が株の持ち合いをしているため、流通株も少なく、株価が操作されやすい
・中国では2008年に労働者の権利を強化する「労働契約法」の施行により人件費が高騰する。
また、中国企業の法人税率を段階的に外資系と同じにする「企業所得税法」の施行で、中国の輸出型企業には逆風。
・脱中国:新たな投資先はインドネシア(石炭・石油など豊富な天然資源)、ベトナム
・北京近郊は砂漠化が進み、首都移転計画まである
・日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人。前身は悪名高い年金福祉事業団)は世界最大の政府系ファンド。運用資産残高150兆円。
・リアル・ゴールド・プライス:金価格を商品指数(CPI=消費者物価指数)で割ったもの。そのチャートが金融恐慌のサインを示していた
-目次-
第1章 動き出した「悪夢のシナリオ」
第2章 USBとベアー・スターンズの転落
第3章 宴の最中に始まった「中国パッシング」
第4章 絶望のドバイ
第5章 恐慌の錬金術 ―二〇二五年までは金と金鉱株の独歩高
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