読書メモ

・「強欲資本主義を超えて 〜17歳からのルネサンス
(神谷 秀樹:著、ディスカヴァー携書 \1,000) : 2010.11.03

内容と感想:
 
NYで投資銀行家として活動する著者は強欲資本主義の崩壊を間近に見て 大きな時代の「潮の変わり目」の中にあると感じている。 そしてサブタイトルにもあるような、17歳くらいの若い人に向けて伝えたいという思いが湧き上がり、 「世代間の対話」に関する社会貢献のためにと、本書は書かれた。
 著者は「潮の変わり目」となるのは経済はもちろん、社会構造、人々の価値観そのものが変わろうとしていると考えている。 「あとがき」でも書いているように、著者自身も「富と名声を求める時期」が長かったことを告白している。 そうした価値観も長くビジネスに関わっていく中で変わっていったようである。 その思いが、日本から新たなルネサンスを始めたい、「精神の復興」を図りたいという本書のテーマになっている。 歪んだ資本主義が世界中を覆っている中で、今後の日本の国防や、テクノロジーのありかた、価値基準の持ち方などについても考えている。
 リーマンショック以降、すっかり世の中は変わったように見える一方で、「強欲資本主義はいまだ死なず」という面もあるという。 「ゼロ金利政策と金融機関への大量の資金供給が投機家を元気づけ」、新たなバブルを生んでいるのだ。 「未だ原因の根本は未解決のまま残された状態にある」、「危機はまだ去ってはいない」とも書いている。 そんな状況だから、また、いつ経済危機が訪れるかも知れない。 大恐慌のとき二番底が最もきつい経済危機になったという。 そのときは刻々と迫ってきている、と著者は警鐘を鳴らしている。
 バブルがはじけてもゾンビのように再び蘇ってくる強欲資本主義者たちを悔い改めさせるには、どうしたらよいものか? 本書が言うように人間性の復興や倫理観の回復に繋がるように、一人一人が自覚し、あるいは発信し、正常な価値観を社会全体で共有できるよう努力していくことだ。 どんなに時間がかかろうとも、彼らの心の底に届くまでは。

○印象的な言葉
・早稲田大学の在野精神。お上(権威)に媚びることが嫌い
・価値競争力
・言葉が軽くなると、信用も軽くなる。安易な言葉が多過ぎる。言葉が大事にされなくなっている
・人口が減りゆく日本に内需拡大を求めるのはナンセンス。米国で売れなければ中国、インドで売ればいいというのも短絡的
・日本と韓国を別の市場と考えることは間違い
・資源も環境も有限。制限のある社会で無制限な利益の追求は成立しない
・今後は大企業はバラバラにされる。今のままではマンモスのように亡びる。環境に適応するものが生き延びる
・バブルが崩壊するたびになされた、低金利過剰流動性の膨張
・信用の輪の崩壊
・銀行には投機はさせない
・規制だけでは問題は解決しない。バンカー一人ひとりが行動を心の底から変えようとしない限りは
・2009年末時点でアメリカの住宅ローンの1/8が延滞と担保流れに引っかかっている。過去にない水準。クレジットカードローンなどの不良化比率も1割を超える
・米国の実質失業率は20%近い。デトロイト市の人口は90万人に半減
・中国国家主体バブルが次の経済危機を深刻なものとする
・経済危機が政治危機を招く。全体主義への回帰、世界各地での戦争拡大の恐れ
・5年もすれば大インフレが来る
・世界の金融機関の不良債権総額は3〜4兆ドル。今、一番問題なのは商業用不動産
・次はFHAとジニーメイという米国の国営住宅金融機関が惨事を起こすと懸念されている
・オバマ政権ではガイトナー財務長官の力が弱まり、ボルカー氏を金融制度改革の中心に置き始めた。オバマの取り巻きには財政、金融制度改革、戦争遂行などをチェンジしたくない 勢力が入り込んでいる。
・インフレ防止、景気維持、金融機関の監督の3つの役割は相互に矛盾・対立する
・CDSはどこの会社が潰れるかを賭ける投機手段
・米国の財政赤字が経済大惨事の元凶になる。今後5年間で9〜10兆ドルに膨らむ。誰も米国に金を貸さなくなったら、FRBがお札を刷るか増税以外ない。
・FRBは世界最大のゴミ箱になっている。総資産は2兆ドルを超えた。時価会計では債務超過になっている恐れ
・日本企業が中国市場で売上を伸ばしているのは価格の高い贅沢品の分野だけ
・成長は技術革新を通じてしかできない。社会の抱えるテーマを克服する個別具体的な新商品やサービスを開発していく
・一つの文明の終焉となった今、老子を読む(堀文子)。老子は力ずくの争いを批判し、原始素朴の無私無欲の世を理想とした。
・物質主義的な文明は人間を奴隷へと押し下げる。物や、経済組織、生産機構、生産物の奴隷(ヨハネ・パウロ二世)。自由を求めてきたはずが、いつの間にか、 自分たちが生み出した物質や制度の奴隷になってきた。
・「人間の尊厳」が規範の中心になければならない
・社会環境の再構築:人が互いに信頼し合い、助け合い、いたわり合い、一緒に子供を教育し育てる社会
・イラクとアフガンでの戦争で何千人もの米国の若者が死に、何万人もの人が心身に大きな傷を負っている。帰還兵のうち13万人がホームレス。
・イランが核兵器を持ったとき、イスラエルは先制攻撃する。イランは2010年内には核兵器を持つ
・テロリストの収益源はコカイン。それを大量に買って、彼らにお金を渡しているのは米国など先進国にいる常習者
・戦争に自衛隊が派遣されるようになった。今後、なし崩し的に戦争への参加へと進む可能性がある
・米国の軍事的覇権は経済の衰退とともに衰退。日本の選択肢は永世中立。それには武装を伴う。武装中立とは国民皆兵を伴う。
・クエーカー教徒:米国を開拓した大きな勢力の一つ。殺生を禁じている。徴兵を忌避する(法律で許されている。代わりにボランティア活動をする)。 ネイティブ・アメリカンの土地は必ずお金で買った。
・軍隊ではテロリストには勝てない。テロリストと戦っても、搾取と貧困が撲滅され、教育が施され、コカインの栽培が止まるまで平和は訪れない
・ベルリンの壁は東ドイツのキリスト教徒の人々の非暴力によって崩壊した
・良い言葉を送るには良い言葉を探す時間も必要
・情報機器の進歩がかえって人と人とのコミュニケーション力を弱めている
・分かりやすい文章の書き方:例・例・個人的エピソード
・TVのようなマスメディアでは辻説法の代替はできない
・文明の利器は時によっては社会そのものを壊しかねない。必ずしも社会の進歩に繋がらない
・アーミッシュ:文明の利器の導入に厳しい制限を設けている。テクノロジーそのものは悪ではないが、それを手なずけることが出来ないのであれば伝統を損なう。 自動車も禁止。行動範囲が広がり、外部の価値観が持ち込まれると人々の結び付きが弱まるため。農業以外の職種を持ち込まない。新しい職種があぶく銭をもたらし、 労働倫理を侵食するから。彼らの社会は極めて安定し、ホームレスも失業者も生活保護者もいない。刑務所に収監される者もいない。本「アーミッシュの赦し」
・価値基準「真・善・美」。真の愛、善き心、聖なる美
・本「一万年の旅路」。ネイティブ・アメリカンのイロコイ族の口承史。
・世界の30大銀行がそれぞれ一兆ドル単位の資金を持つ。大きすぎて潰せない
・投機家への資金供与を圧縮すること、預金者から金融機関への所得移転を止めること、金融機関に民間への資金供給を拡大させること
・私たちのしてることは大洋の一滴の水に過ぎない(マザー・テレサ)
・市場の実態は、人間がコンピュータの発注する売買取引に翻弄されている以外の何ものでもない。機械に使われている哀れな人
・中国は北朝鮮が崩壊したとき、韓国との併合よりも、自国との併合を望む
・平和こそが世界政治の究極の目的

-目次-
はじめに
第1章 潮の変わり目
第2章 リーマン・ショックとは何だったのか?
第3章 強欲資本主義はいまだ死なず
第4章 さらば、強欲資本主義 
第5章 戦争と平和
第6章 文明の進歩について
第7章 どんな価値基準をもって生きていくのか? 
第8章 きみたちの時代に向けて
あとがき