読書メモ
・「ゴーマニズム宣言SPECIAL 「パール真論」」
(小林よしのり :著、小学館 \1,600) : 2010.08.04
内容と感想:
東京裁判で唯一、「A級戦犯全被告無罪」、すなわち「日本無罪」を主張したのがパール判事(インド代表)だ。
パールは「東京裁判」そのものを否定した。
本書は「パール判決書」が正しく理解されていないことに疑問をもった著者が、
パール判事の主張を読み解き、世の中の正しい理解につながることを願って書かれた。
発端は「パールが東京裁判を一部認めていた」という妄説がまかり通るようになったことで、危機感を持ち、
デマは火の小さいうちに消し止めなければと考えたようだ。
歪んだ解釈をしている学者たちを容赦なく批判している
判決書の全文も読まずに勝手に解釈し議論している学者たちの姿勢を許せなかったようだ。
2007年から2008年にかけて、「SAPIO」誌や「正論」誌で繰り広げた論争を一冊にまとめたのが本書である。
本書の第21章では全文の要約まで行なっている。
パールが「無罪」を主張した理由は、東京裁判が事後法で裁いた単なる戦勝国による復讐の儀式でしかなく、当時のグローバルスタンダードにも反していたことだ。
第14章にもあるように「パール判決書」は「東京裁判の判決書」ではない。
東京裁判の判決書に対する「反対意見書」である。その最重要論点は「共同謀議不成立の論証」であり、意見書の半分以上を占めている。
A級戦犯たちは「共同謀議」の容疑で起訴されたのだが、パールは共同謀議がなかったことを証明している。ゆえに東京裁判もA級戦犯も成立しないと結論づけたのである。
結局、東京裁判は戦勝国が敗戦国を一方的に裁いたもので不当なものであった。これと同じ裁判はイラク戦争の後でも見られた、全く反省がない。
戦勝国が下した判決により多くの戦犯が有罪とされた。しかし当時は日本と欧米は同じ穴のムジナだった。
戦争に負けたから日本は裁かれる側になったが、それをもって我々日本人が罪悪感を持ったり、卑屈になったりする必要はないのだ。
日本は法的に無罪ではあっても道義的責任はあるとパールは言っている。多くの人命を奪ったことに対する責任は逃れられない。
しかしそれはお互い様であり、アメリカは無差別で非人道的な原子爆弾を2個も日本に落としたのだから。戦争にどちらか一方が悪いなんて単純なことは言えない。
どちらにも正義があり、だから始末が悪いのだ。
○印象的な言葉
・南京虐殺は中国国民党が欧米の記者や宣教師を利用して作り上げたプロパガンダだった
・パール判決は日本への同情ではなかった。正義を貫こうとしただけ
・日本人が過去の戦争において罪を犯したと錯覚に陥ることは民族自尊の精神を失うもの。自尊心を失った民族は強大国に迎合する卑屈なる植民地民族に転落する(パール)
・A級戦犯被告が起訴された行為は全て国家の行為。被告らがなした行為は全て政府の機構の運用にあたってなしたもの。彼らは正当にその立場に就いたのであり、
不正な手段で権力を奪ったのではない。当時、日本の憲法は完全に機能を発揮していた。
・日本と欧米は同じ穴のムジナだった。日本は法的に無罪でも道義的責任はある
・パールは11人の判事の中で国際法の知識の裏付けを持つ唯一の人間であることを知り、驚愕した。東京裁判は茶番であることを即座に見抜いた
・結果的にインド政府もマッカーサーも最後までパールを解任しなかった。パール個人の勇気と正義の信念
-目次-
「憲法9条」と「ガンジー主義」は全く違う!
パール判事は「憲法9条」を「ガンジー主義」と言ったのか
パールは日本無罪論者を信頼した
不当に歪められたパール像を正す
「パール判決の真意」って何だ?
西部邁氏の誤謬を正す
護憲論者が「平和憲法」を修正するか?
国際法は歴史の蓄積で成り立つ
パールは東京裁判を「一部肯定」したという珍説
パールは「道義的責任」など指摘していない
ヤスパースの「戦争の罪」の分類
「戦争責任ありき」の戦後脳でテキストは読めない
「パール判決書」は偽善を憎む恐るべき書なり
「パール判決書」の最重点は何か?
パールは「反共主義者」だったのか?
パールは「南京事件」をどう見たのか?
パール判決書はこうして歪められた
田中正明氏の「改竄問題」とは何だったのか
パールに申し訳ない被占領日本人の体たらく
「日本無罪論」はミスリーディングか?
解題 パール判決書
パールの遺言
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