読書メモ

・「ゴーマニズム宣言NEO 2 〜日本のタブー
(小林よしのり :著、小学館 \1,300) : 2010.03.21

内容と感想:
 
アイヌ、沖縄、北方領土、天皇など現代日本のタブーに迫ったシリーズ作。 「ゴー宣」シリーズでは使命感に駆られていろんなタブーに立ち向かっている。単なる漫画ではない。文字も多いし、硬派だぞ。 スパイスとしてのギャグも効いている。
 まず先住民族としてのアイヌ問題については、 現在の「アイヌ文化、アイヌ民族は政治的意図によってかなり人為的に作られている」と指摘。 アイヌなる民族が無理矢理つくられ、日本国内に無用な民族的対立を生み出そうとしているという。それは「差別を再生産する」ことにつながると警告する。 ましてやアイヌを自称し日本人を侵略者として糾弾し、犠牲者であることを強調して賠償要求するのは賢明ではない、と諭す(第5章)。
 また、米軍基地駐留で犠牲を強いられる沖縄では「一部の者だけが恩恵を享受している」と、本土には分かりにくい沖縄の二重構造を明らかにしている。 先の大戦での渡嘉敷島の集団自決に関してはNHKまでが事実と反する番組を制作・放送していると批判する。 そうしたマスコミの不勉強さや怠惰に対して「本当に必要なのはマスコミ批判」だと、日本の異常なマスコミの状況を嘆く。 第4章ではマスコミは疑問を持たず、空気に弱く、抗議に弱いといい、「覚悟あるジャーナリズム」の出現を希求している。 そうした現状に対して、著者はゴー宣を通して「知識人の嘘を見破り、マスコミのデマと戦い、国や公のために描く」(第9章)。
 著者の著作や発言を気に入らない輩による言論封殺行為、蔑視に対抗する様子を描いた章もある。 鈴木宗男氏・佐藤優氏コンビとの争いも興味深い。それを漫画ネタにするのはどうかとも思ったが、 裁判をちらつかせた言論弾圧に及ぶなど見過ごすことが出来ない状況にあったようだ。 民主主義国家であっても、そういうことが行なわれていること、いつ我が身に降りかかってくるかも知れないことを理解しておくのもよいだろう。 今回感じたのは、いずれの問題も根底には私欲が絡んでいるということ。弱者のふりをして利益を得ようとしているとしか思えないのだ。
 間に漫画「おぼっちゃまくん」の「茶魔グッズの紹介」が挟まれているのはご愛嬌(私はおぼっちゃまくんは読んだことはない。従って面白いのかどうかは分からない)。
 終章では「いつかゴー宣がいらない日が来るように」という、著者とスタッフとの対談が収録されている。 著者はゴー宣を「日本を変えたい」という使命感で書いている。自分にしか描けないという自負をもって描いている。 「一般の中にナショナリズムが溶け込んでしまえば」ゴー宣は不要になる、それが果たせれば本望だと言う。 自分がやっているようなことを誰かに「奪って欲しい」とも思っている。タブーに挑む継承者、おかしいことには「おかしい」と堂々と言える者たちを求めているのだ。 「最後は絶対に子供漫画に戻る」と本心も語っている。このままでは漫画が滅びるのではないかと危惧している。 ゴー宣は一定の支持を受けているし、課題山積の日本の現状ではまだまだ「ゴー宣が要らなくなる日」は遠い。

○印象的な言葉
・タブー(tabu, taboo)はポリネシア語で「聖なる」の意味
・「聖なるタブー」を平然と侵すマスコミ、「俗なるタブー」を不可触領域にして批判しない
・沖縄極左活動家運動の土壌、政府からの補助金を引き出す打ち出の小槌に。沖縄政財界、軍用地主、基地関係者は既得権益を維持したい
・沖縄に必要なのは独立ではなく自立
・アイヌ民族は存在しない。アイヌとは「人間」という意味。民族名ではない。北海道には何種類もの民族がいた。アイヌと和人の混住・混血は鎌倉時代には進行。 一度も統一されていない。バラバラの部族。
・血筋にこだわるのは悪しき因習(→ならば天皇家は?)
・1970年以降、わざわざアイヌ問題に仕立て上げた者たちがいる。ウタリ協会。協会のアイヌの定義には文化的な要素が含まれていない、血だけ。部落差別と同じ論理の危険思想。
・民族(nation):国家を形成する言語、文化、歴史のポテンシャルを持っている集団。それ以外は種族・部族(ethnic)
・弥生時代、寒冷な北海道には稲作が定着しなかった
・江戸幕府は蝦夷地と和人地の間の出入りや混住を禁止。松前藩は近江商人にアイヌと交易させた。アイヌは搾取された。江戸時代はアイヌは異民族として差別、隔離した。
・(佐藤優のような)怪しいインテリジェンスで外交を行なっても国益にならない。ハッタリと脅しの手口、恫喝と圧力。
・現在、振興されているアイヌ文化はどこの部族のものか分からない。伝統どおりかも疑わしい
・嫌沖流が出てくる危険性。なんでもかんでも基地のせいにしている
・感情的で論理なしに怒っても無意味
・多様な文化が存在することが日本文化の豊かさの証
・日本語で思考している者が日本人
・薩摩が琉球に入る以前から公文書が和文で書かれたり、和風化は進んでいた
・全く賛成できない言論でも、それが封殺されるくらいなら、それを護る方を選ぶ(宮崎哲弥)
・戦前否定左翼:朝日・読売・毎日、文藝春秋・諸君までTV・活字メディアの9割を占める。倫理なき商業主義メディア
・日本自身の手による自主防衛。主体性を発揮できる。自主防衛の覚悟なき同盟関係など破綻する。平和主義で何でも解決するという妄想、退行現象。 成長しない日本人、引きこもりと同じ。
・正義を貫く、道義を重んじる、倫理を目指す、という覚悟なくして人間は成長しない
・天皇と民の関係こそ国体
・自分が嫌いな奴が受けている差別は差別と思わない者は真性の差別者。自分が嫌いな意見の排除を言論弾圧と思わない者は全体主義者。
・極限状況における人の理性は脆い。離島の共同性や閉塞性がパニックを引き起こしやすい
・渡嘉敷島の集団自決問題で赤松隊長は「自決は軍命だった」という濡れ衣を黙って着た。島民に遺族援護金が支給されるため。
・北方領土返還交渉では少しずつ、確実に道筋をつけてきたが、鈴木宗男・佐藤優コンビがロシアをつけあがらせ、交渉を混迷に陥らせた。 二人の逮捕はロシアへの国家機密漏洩から国を守るための国策捜査。
・アイヌもマスコミが弱者扱いするから自立を妨げる
・手塚治虫はアニメ「鉄腕アトム」を人任せにしたら勧善懲悪のヒーローものにされて、憤慨した
・戦前と戦後を連続させたい。断絶を埋めたい

<感想>
・和人はどこから来たのか