読書メモ
・「リストラなしの「年輪経営」 〜いい会社は「遠きをはかり」ゆっくり成長」
(塚越寛:著、光文社 \1,400) : 2010.02.07
内容と感想:
著者は伊那食品工業の会長さん。信州では「かんてんぱぱ」シリーズ製品で有名な会社である。
非上場ながら優良企業として知られている。本書の巻頭にも掲げてあるが、社是は「いい会社をつくりましょう 〜たくましく、そして、やさしく」。
既に社是と同じタイトルの著書も出されておられる。
本書は著者の経営理念を分かりやすい言葉でつづった本である。読後は、本当に「いい会社だなー」と羨ましく感じてしまった。
リーマンショック後に出た本だが、「はじめに」でも、強欲な投資銀行ビジネスにも触れ、批判している。
そのような金融機関とは真逆なのが著者の会社である。世界金融危機の直後だけに、企業経営のあり方が今、問い直されている。
著者は今こそ企業の「本来あるべき姿」に立ち返れと言い、売上や利益を競うことはそこからはかけ離れていると語る。
タイトルの「年輪」について、こう書いている。
「年輪の幅は、若い木ほど大きく育ちます。年数が経ってくると、幅自体は小さくなります」、「会社もそうあるのが自然」(第一章)。
また、会社を木に例えて、「枝葉をどんなに伸ばしても、幹が太くならないと、木は倒れてしまいます」(第三章)と話す。
サブタイトルの「遠きをはかり」という言葉は二宮尊徳の言葉から取ったものだそうで、著者の経営戦略になったと書いている(第一章)。
そして、タイトルにもあるリストラについては、
「最後の最後になって、どうしようもないという状態に陥った末に、やむなく手を付けるもので、それは経営者として持つべき最も基本的な倫理観」だと信念を語っている。
株主資本主義を掲げる経営者は安易にリストラをして、手っ取り早く利益を出そうとしがちである。
アメリカ型のそうした経営手法が日本にも広がったようだが、それが日本的経営の良い部分を破壊してきたと思う。
著者の人生、会社経営は最初から順調だったわけではない。
貧しさや病苦も味わい、そのお陰で「人間を大切にする経営をしよう」と決意したと言う。
ウォール街の経営者たちに是非読ませたい本である。
○印象的な言葉
・急成長は敵。低成長、自然体の経営。追い風を実力と勘違いしない。
・ブームに乗って粗悪な製品が市場に出回った
・人件費はコストでなく、会社の目的そのもの
・たくさん売るより、きちんと売る
・新しい商品を開発し、自ら市場を創造。研究開発型企業を目指せ。生産機械も自社で作る。
・一つの素材を深く掘り下げる。自分たちがいいと思うものを作る。
・知恵は無限。商売は知恵比べ
・マーケット・リサーチとは過去になったものを調査しているに過ぎない
・上場はしない。上場すると意思に反した経営を行なわなければならなくなる。マネーゲームのために社員の幸せを犠牲にする場面が出てくる。
・ファンづくり、会社の好感度
・凡事継続
・会社は永続することに最大の価値がある
・社員の幸せを犠牲にしていないか。会社の成長とは社員が「幸せになった」と感じ取れること。社員を不幸にするような会社なら無いほうがいい。
・経営とは会社の数字と社員の幸せのバランスをとること★ それが健康な会社
・地域貢献。一度、協賛したら長く続ける
・高い値段でも満足して頂ける製品を作る。ブランド化は適正な利益確保につながる。企業永続の鍵。
・適正な利益を上げ、社員に適正配分されれば消費は盛んになる。利益を上げるには付加価値を上げること。適正な価格で売れる仕組みを作ること。
・ケチは悪循環の始まり。人件費はケチらない
・社員たちは「伊那食ファミリー」。家族的なつながり。社員の結束
・自由にのびのびと仕事をする
・お金に困ったら、まず会社に相談せよ。社員の誰かが困っていたら、みんなで助ける
・仕入先とはともに末広がりに繁栄できる関係でありたい。正しい理念で結ばれた関係。理念を共有。売り手と買い手は対等。
・真の老舗はブランドにあぐらをかかない。その時どきの最先端の製造技術、原材料、販売方法、経営手法を用いて変化に対応してきた。継続できた。時代に合わせ、革新を積み重ねる。
理念は変えてはならない。
・老舗は経営と文化が一体化している。そこから多くの文化人を輩出し、日本文化を高めた。老舗のイメージも高めた。馥郁(ふくいく)たる文化の香り。★
・目先の利益を求めて無理をすることは後あと禍根を残す。臨時に人を雇ったり、にわかづくりの生産設備を設けたり。品質管理を十分に行なえない。背伸びした商売。
・時間をかけて、いろいろな分野の商品を開発し、生産拠点を分散させ、販売チャネルを多様化。
・海外進出ではまず、信用できる人を見つけること
・掃除はそれを行なう人間も磨く。きれいにしている会社は信頼できる
・本当の効率化、合理化のための根本的な対策は、人間のやる気を向上させること
・ワイガヤ役員会
・教育勅語には人間の守るべき規範として大切な内容が盛り込まれている
・人の評価は能力の差を問うのではなく、その能力を使ってどのくらい精一杯努力しているかが重要
・観光立国の5要素:見るに堪えるもの、買う楽しみ、美味しい食べ物、学び、癒し。
・「なぜ」が改革の第一歩
-目次-
第1章 「年輪経営」を志せば、会社は永続する
第2章 「社員が幸せになる」会社づくり
第3章 今できる小さなことから始める
第4章 経営者は教育者でなければならない
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