読書メモ

・「お金の流れはここまで変わった!
(菊池 正俊:著、新書y \740) : 2010.09.01

内容と感想:
 
本書は原油などの資源や食品、株式、債券、不動産などの投資家の保有や取引の状況を明らかにし、 今後、どんな投資が望ましいかを読者に指南することを目的として書かれている。 また、日本の国債残高と年金財政に対する考察や、銀行に預けた預貯金の流れなどにも触れている。 著者はメリルリンチ日本証券に勤め、投資の最前線にいる。現場にいる人のものの見方というものも参考になる。
 その彼は中長期的には資源や食料の稀少性の高まり、国内では巨額の財政赤字や労働者不足を背景に、インフレ時代に入る可能性が高いと見ている。 100年に一度の危機といわれる今の状況では、長期の視点を持てる個人投資家にとっては良い買い場だとも言っている。 リーマンショック直後に出た本だが、目先のことだけでなく、中長期の視点で日本経済、世界経済を見ているため非常に参考になる。 データも豊富である。

○印象的な言葉
・日本では消費支出の1/4が食料
・日本企業の海外売上比率は3割強。日本株の3割弱は外国人投資家が保有し、日本株売買の6〜7割が外国人投資家によるもの
・輝きを取り戻す石炭
・事業会社間の株式持合いが増加
・株式保有比率の低下が著しい銀行・生損保。
・保険料収入の減少が続く生保。中長期的に少子高齢化で市場は縮小し続ける
・国の資産売却の必要性。都心部に公的部門が保有する不動産で売却可能な物件はまだ多い
・日本の土地は森林と家計保有が中心
・年金保険料は2017年度まで毎年引き上げられる
・劣化した日本の教育の質を改善し、新興国に負けない労働力を再構築する
・日本の家計の正味資産は2006年末で、2200兆円弱。4割が実物資産(内、3/4が土地)、6割が金融資産
・中東は人口増加や購買力の高まりを背景に消費地として注目され始めている。世界のムスリム人口は15億人。世界の1/4を占める。2030年代には1/3まで増える。世界最大の宗教になる。 若年層の高失業率、犯罪増加という問題もある
・日本は中東が将来の国づくりをするために必要な技術をもっている。日本は魅力的な投資先
・中東産油国がドルペッグ制を止めると米ドルは暴落し、ドル建ての石油収入や保有する米国債の価値が急減する
・石炭:他の燃料よりCO2排出量が多い。他の燃料より埋蔵量が多く、全世界で広く採掘可能。今後150年は採掘可能。日本ではかなり地下深くまで掘る必要があり採算が合わない。
・東証が上場した金ETF「SPDRゴールドシェア」は金現物と交換可能
・金価格に強気なら住友金属鉱山株を買うのもよい。菱刈鉱山は高品位の金を産出する
・プラチナ:生産量や先物市場規模が小さいため価格変動性が高まりやすい。希少価値が極めて高い。排ガス浄化用触媒需要が5割(→電気自動車が増えれば不要になっていく)
・異常気象が農業生産に悪影響を与える頻度も高まっている。異常気象は水の偏在性も強めている
・外国人投資家が対象として好む日本企業:規模が大きく、株式の流動性が高い。国際競争力が高い、新興国での成長性が高い、ROEが高い、株主重視、IRが良い。値嵩株を好む
・日本の銀行は価格変動率が高い株式を大量保有する体力がない
・ヘッジファンドは投資銀行からの資金調達や借株が難しくなり、年金などのスポンサー離れもあり、厳しい経営環境が続いている
・外国債券投信は人気を持続。利回りが高い。円高を外貨建て資産の買いチャンスと捉える
・高度な金融ノウハウをもつ大手銀行とゆうちょ銀行は補完関係を築ける。郵便局ネットワーク活用で、営業基盤を強化できる。地銀はゆうちょ銀行と競合する。再編が求められる
・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の問題:150兆円を運用管理するのは困難、責任やガバナンスが不徹底、優秀な人材が雇えない(予算の制約)、運用が債券に偏っている
・J-REITは不動産市場の流動性を高める役目を果たした。外国人に依存。保有資産による選別が重要。東京の不動産は世界でも相対的に魅力的。
インフレ率が高まれば、いずれインフレヘッジのために不動産に投資してくる。米国の不動産価格の下落は今後、数年は続く
・日本が移民として受け入れる人材:高度人材、熟練労働者、留学生、それらの家族、人道的配慮を要する移民、富裕層、看護・介護分野

-目次-
1 資源・食料価格の高騰が家計を直撃した
2 資源価格の上昇で誰が得をしたのか
3 食料価格の高騰は誰が引き起こしたのか
4 日本株は誰が保有し、誰が売買しているのか
5 銀行や保険会社に預けられた資金はどこへ行くのか
6 国債残高と年金財政は持続可能か
7 日本の不動産市場は下落に転じたのか