読書メモ

・「見通す力
(池上彰 :著、生活人新書 \740) : 2010.05.03

内容と感想:
 
もし将来を見通すことができれば、よりよく生きられるかも知れない。 我々は予言者ではないから、そう明確には将来を予測できるわけではない。 本書は予言者になる方法を解説するものではない。 しかし将来の見通しを立てる力は鍛えられると著者は考える。 「日本の未来はどうなる?」という抽象的なことでない限り、特定の分野のことであれば訓練すればある程度の見通しを立てられることは 納得できるのではないか。実際、我々はある程度、大なり小なり予測しながら生活しているはずだから。 仕事でも予測して、計画を立てているはずだ。その精度を高めることができれば、私生活もビジネスも成功の確率がぐっと高まる。
 最近、「仮説と検証」という言葉がよく使われるようになったと感じる。 実は先を「見通す」基本は仮説と検証、修正の繰り返しである、というのが本書の肝である。
 見通すために情報収集も重視している。第2章と3章では情報収集法を解説。 第5章では自民党政権の行く末と金融危機を事例に、著者がどのように見通そうとしたかを披露している。 安倍首相以降の首相たちを取り上げて、彼ら「二世議員は父親や祖父を超えたい」と考えているというユニークな仮説を立てて、 将来を占っている。
 また、第6章では自動車業界の今後を見通してみている。見通しの立て方のプロセスを実感できる。 そこでは3種類の情報を集めている。 それはマイナス要素、プラス要素、プラスかマイナスか分からないが業界を見る上で欠かせない要素。 それらを総合的に見て、仮説を立てている。
 著者も仮説が外れるということがよくあると言う。 その原因は仮説が正しいとの思い込みだったそうだ。 仮説は常に正しいとは限らない。必ず検証し、間違いに気付いたらそれを認め、修正する必要がある。 それを繰り返すことでより良い結果に到達することができる。見通す力が向上できるのである。

○印象的な言葉
・定点観測、毎日チェック
・ニュースの価値を時間に選別させる
・ウィルスは自分の遺伝子を他のウィルスの遺伝子と交換する「交雑」という機能をもつ。これによりどんどん違う性質を持つようになる(変異)。 インフルエンザ・ウィルスは豚の体内で交雑が起きやすい
・サウジアラビアはイスラム教原理主義の国でありながら親米だった。今後も同じ姿勢を続けるか疑問
・インドは初の原子力潜水艦を就航させた
・アメリカでは新聞の定期購読の割合が低く、記事もたまに新聞を買うことを想定して、いつ読んでもニュースの流れが分かるように書かれている。 一つ一つの記事が長く、解説や背景説明が丁寧。
・毎日同じ新聞だけを読んでいると考え方が新聞と似通ってくる。その論調が大勢を占めると思い込む。複数の新聞を読むことで、目の付け所の違いを知る
・TV報道は極めて単純化して伝える傾向がある。それは真実ではなく、事実の一面
・専門誌や書籍、政府や研究機関のサイトから専門家たちの見通しを知る
・雑誌の速報性。新聞と書籍の中間に位置。今の情報だけでなく、未来の情報も加わる。書籍には過去の情報も盛り込まれる
・日経ビジネスオンライン:会員登録は無料
・歴史は繰り返す。歴史や仕組み、制度に書かれた本を読むことで、今後の展開が読める。本質を掴む
・定本:その本をもとに文章を書いているような本
・著者のクセをつかむ:語り口、話の構成の仕方
・政府や地方自治体、研究機関などのサイトは情報量は豊富でも探しにくい、見づらい (→わざとやっているのか?)
・図を描いて断片的な情報をつなぎ合わせる。どんな情報が欠けているか、どこが理解できていないかが分かる
・人に話したり、文章に書くことで考えを整理する。相手からの予想外の反応をもらったり、感想やコメントをもらい、仮説を修正
・専門家がどのような論理で結論を導き出したか、そのプロセスを知る
・アメリカ金融業界の大原則は「リスクは他人に押し付ける」
・1929年の大恐慌のキーワード:住宅ブーム、投資信託の勃興、レバレッジの多用。現在の状況そのまま。
・金融危機後、FRBは大量の資金を市場に供給しているが、資金の多くはヘッジファンドなどが投資に回している可能性がある
・日本のGDPの1割以上を自動車産業が占める
・カリフォルニア州の経済規模はアメリカ随一。イタリアと同程度。
・時代の要請にこたえられた会社だけが成長する

-目次-
序章 「見通す力」を使って将来を予測する
第1章 「見通す力」はこうして鍛える
第2章 見通すための情報収集(1) 新聞、テレビなどを使った「ニュース定点観測」
第3章 見通すための情報収集(2) 雑誌や書籍、ウェブサイトなどを使った「深掘り情報収集」
第4章 仮説を設定し、検証してみよう ―信頼できる情報をもとに、「これから」を予測する
第5章 私はこうして先を見通そうとしてきた
第6章 「自動車業界」のこれからを見通してみよう