読書メモ
・「長期投資家がニヤリとする7つのメガトレンド」
(澤上 篤人:著、角川SSC新書 \780) : 2010.10.31
内容と感想:
本書では著者の長期投資家としての視点から、これから20年後、30年後の世界経済のメガトレンドを読み解いている。
タイトルにもあるように本書では7つのメガトレンドを挙げている。
つまり著者はこの2008年の金融バブル崩壊後の世界経済に、新たな大きな流れを既に7つも見出しているのだ。
一つのトレンドに一つの章を割いて解説している。
本書をヒントに景気サイクルを先取りして行動してみてはいかがだろう。
著者は39年間、運用の世界にいて次の3つのテーマを研究してきたという。それはエネルギー、食糧、環境。
第3章でも述べているように現在、新興国の成長でこれらに対して全てに投資不足と捉えており、
今後はそれらへの「供給力拡大投資」、つまり「実物投資」が主戦場になると考えている。
第5章では年金受給者や受給予備軍にとって心配な年金運用の話が出てくる。
著者は年金資金の運用環境は、これからどんどん厳しくなっていくだろうと見ている。
そこでは本格的な長期投資が不可欠であり、
これまで短期の運用でどっぷり浸かって来た運用会社などは運用成績を出すのが難しくなり、淘汰が進むだろうと言う。
また、運用を託す側の「年金サイドの(運用)コスト意識はどんどん高くなる」としている。
その上で、著者はいっそのこと「公的年金の運用そのものを止めてしま」い、「世代間扶養の仕組みも止める」と提言する。
基礎年金の部分は税金で徴収し、それ以上の蓄えを必要とする人は「自分年金」を作り、税金面で優遇措置が受けられるようにする、と言うのだ。
しかし、年金ビジネスに関わっている運用会社や金融機関の規模は大きく、激しい抵抗が予想されるとも述べている。
確かに運用成績が悪いなら最初から運用など止めてしまえば無駄なコストもかからない。既得権益を手放したくない者もいると思うが、
そこは政治の決断と、国民の後押しが必要となるだろう。検討に値する提案だと思う。その代わり、自分年金を運用していくには、
自分で運用スキルを磨くか、運用実績のあるファンドなどに託していくことになるだろう。
○印象的な言葉
・1989年末までの上昇相場でプロデューサ兼主役を演じたのは企業や銀行による株式持合いと生保の政策保有。東証一部の全発行株数の54%を買い上げた。
更に、18%を機関投資家が保有。それから19年後、株の持ち合いや政策保有は13%前後。外国人と個人投資家がそれぞれ20%以上ずつ保有。
・供給力拡大投資メガトレンド
・新興国の発展を下支えする
・代替資源大国・日本
・長期投資は推(イマジネーション)と論(ロジック)
・不景気が続けば「なんとかしよう」と必死になる。そうした立ち直りのエネルギーが集まっていくことで景気は上昇に転じる
・現在も新たに刷ったドル紙幣の7割は海外に流出している
・世界的な金余り現象の端緒は1960年代に開かれていた
・過去100年の世界経済は年4%のペースで成長
・日本では土地への絶対需要が減りつつある中で、グローバル化により海外製品の購入を通して、間接的な土地の「輸入」が加速している(→日本メーカーの海外生産)
・世界の人口は毎年1億人ずつ増加
・かつて世界人口が6億人前後で固定されていたのは、30年に一度くらいの間隔で戦争や疫病が発生していたから
・将来、足りなくなるものがビジネスチャンス
・個人金融資産は高齢者に偏在している。60歳以上で63%を保有
・預貯金を抱え込んだまま動かない高齢者は金融資産を食い潰していく。そのうち、多くの銀行は経営問題に直面する
・今後の銀行のビジネスモデル:貸付業務に特化、投資銀行、信託銀行(信託財産の保護預かり業務に特化。受託手数料で稼ぐ)
・日本では余剰となったお金は芸術や文化、教育、スポーツなどモノ以外へ流れていく。それが新たな雇用を生む
-目次-
序章 大きく変わる世界の潮流を読み解こう
第1章 金融の時代が終わり、実物経済の時代へ
第2章 本格的インフレというメガトレンド到来
第3章 新興国の成長で資源、食糧、環境すべてに投資不足
第4章 日本の産業構造が激変するのもメガトレンド
第5章 機関投資家の運用にも厳しい環境が待っている
第6章 個人金融資産は預貯金指向から投資へシフト
第7章 日本の金融ビジネスに地殻変動と新風が
終章 時間を味方につけて、おおらかな運用を心がけよう
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