読書メモ

・「池上彰の学べるニュース
(池上彰:著、海竜社 \1,048) : 2010.12.18

内容と感想:
 
テレビ朝日系列で放送中の番組「そうだったのか! 池上彰の学べるニュース」で取り上げた内容をまとめた本。 その内容は政治、経済、環境、医療、教育、世界情勢と多岐に渡る。
 「テレビのゴールデンアワーの時間帯に、こんなに硬いネタを取り上げることは、従来では考えられないこと」だったそうだ。 「テレビ業界の常識を覆す出来事」とのこと。 これまでは「わかりやすく面白く見せるテレビ局側の工夫が足りなかっただけ」と著者は言う。 著者自身もかつてはNHKの「週刊こどもニュース」のお父さん役で、子供向けニュースという、常識破りの番組を展開していたのだから、 二匹目のドジョウとも言える。
 著者の分かりやすい解説には定評があるが、本書はテーマを広げすぎたせいか、説明が粗く、私には物足りなさを感じるところもあった。 いずれにしろ、世の中の話題について最低限の知識をもつことが出来るだろう。今後、見るニュースにもつながりが見えてくることで、 きっとニュースの受け止め方も変わってくるものと思われる。

○印象的な言葉
・国家予算は時代が変わっても内訳がほとんど変わらない。既得権益を守るため、例年通りの割合になるように官僚が頑張る
・検察の暴走を止めるのが法務大臣の「指揮権発動」。検察庁は法務省の管轄。簡単に発動されることはない。いつでも発動できる状態にしておくことで検察の暴走をチェックする。
・空港整備特別会計を原資に空港網が出来上がった。飛行機が離着陸するときの着陸料や飛行機の燃料への税金、空港利用料を徴収している。
・蓄養(天然稚魚をつかまえてきて成長させる)のための乱獲でクロマグロが激減。マグロ1キロ増やすのに、10〜25キロの餌となる小魚が必要。小魚も乱獲される
・世界テロを読み解くキーワードはイエメン。アラビア半島で一番貧しい国。主産業は石油と農業だが、石油埋蔵量は少なく、間もなく枯渇すると言われる。国内には紛争がある
・ソマリアの海賊がアルカイダを支援。外国船を襲って手に入れた身代金で武器を購入し、それをアルカイダへ流している
・予算の復活折衝という茶番劇。政治主導をアピールするためのもの
・赤字国債の発行は本来は違法だが、ここ20年は特例法により発行を続けている
・政治資金規正法:「規制」ではなく「規正」。正しく報告することを義務付けている。政治献金には年間上限額が設定されている。政治家個人への献金は禁止。 企業や労働組合は政党に献金できる。
・地検(地方検察庁)特捜部は東京・大阪・名古屋だけに設置されている。主に政治家の汚職や不正の疑いのある企業の捜査や起訴を行なう。警察とは別に独自で捜査できる。 あらゆる事件を捜査できることになっている。検察官は法律のプロとして、容疑者を裁判所に起訴するかどうかを決める。警察官の間違いや暴走を防ぐ役割もある。
・空港がたくさん出来たことで赤字路線が生じた。利用客の少ない空港にも定期便を飛ばすため。
・2002年にJASの経営が行き詰まり、最大手のJALがJASを吸収合併。多くの赤字路線を引き継いだこと、飛行機の種類が増えたことなどで、JALのコストがかかるようになった
・道路整備特別会計:車を購入・維持するために必要な料金やガソリン、高速道路利用料金などに課税。全国に隈なく道路網が敷かれた今、お金が余っている。特会不要論もある
・会社更生法の申請を後回しにすることで事実上の倒産を回避できる。あらかじめ再建計画をしっかり立てることにより、取引先に安心してもらうことができる
・成田空港を作ることになった当時は、羽田沖を埋め立てて滑走路をつくる技術がなかった
・紳士服の売上高の推移は景気動向指数の動きと似ている。景気が回復した少し後に売上が伸びる。この売上が伸びたら景気は上昇気流に乗ったと見ることができる
・ロシアのシベリア地方のツンドラ(永久凍土)の地価には大量のメタンガスが埋まっている。地球温暖化でツンドラが解けると、CO2以上に温室効果のあるガスが出始め、 温暖化が更に進む。
・北極の氷は太陽光を反射してくれているが、これが解けると更に温暖化が進む
・温暖化が進むとマラリア原虫を持つハマダラカという蚊が増え、感染地域が広がる
・メタンガスを大量に排出するものに牛の「げっぷ」がある。メタンガスの総量の2割に達する
・ロシアやEUが温室効果ガスの削減目標の基準としている年はいずれも経済が低迷して、排出量が激減していた時期。それを元に削減することは容易
・中国、インドの温室効果ガスの削減目標の基準はGDP比。GDPが大きくなれば排出量も増える。経済成長すれば排出量は増えることになる。増え方を減らすといっているだけ。
・日本では毎年、約8千人ずつ医師が増えている。20代の医師の内、女性は3割以上
・医療費は個人が3割を負担。健康保険が4割を負担、残り3割を国が負担
・高校無償化:社会全体で高校生を育てていこう。きちんとした教育を与えれば、優秀な子供が育ち、やがて日本を豊かにしてくれる、という発想。 将来、バリバリ稼いで、よき納税者になってもらうのが目的。 高校の授業料は無料というのが先進国の常識。日本の教育水準は世界トップレベルだが、これまで家庭がかなりの負担をしてきた。
・人口が多ければ多いほど、教育を行き渡らせることは難しい。学力レベルにバラツキが出やすい
・日本で流通しているクロマグロの多くは海外からの輸入もの。海外産地の人が日本人にはクロマグロが高く売れると知ってしまった。世界のマグロの漁獲量の3割を日本人が食べる
・2002年、近畿大学がマグロの養殖に成功
・現在の人民元の本当の価値は1ドル=4元くらい
・中国はベトナム、ラオス、ミャンマー、ネパールなど周辺国と人民元による交易を始めている。取引はロシアやカザフスタン、モンゴル、キルギス、北朝鮮にも広がりつつある。 イランからの石油を買うときにも人民元を使えるようにしようとしている。人民元を「第二のドル」にしようと目論む
・南アフリカの犯罪の多さの背景には教育を受けていない黒人たちが働く場所がなく、失業者が多いことがある。金持ちの白人は都市部から北部へ逃げ出し、新たにゲートシティを作った。 火力発電所の技術者の受け入れに積極的なオーストラリアに移住する白人もいた。
・ドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」は筒型の構造物が螺旋状に組み合わされ、うまく風を上に逃がすように設計されている。「ハリファ」はアブダビの首長の名前
・ドバイのジュベル・アリ港は世界最大級の貿易港。ドバイには巨大なハブ空港も建設された

-目次-
1 そうだったのか!国家予算 ―編成プロセスから使い道まで、政権による違いを徹底検証
2 そうだったのか!政治資金規正法 ―「政治家とお金」の問題はなくならないのか?
3 そうだったのか!連立政権 ―参議院選挙で民主党はどのくらい議席を獲得できるか?
4 そうだったのか!JAL破綻 ―どうなってるの?日本の航空業界
5 そうだったのか!デフレ ―モノが安くなるのはうれしいけれど…
6 そうだったのか!環境問題 ―日本は2020年までに温室効果ガスを25%削減できるのか
7 そうだったのか!医療崩壊 ―日本全国、お医者さんの数が足りない!
8 そうだったのか!日本の教育 ―高校の無償化が学力アップにつながる?
9 そうだったのか!マグロ ―クロマグロがワシントン条約の規制対象になったら
10 そうだったのか!国際情勢 ―世界の“ホットポイント”にアプローチ