読書メモ
・「大恐慌失われる10年 〜2009 - 2019年 新しい均衡点を求めて」
(浜 矩子、高橋 乗宣:著、李白社 \1,500) : 2010.11.02
内容と感想:
著者らは今回の「グローバル恐慌」が終息するまでに確実に十年はかかると考えている。
本書は恐慌発生後の英国、欧州、米国、日本の経済状況をレポート、考察し、未来を見通そうと試みている。
第三章ではアメリカの信用が落ちている中での基軸通貨ドルの行方について次のような見方をしている。
国際社会が信頼する通貨だから決済通貨であり、その発行国の繁栄が世界の繁栄に繋がるから基軸通貨。
各国で支えねばならない(現在の)ドルはその任に耐えない。ドルを支えるのは、今後あまりにコストが大きすぎて、結局、見放されるだろう、と。
その前提で、ドルが基軸通貨の任に耐えなくなったとき、「世界通貨単位」を設ける可能性についても触れている。
ユーロ成立までの移行期間に作られたEMS方式と同じように、参加国の通貨を一定の加重平均して構成するバスケット通貨とする、というものだ。
それよりも世界単一通貨ではなく、(個別通貨は残したままの)世界共通通貨体制の構築が合理的かも知れないとも、第五章には書かれている。
第四章で予想しているように、為替が1ドル=80円、70円というレベルは時間の問題だとしている。まさに現在、80円前後の攻防が続いている。
更には、アメリカ経済の大底を見つけようとする展開の中で70円となり、50円をにらむ場面が来てもおかしくない、と驚くべき数字も挙げられている。
第五章では今後の世界のあり方として次のような表現をしている。
「グローバル時代とは各国がお互いに支え合いながらでなければ生きていけない」、
「自国が己のためだけを考えている限りにおいて自国を含めて共倒れになる」と国際協調と互助を説いている。
「一人はみなのため、みなは一人のため」という感覚が国のレベルで試されている。
○印象的な言葉
・スペインで発達する草の根金融。日本の信用金庫にあたる「信用金会社」。潤沢な資金力。スペインの金融機関はマネーゲームには足を踏み入れなかった
・信用デフレ:信用が収縮すること。信用創造が機能しない。経済規模が萎むことが恐ろしい。産業が押し潰され、給料も下がる。失業者も増える
・この十数年、英国ではポンド安によるモノの輸出が急増、外貨を稼いだ。その中心は英国に進出した日本の自動車、電機メーカー
・英国内でも進んだ地域格差。ロンドン一極集中
・英国人は逆境に立つと「われら本領発揮の場」、「死ぬまでジョークを飛ばして我慢してやる」。不屈の魂。海賊魂
・ドイツ企業は旧東ドイツの人々向けの補助金捻出のため税金を高く設定され、彼らも雇用しなければならなかった
・長年にわたる英国の繁栄を見せ付けられたフランス国民の鬱積した不満と不安
・スペインはEU加盟後、ほぼ全土がEUからの補助金の対象となった
・イタリアで流通するマネーの3割はアングラ経済で回っている。本業の他に別の仕事を持っている人口が多く、現金決済を基本としている
・ポーランドは外資依存で金融自由化に踏み切っていたが、グローバル経済化に急ブレーキをかけた結果、世界金融危機の影響をそれほど受けなかった
・ハンガリーは圧倒的に外資に依存していた。外資がつまずいて、一斉に資金が引き揚げられ、IMFの管理下におかれてしまった
・中国では成長と失速のギャップについていけない会社はどんどん振り落とされている。猛スピードで拡大する生産に追いつくために投資した設備が重荷となっている
・基軸通貨がポンドからドルに移る際、ドルだけが唯一、変形ながら金との結び付きを維持していた。消去法的にドルが最後に残った
・最大の国際商品である石油の値立てと決済がドルから離れるとき、ドルは国際決済通過の地位を失う。ユーロの決済市場としての役割は全く育っていない
・地域通貨の時代が来るかもしれない。地域経済自体が独自通貨をもつ
・海外の主要ヘッジファンドの軍資金のかなり多くの部分がジャパンマネーだった。円キャリートレードで貸し出されたマネーが急激に里帰りし円高になった。
・マイクロファイナンス:グラミン銀行はごく小口の預金を膨大に集め、ごく小口で貸し出す。アメリカのワーキングプア向けのマイクロファイナンス構想もある。
流れが日本にやってくる可能性もおおいにある。
-目次-
第1章 空洞化に立ちすくむイギリス
第2章 ユーロが崩壊する!?
第3章 スーパーパワーなき時代の基軸通貨
第4章 底打ちしていないアメリカ経済
第5章 パラダイムシフト
第6章 いまなら生き残れる日本
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