読書メモ
・「クルマは家電量販店で買え! ―価格と生活の経済学」
(吉本佳生 :著、ダイヤモンド社 \1,600) : 2010.02.27
内容と感想:
意外でインパクトのあるタイトルである。
最初に見たときは「?」と思ったが、著者は
「クルマの販売方法が大きく変わる可能性」があることを感じている(はじめに)。
実際にヤマダ電機では大阪で販売を始めているという。
コスト競争や販売経路の多様化によりクルマが家電と同じ道をたどる可能性があると彼は考えている。
従来、クルマは資産と考えられてきたから、それなりの価格が付けられ、その仕組みが維持されて来たと思うが、
そんな時代も崩壊するのであろうか?日本人のクルマ離れも進んでいる。単なる移動手段としか考えない人もいる。
安い海外メーカー製品の大量流入もありうる。
電気自動車の時代が近づき、電機業界が自動車製造に参入する可能性もある。家電と同様な製品と見られる時代がすぐに来るかもしれない。
本書はモノやサービスの値段の決め方を生活者視点で、分かりやすく解説している。
世の中のからくりがよく分かるだろう。社会問題にも触れており、考えさせられることも多い。
第1章はクルマの価格、第2章はサービスの価格、第3章は価格差、第4章はオークション、
第5章は教育コスト、第6章は規制が引き起こす意図しない悪影響などをテーマに書かれている。
民主党の高速道路無料化政策の影響なども検討している(2章)。
第5章と6章では、教育コストやCO2排出権価格など高すぎる価格を下げるための提案を行なっている。
例えばCO2の「排出権取引の導入の際に、非正規雇用の増大に歯止めをかける効果を持つ政策を提案」しているが、
それは投機の過熱を抑える効果もあるとしている。
排出権取引で一儲けを企む金融機関があるとのこと(おわりに)。
排出権価格に連動する仕組債なる金融商品が売られているそうだ。
それはリスクを消費者に押し付けて、利益は金融機関に入る仕組みだという。
日本は排出量削減に世界で一番熱心というが、そうした問題をよく検討した上で取り組まないと国益にならない。
第5章の教育コストは子を持つ親には切実である。そこで掲げられた提言は日本の学歴社会を根本から見直そうとするものである。
「学歴社会というしくみをなくす方向での教育制度改革」の必要性を説いている。
それは子育て家庭の教育支出の増大から解放し、生活水準を高める。
そして子供を産んで育てやすくなり、少子化対策にもなる、という。
少子化対策と教育制度改革、企業の雇用対策、採用活動のあり方などは一体の問題として捉えて、考えていく必要がある。
○印象的な言葉
・クルマの価格は今後、下がる可能性が高い
・高額な大学授業料。デフレ下でも値上がりした。学生は減り、大学は多過ぎる。学生集めに苦労している大学は留学生を集めている
・ブランドに頼れない時代
・軽乗用車とコンパクトカーの本体価格に差はない。軽は自動車税、重量税、自動車保険料など継続してかかるコスト(保有コスト、維持費)が安い。高速道路料金も安い。
・中古車は新車より価格が価値を反映して変動しやすい
・製品の固定コスト:生産数に関係ないく一定額がかかる。研究開発コスト、生産機械設備や工場を整備するコスト、宣伝コストなど
・変動コスト:原材料コストなど生産数に応じて変化する
・経験の経済性:研究開発された技術が次の製品にも応用されたり、工場や機械設備が生産の経験を積み重ねることで効率的になり、平均コストが低下する。半導体など。
・格安のPB商品の理由はNB商品製造の工場などの稼働率を安定化させるため
・保険や株など金融商品はIT化によるコストダウンをしやすい
・販売競争が激化した家電製品では平均コストに近い価格で販売
・クルマを単なる交通手段のひとつと割り切る人を相手にする市場は安い海外製品との競争にさらされる
・ランチの売上はディナーより安定しやすい
・混むからこそ安くておいしい
・深夜の割増料金の長距離タクシーは効率がいい稼ぎ方
・閑散時の値下げと、混雑時の値上げによりタクシー稼働率を高める
・メニューコストの問題:頻繁な価格変更にはコストがかかる。稼働率に応じた料金体系の構築をITで支援できれば可能。
・地域別価格:都会の消費者は所得が高いため地方より値上げしても大丈夫
・平日限定のシニア割引で施設稼働率をアップ
・幕末の開国直後、外国商人による裁定取引によって大量の金貨(小判)が海外に流出。それが国内の物価高騰、幕府崩壊の原因のひとつとなった
・1971年にアメリカが金とドルの交換停止をしたのも裁定による大量の金の流出が原因
・シンガポールではアメリカより安い医療費で日本では受けられない治療を受けられる
・地方自治体同士の「ふるさと納税」の勧誘活動が激化すると社会的な無駄が大きくなる
・商品偽装問題などに対する信頼維持・回復プログラム。消費者、企業、労働者の3者が共に利益を得る仕組み。雇用も守る
・大学では3年生秋から就職活動が始まり、まともに教育できるのは2年半。最初の2年間は教養(共通)教育が中心で、専門知識を体系的に教えることが困難
・学歴のシグナルとしての機能(採用時に学歴を重視する)が壊れつつある
・受験で入学は少数派
・入試の作問能力を失った大学が予備校に作問を丸投げ
・小学校受験:親の面接態度や財力が結果を左右
・授業料を安くしている大学に優先して施設整備の補助金を出す制度により授業料値下げを促進
・大学教育というサービスは固定コストが巨額。規模の経済性が働く。ネットをうまく活用すべき。どこに住んでいても多くの学生に最高レベルの教育を受けさせるのが理想。
・センター入試の点数の証明書を持参して就職活動したほうが効率的
・知識や技能習得のために費やしたお金や時間は取り戻せない。サンクゴスト(回収できないコスト)として忘れるべき
・不利な職場から離れられない優秀な労働者がたくさんいると、より一層、賃金などの条件改善が難しくなる→抜け出すには大部分が辞めること
・雇用が不安定になる時代、転職するには身軽な生活スタイルが有利
・リサイクルビジネスはゴミ分別コストが高い。発展途上国で分別するほうがいい
・排出権取引の問題点:排出枠逃れのイタチごっこになる恐れ。立場の強い企業が弱い企業から排出権を安く買う可能性。排出量をきちんと計るのも大変。
・既に金融機関が将来の排出権価格の上昇を期待して排出権を買い集めている
<感想>
・経年変化で外観が古びて、色あせた店舗を低コストで甦らせる塗装、デザイン、工事の提案ビジネス(格安ガススタンド等)
・過疎化が進む地方では自動車販売店が減少→メンテナンスのための整備工場、部品小売店などは必要
・GPSやITの運輸、流通業への活用促進
・話し方、表情改善のオンライン・トレーニング→Webカメラ
-目次-
第1章 クルマとプリンターとPB商品、価格の決まり方はどうちがうのか? ―新しい題材で『スタバではグランデを買え!』の要点をおさらい
第2章 高級レストランの格安ランチが、十分に美味しいのはなぜか? ―エコノミストは追加コストと弾力性に注目する
第3章 パチンコや金取引で必ず儲ける方法は、ときに本当に存在する? ―裁定が商品や人を移動させる
第4章 ライバル企業が、互いに不幸になる競争を止められないのはなぜか? ―オークションや価格設定での駆け引きを読む
第5章 大学の授業料は、これからも上昇を続けるのだろうか? ―難関大学を授業料値下げ競争に巻き込んで、学歴社会のムダをなくそう
第6章 地球温暖化対策に、高すぎる価格がつけられようとしている? ―不要なものに価格をつけると、二兎を追う経済政策が可能になる
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