読書メモ
・「君子を目指せ 小人になるな ―私の古典ノート」
(北尾吉孝:著、致知出版社 \1,500) : 2010.02.06
内容と感想:
本書はSBIホールディングSEOである北尾氏による中国古典講義である。
著者は論語などから様々なことを学んできたという。
今なお論語は「事の判断に役に立つ実践的な書」(プロローグ)であり、
「人間、いかに生きるべきかを教える実学・活学の真髄」を説いている。
論語の元になったは孔子の教えであるが、孔子は「君子(くんし)たる人間をつくろうと努めていた」(第二章)。
著者はその君子たるべき「人物の涵養」が、今の日本に求められていると確信している。
日本がそんな状況になってしまったのも、戦後のGHQの日本弱体化政策の成果だと考えている。
様々な社会問題が顕在化しているのも根本には戦後教育があるとも。
そうした問題意識が本書となり、タイトルにも表れている。
孔子は「小人(しょうじん)」とは「個人的な生き方を追求する人」(第一章)だと言っている。
そうした小人が増えると、国や地域は衰退する。
本書はリーマンショック後に出た本だ。直接そのことには触れてはいないが、
現在の社会的混乱の原因が「組織の上に立つ人間が君子ではなく、小人になってしまったことにある」、
「人間としてあるべき最低限の道を踏み外してしまった」(あとがき)と、様々なリーダーの堕落を批判している。
著者は49歳のときに自分に与えられた二つの天命を知ったという。
それは事業にかかわることと、福祉にかかわること(第二章)。
それを知ったあとは迷いはなくなったと語る。
失礼な言い方だが案外、そこに至るには時間がかかったのだなと感じた。私にもまだ遅くはない、と心が軽くなった。
天命を悟って、それを楽しむ境地に至れば、憂いはなくなる(第五章)。
そして「天命を知るために道を学ぶ」必要がある。
道を外しやすいのは「私利私欲があるから」であり、
学ばなければ「自分がこの世に生まれてきたのかもわからない」と言う。
憂いなく、心安らかに生きるために学ぶのだ。
再び、「人間、如何に生きるべきか?」。その答えは初めから自分の中にあると著者は言う。
古典は「その答えを引き出すための日常の態度、行動の仕方、人との接し方や物事の見方といった実践上のヒント」を教えてくれるのだ。
最初から論語を読むのがとっつきにくい、と思う人も本書から入るとよいだろう。座右に置きたい一冊である。
○印象的な言葉
・君子たる人間の備えるべき仁義礼智信(五常)
・信、義、仁を判断の規矩(きく。ものさし)としている。この三文字に照らし合わせて判断すれば軸はぶれない
・天は必ず見ている、自己を律する
・任天、任運
・自得:本当の自分を掴む
・理屈より実践、言葉より行動
・人生に惑わないために学ぶ。窮しても苦しまず、憂いがあっても心衰えず。
・命(めい)を知り、心を安らかにする
・洞察力:利害関係を超越した発想が必要
・SBI大学院大学:Eラーニング、文部科学省認可、MBAも取れる
・時務学:時代を活かすのに如何にすべきか、時局。孔子が説いたのは人間学と時務学。
・人を教えようと思ったら、まず自分が実行すること。道友として通じる。一方的に教えず、内発的な意欲を待つ
・良い点を伸ばす、サポートする。悪いところは叱らず直していく。個々にあった指導。人を見て法を説く。
・古典は歴史のふるいにかけられた精神の糧
・自分が成長すれば、周りも感化できる
・自分に起こるすべてのことは最善と思え(森信三)
・自己は一番失いやすい、自分を知るのは難しい
・恕(じょ):我が心のごとく相手のことを考える
・人間の三要素:徳性、知能、技能
・論語は様々な解釈ができる。読む状況によって変わってくる
・心が寄って立つところ、置き所を見れば君子と小人の違いが分かる
・仁:仏教の慈悲、キリスト教の愛、相手を敬う心
・他者の幸福をも願う人
・道を究める同じ志を持つ友だちの存在
・誰も自分の実力を理解してくれなくても不平不満に思わない
・礼を知り、言を知り、命を知る努力
・自立性を磨き上げて自由を確立する
・己の肉体は亡びても、志を受け継ぐ次の世代が出てくる
・義:決して背くことのできない厳粛な道理
・安岡正篤を私淑する
・明師良友は得がたい
・志とは本来、公に仕える心
・霊妙な存在の働きに心を傾ける
・天と我は一体。天は自分の意志を伝えるものとして人を生み出した。自分の心を突き詰めれば天を知ることにつながる。天命も明らかになる
・東洋の自然観:人と自然は一如
・直感的に捉える東洋。無駄を削る
・本を読んで知ったものは、人の借り物
-目次-
第1章 私にとっての中国古典
第2章 君子と小人 ―孔子の人間教育法
第3章 君子に備わる五つの徳 ―「仁」「義」「礼」「智」「信」
第4章 君子の条件 ―さまざまな君子像
第5章 天命を知る ―何のために生きるのか
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