読書メモ

・「2010年代・日本経済はこうなる
(吉田春樹:著、PHP研究所 \1,800) : 2010.10.28

内容と感想:
 
本書はこの先10年を目途に日本経済の中期展望を試みている。 日本の置かれた立場を世界的、歴史的、政治的な視野から多角的に検証し、政策にも言及し、2010年代の日本経済を論じている。
 長寿化、少子化、農村・都市の荒廃、社会保障制度の破綻、といった暗い話題はこの先も引きずっていくことになりそうだ。 第4章から第6章までは「日本産業の期待的中期展望」として明るい未来を描こうとしている。 しかし、特にびっくりするような予想は書かれていない。電気自動車や太陽電池、スマートグリッドなどは既に語り尽くされている。 未来は現在の延長上にしかないのかも知れないが、さすがに非連続な現象の予測までは著者も出来なかったのだろう。 著者は農業、観光、介護などの分野にも期待をしている。これもどこかで聞いたような話だ。 ポイントは世界の中の日本、アジアの中の日本として自立し、どう積極的に海外と関わり、貢献していけるかという点だ。
 唯一、興味を引いたのは今後の地域金融機関の役割だ。ネットバンキングの発達で存在意義が問われているが、生き残り策として、 高齢化社会に適応したサービス提供があるのではないかと述べている。 例えば、独居老人の資産管理の信託業務といったことだ。
 最後の「補論2」では民主党政権について、「新政権の盛り沢山な施策は行き詰まる」と予想している。ねじれ国会となった今、難しい政権運営が続けられている。 社会保障制度改革にしても、政治が国民の信頼を獲得できなければ、協力も得られない。明るい展望も描けない。そこのところを与野党ともよくよく認識してほしい。

○印象的な言葉
・増税には政治の信頼確立が不可欠
・日本型経営はヒト中心、米国型はカネ中心
・農業、観光業プラス頭脳産業。東アジアの工業技術センター、農業技術センターとなる
・CO2排出量25%削減目標は重い国民負担につながる
・今回の金融危機は金融資本主義の終焉にはつながらない。問題はFRBがバブルを見逃したこと、証券化というツールを雑に扱ったこと
・アジア版通貨単位が必要。域内の通過安定の維持、決済通貨の機能を持たせる
・東アジア地域で給与が平準化。景気が多少上向いても給与はなかなか上がらない
・特別養護老人ホーム(特養)の建設が遅々として進まない。入居希望者が何十年も待たないと入れない
・我が国には福祉国家の考えがない。社会保障制度を作りながら、そこに心がこもっていない
・なぜ日本は経済成長が止まったのか。成長の強力なモチベーションを欠いたから
・東京は英語が通用しない。国際都市としては失格
・金融取引がパソコンを通じて行なわれるようになり、地域金融機関にとって地域の意味が半減。地域金融機関の信用とネットワークが介護に活用できないか。高齢者の資産管理を信託する。 成人後見人制度。
・地域主権:住民の自治の確立。経済・文化で地域のアイデンティティの確立。住民の強い意志とレベルの高い政治、行政が必要。 住民が自ら徴税権を持ち、自分たちの地域の明日を考える。身近な地域への投資なら自ら金が集まり、回り始める。地方も人口・経済力で見ても国際社会では一国の規模。
・農業と観光は地方の基礎産業。資源(土地、農民、農業技術、歴史、自然)を域内に有している。
・農業ビッグバンが必要。生産性向上、競争原理を働かせる
・身寄りのない老人への生きること全体への支援。健康、精神活動、金銭問題。(→宗教家の役割も大きいのでは?
) ・シルヴァー産業:介護タクシー、浴槽付き自動車で高齢者を訪問する入浴サービス(→温泉旅館や日帰り入浴施設と連携しては?)
・超高齢者のゆっくりした歩みに付き合うという奉仕の精神
・一国で基軸通貨の機能を担うのは負担が重過ぎる
・高齢者や障害者に配慮した生活道路の整備

<その他>
・外国人観光客が地方で安心して入出金できるシステムはある?
・過疎化、高齢化に適応した宅配業、小売り。一人で複数の職種をこなす便利屋が必要
・過疎地にもコンビニを。24時間営業でなくてもよい。農協が支援すればいい。病院等への送迎
・道州制は電力会社の担当区分で分けるのが合理的?

-目次-
日米、それぞれの「危機」と再起
基軸通貨と自由貿易の命運
塗り変わる世界地図
人口減少で歴史的転機に立つ日本
日本産業の期待的中期展望
国民生活はこう変わる
結語・日本の生きる道
ぜひふれておきたいこと