読書メモ
・「国民の選択 勝間の視点 〜「先の見えない時代」を読む、変える」
(勝間 和代:著、PHP研究所 \1,000) : 2010.11.08
内容と感想:
本書では各政党のマニフェストを比較検討する際に、それを評価するためのフレームワークを提案している。
また、いま日本で問題になっている様々な論点、争点についての簡単な知識、視点を提供している。
政治に解決が求められている様々な課題が全部で15挙げられている。
この国にはデフレ対策や産業対策、雇用、教育、貧困、少子化、高齢化、医療、農業、財政、環境などなど実に多くの課題が山積している。
これらに対して、問題の解説とそれに対する提言も行なっている。政府が十分に検討に値すると思われる提言も多い。
本書が書かれたのは今年の参院選の直前の5月(発行は7月)。
著者は既に他の著書でも訴えているが、日本経済低迷の元凶は「デフレ」であり、デフレ対策が最優先課題だと認識している。
デフレの何が問題かというと、デフレが「弱い者いじめ」だから、というのが彼女の主張。
デフレが失業者や非正規雇用労働者など弱い立場にいる人たちを追い詰め、貧困へ至らせる恐ろしい力を持っているからだ。
私は関係ない、という人でも、デフレスパイラルが続けば、明日は我が身。
対策としては「日本経済復活 一番かんたんな方法」など著書のほうが詳しく書かれているが、
簡略して書けば、通貨供給量を増やしてマイルドなインフレにもっていけ、ということだ。
また著者はデフレは雇用や貧困問題だけでなく、少子化や教育、医療などの問題にも密接に絡んでいて、それがこの国から希望を奪っているとも考えている。
とにもかくにもデフレ脱却が一丁目一番地である。
○印象的な言葉
・日本の純債務はGDP1年分未満。税収は名目GDP×税率。名目GDPを増やすことが税収増のカギ。
・外需頼みのモノづくりからの脱却。従来のビジネスモデルは陳腐化。自己変革を怠ってきた。成功体験を引きずり過剰適応を進めた。それ以外の状況に適応できない。
・サービスをプラスした新しいビジネスモデルへ
・日本の製造業の得意としてきた改善も行き着くところまできた。わずか10%の外需産業が利益の大半を稼ぐ
・産業振興における国の役割は余計な規制を外し、参入しやすいインフラを整えること
・24歳以下の若者の半分が非正規雇用、失業率は11%超。
・雇用格差是正のためには正社員解雇の規制緩和が必要。セーフティネットの整備をセットで行なう。正規・非正規雇用均等待遇の推進。非正規の最低賃金の引き上げ。
・教育の底上げは教師の質の改善から。教師の数を増やして二交代制にしたり負担を軽減する。
・ゆとり教育の狙いは私的な学習を促進することにあった。教育の一部を家庭に任せた結果、家庭の経済状態によって二極化した
・国の教育予算を増額することで国公立大学の授業料を安くする
・日本的”中華思想”がある限り(日本の文化は一番だという思想)、移民受け入れは難しい。移民受け入れ先としての日本の評価は低い
・シルバー資本主義が日本の活力を奪う。日本は年寄り支配の社会。年寄りが多数派
・高齢者の生き甲斐の場を作る
・日本はエネルギーコストが高い、電気代、ガス代が国際標準の3倍。電力会社やガス会社が保護されている
・労働時間の短縮。仕事のやり方を工夫せざるを得なくする。休みを取ることを前提に逆算して成果を出すように工夫する。時間短縮分を雇用機会のなかった女性や若者が働けるようにする。
・相対的貧困率:所得額の中央値の半分に満たない人を貧困とみなす。7人に1人が貧困。高齢者では5人に1人は貧困。
貧困は本人だけでなく、社会全体を不幸にする。生活保障費や医療費がかさむことになる。社会の分断も進み、犯罪率も上がる。生活保護対象者で多いのは高年独身女性。
・職業訓練期間の生活を保障する制度の整備を
・相続税率を上げれば、遺産として残すよりは使ってしまおうと思う
・結婚しやすい社会は安定した雇用が基盤
・結婚により得られる成長機会:ワークライフバランスを考えざるをえないため生産性が向上。
・30年後、日本の人口は3割減る
・米国はベビーシッターや民間の保育園が充実し廉価。日本は民間保育の料金が高く質も悪い。保育サービス市場に競争原理が働いていない。
既存の認可保育園が保育園を増やすことに反対している。バウチャー制度の導入
・婚外子に対する差別制度の撤廃。相続権を同等にする。
・日本の賃貸住宅市場は十分に育ってこなかった。選択肢が少ない。ライフステージに応じて住環境を変えたいというニーズ
・賃貸住宅でも(住人自身で)リフォームすることで住人が長く住んでくれるなら大家にもメリットがある
・高齢化社会の一番の問題は社会全体が保守化すること。2008年の日本人の平均年齢は43.8歳。世界は28.9歳。
・高齢者向けの賃貸住宅の建設
・誰もが安心できる介護制度にするには国民が保険料の負担増を引き受ける決意をすること。
・末期患者の延命治療はやめて、ホスピスなどに資金を回すべき
・ワタミの介護事業での弁当配達業務は高齢者が担っている。生活費の足しになり、運動にもなっている。話し相手にもなる
・高齢者に育児世代の育児・家事をサポートしてもらう。保育園の送り迎えや夕食の支度など
・予防医学を普及させる
・医療過誤に対する訴訟リスクへのサポート強化
・食品に消費者がプレミアムを払うのは市場価格に対して15%が限界
・途上国から農業移民を受け入れ、栽培技術を学んでもらい、母国での農業振興に役立ててもらう
・中央省庁を解体・再編し、官僚を地方自治体に配置する
・近年の税収不足は富裕層への累進課税を緩和したのが原因。相続税も最高税率を引き下げたことで減収となっている。相続では基礎控除による優遇も大きい。
・途上国で特にニーズがある技術は車の整備、道路工事、金型技術。技術者を輸出すべき
・日本は海外から嘘をつかない、信頼できると思われている。約束は守るし、正直でフェアだと思われている
-目次-
デフレ対策 ―安定した物価上昇を政策目標とせよ
産業対策 ―既得権益を廃止し、ベンチャーが育つ風土に
雇用対策 ―労働時間の短縮で、企業も労働者も元気に
教育対策 ―「がんばれば報われる社会」だと教えよう
貧困対策 ―自己責任論で追いつめず、社会全体で取り組め
未婚・晩婚対策 ―若者の雇用の安定化が、結婚への道を広げる
少子化対策 ―あらゆる手段で、少子化に歯止めをかけよ
住まい問題 ―「所有する住まい」から「使用する住まい」へ
高齢化社会対策 ―高齢者が活躍できる場を地域につくれ
医療対策 ―医療と介護は、財政面での援助が必要〔ほか〕
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