読書メモ

・「国防論
(田母神俊雄、松島悠佐、川村純彦、勝谷誠彦:著、アスコム \1,500) : 2010.11.09

内容と感想:
 
コラムニストの勝谷氏と自衛隊幹部OB3人が国防について議論した本。 2009年5月に出た本だが、当時はまだ田母神氏が航空幕僚長を解任させられた一件がホットな時期。
 一方、いまだにホットな話題は尖閣諸島の問題。 田母神氏は第3章で尖閣問題に触れていて、 「日中が直接、軍事的に対立しないためにも、日本が実効支配の意志を強力に示しておくことが必要」だと発言している。 まさに国会でも菅総理が野党からしつこく念押しされていることだ。 もし日中が衝突するような事態になったらアメリカは日本に加勢できるか、という点については、 中国がワシントンに核ミサイルを撃ち込むと恫喝したら、それでもアメリカは日本を守るだろうか? 日米同盟に基づけば「守る」と言わなければいけないはずだが、 無人島を守るためにアメリカが自国民を核の脅威に晒すような決断をするのは難しい、と田母神氏は述べている。 そういう最悪のケースを日本政府は考慮しているだろうか。 果たして備えはできているだろうか?自衛隊だけで守りきれるだろうか。非常に心配だ。
 北朝鮮の核問題も同じだ。 「(彼らが)核を持つという前提で安全保障を考えるしかない」、と田母神氏。 また、自衛隊について、「国を守るための力を制限された組織では国防は全うできない」、と語るのは川村氏。やはり憲法改正は必要だ。 「現行憲法では国防について一切触れていない」、と松島氏は指摘。問題なのは憲法九条だけではなさそうだ。
 田母神氏は政権交代の先のことも見据えて、政界再編の話もしている。 彼は真正保守の政治家の政党ができることを待望しているようだ。 巻末資料には「自衛官の心がまえ」というものが掲載されているが、 これは「日本人の心構え」としても読み替えることができ、自衛官でなくとも意識しておくべきと思える名文だ。

○印象的な言葉
・対馬、沖縄の土地を韓国人や中国人が買い漁っている
・核兵器ではない核抑止力。原子力潜水艦をもて(息の長い行動が可能)。NPTに加盟している日本は核武装は難しい
・防衛省内局の背広組は官僚、たまたま防衛省に配属されただけ。自衛官は「制服」組。両者に信頼関係が成り立っていない。背広組は政局を見ているだけ。 制服組は大臣には内局の文官を経由しないと報告ができない。時間がかかる
・やってはいけないことだけを決めておくのが軍隊の基本。自衛隊の部隊行動基準はその逆。そこに書いていないことは何もできない。
・日本以外では軍人は国家組織の中で最もモラルの高い人たちと認識されている
・文民統制の「文民」とは国民から信託を受けた政治家のこと
・日中戦争が泥沼化したのは当時の近衛首相が戦争を続けると言ったから。大陸の権益を手放したくないという民間の声を抑えられなかった。文民暴走。
・大東亜戦争:日本はしたくなくても戦争をせざるを得ないようにどんどん仕向けられていた。ルーズベルト大統領は植民地が欲しかった。 マッカーサーも「日本は主として安全保障のために戦った」と言っている
・南シナ海、台湾の南の海域、西沙・南沙諸島を中国は自国の領土にしている
・核保有を論ずるだけでも抑止力になる
・アメリカの巡航ミサイル、トマホークを買ってくるのが安上がりで手っ取り早い。
・作戦の基本である情報を積極的に収集する情報機関がないのが最大の問題
・軍法:戦場で起きることについては通常の法では裁けないというのがグローバルスタンダード
・憲法廃止は衆参両院の過半数で決められる
・今後は大国同士が衝突するような大きな戦争はあり得ない
・日本は日米安保の枠内で役割を拡大していくべき。日米はお互いの持ち味をきちんと出していくべき
・自衛隊は陸海空三軍の統合が必要。内局は分割統治したがっている
・危険な場所に自衛隊を派遣するなら、自衛戦闘能力をもたせるべき。その態勢をしっかり整えることが政治の務め。 いざというときに武器の使用を躊躇させるような状況のままでは、やられてしまう。
・海上自衛隊は冷戦を戦っていた。ソ連太平洋艦隊の太平洋進出を抑止していた。宗谷、津軽、対馬の三海峡の防衛を行なっていた
・アメリカ海軍と海自の関係は良好
・自衛隊が守るもの:日本の伝統文化、国民の生命、財産、国体、国土、思想、国柄、尊厳、歴史
・戦争を作り出すのは無知

-目次-
第1章 田母神以前、田母神以後 ――論文騒動で何が変わり、何が変わらなかったのか
第2章 「日本は侵略国家ではない」 ――捻じ曲げられた歴史認識、これが問題だ!
第3章 激動のアジアを生き抜く戦略とは ――自衛隊の強さ・弱さを検証する
第4章 自衛隊よ精強たれ ――自衛隊が守るべきものとは何か?