読書メモ

・「真・国防論
(田母神俊雄 :著、宝島社 \1,400) : 2010.07.04

内容と感想:
 
著者は元・航空幕僚長で、民間の懸賞論文に個人として投稿した論文が問題となり退職に追い込まれた。 その騒ぎを「まるで言論封殺だと感じた」そうだ。 「重要なポストにいる人間が自由に意見を述べることを許されない状況は、本当に民主主義といえるのだろうか」と、 日本国憲法が保障する言論の自由に反する国の有り様に疑念を抱く。 本書は一民間人となった著者が、専門の軍事の視点から日本の将来を案じて、現状分析と政策提言を行なっている。
 「はじめに」では問題となった論文に関して、過去に日本が行なった戦争を自虐史観的にみることは、 「国民としての自覚や誇りをなくさせるだけでなく、外交面でも不利な立場に追いやられる」とし、 公正な歴史の見方の必要性を説いている。
 日本は現在、周囲を挑発的な国々(北朝鮮や中国)など不安定な要因に囲まれている。 平和を維持するためにはまず外交だが、「軍事力は外交交渉の後ろ盾」という認識が日本人には欠けている。 鳩山前首相が”勉強したら”普天間基地の海兵隊が抑止力だと分かったと発言し、失笑を買った。 軍事力は本来、「実際に使うためではなく、武力を使わずして平和を維持するため」にある。それが抑止力だ。
 本書では現在の国防体制の問題点をいくつも指摘しているが、日米同盟については 「自分の国は自分で守れる方向に向けて、努力をすべき」と至極当然のことを書いている。 米軍には徐々に引き上げていってもらうのが基本だ。 しかし米軍の軍事力が減少する分は自衛隊を増強してバランスを取る必要があると著者は考えている。 社民党や共産党のように単純に「米軍出て行け」では、軍事バランスが崩れてしまう。 予備自衛官制度をより拡充することも必要だろうとも言っている。
 尖閣諸島など広大な南西海域の防衛のために、下地島や石垣島に航空自衛隊基地の設置や、 空母の保有など航空戦力の充実が必要だとも提言している。 また、自衛隊装備の国産化を進め、安価に調達できるようにし、 米国からの割高な兵器を購入を抑制することにも触れている。
 本書のような本質的な国防論議が今回の参院選でも争点にならなかったのは残念である。 いつも優先度が低く、防衛費は毎年削減されている。政治家は本当に国民の安全を守る気があるのか疑問だ。 我々ももっと突っつくべきだろう。

○印象的な言葉
・過去を今の社会の尺度で測り、単純に断罪することからは何も生まれない。社会常識やルールも違う
・国際社会は性悪説で眺める
・強いことが戦争を回避する
・ゆきすぎの専守防衛。力の差がなければ専守防衛は成立しない。自衛隊には攻撃的な武器がない
・ヒューミント:人間やメディアを使って情報収集。外交官や駐在武官
・周辺諸国がすべて大人の対応ができる国とは限らない
・北朝鮮や中国は常にどこまでやれば日本は抗議や反撃をしてくるか探っている
・自衛隊は反撃の射撃すらままならない、不自由。禁止事項以外は自分の判断で動けるようにすべき。 自衛隊には「やっていいいこと」(ポジティブリスト)だけが決められている。
・「日本は反撃しない国」と誤ったメッセージを送ることは日本への侵略を誘発する
・いちいち上の判断を仰いでいては自衛隊員自身の生命も危ない
・米軍基地で働く日本人の給料は日本政府が出している
・北朝鮮のミサイル基地の空爆は航空自衛隊でも可能
・領土問題は既成事実を作られたら負け
・政治家や官僚は国民を守るために役割上、悪い人になる覚悟が必要。
・アメリカは本当にアジア地域の安定を望んでいるか?揉め事があったほうが利益がある?揉め事に介入・関与することで影響力を行使できる
・アメリカが自衛隊に売る兵器は使い古し。アメリカ製の兵器を使わせることで自衛隊をコントロールできる。兵器にはソフトウエアの割合が大きい。
・自衛隊は古い潜水艦を金をかけて壊している。世界には中古でも買いたいという国もある
・同盟関係とは双務的。互いに助けることはできるが、必ずしも行動を共にしない。自分で参加するかしないか決める。 現在の片務的な日米同盟ではアメリカの戦争に巻き込まれる
・ニュークリア・シェアリング:独伊蘭、ベルギー、トルコが米国と結ぶ条約。アメリカの核を使って反撃できる
・テロリストとは交渉しないのが世界の常識
・防衛省の内部部局は自衛隊と防衛大臣・総理の間に位置する官僚組織。内局を通さないと情報を上げられない。内局と自衛隊との間に信頼感はない
・大臣は方針だけ示して、あとは現場に任せる。責任は取る
・官僚を叩き過ぎると、優秀な人材が来なくなる。政治家に協力しなくなる
・徴兵制をとる国はロシア、韓国、ドイツ。世界的には徴兵制はなくなる方向。必要な兵士が集まる
・軍事力はバランスを均衡させることが重要
・中国は台湾を軍事攻撃で取ろうとは考えていない
・国民の安全確保のための軍隊、それに代わるものはいまだ見つけられていない

<感想>
・日本製の武器輸出に触れているが、他国の軍事力を高めることは脅威を増やすだけで、自らを危うくすることになる

-目次-
第1章 防衛論
 防衛論~国家の安全を考える
第2章 自衛隊を真の国軍にするために
 自衛隊の前に立ちはだかるもの
第3章 自衛隊に必要な装備とは
 自衛隊が世界に並ぶために