読書メモ

・「面白法人カヤック会社案内
(柳澤大輔 :著、プレジデント社 \1,429) : 2010.08.07

内容と感想:
 
その社名からして「面白法人カヤック」と、ユニークな会社を想像させるのだが、 同社の代表取締役の著者が会社案内を「出版」したのが本書である。 帯と表紙には漫画家・池上遼一氏の手による人物のイラストが描かれている。 2008年に創業10周年を迎えた同社はいわゆるネット企業であるが、 同社のホームページにアクセスしてみても分かるように「漫画っぽい」会社である。 帯にも書かれているが、会社設立時には「経営理念や戦略は、すべて漫画を軸に考えた」そうだ。 それが「経営スタイルのひとつのキーワード」にもなっている。
 本書はタイトルに会社案内を謳っているとおり、内容は経営理念から行動指針、沿革、事業内容、戦略、財務、組織・採用など、 ひととおりのことが書かれている。しかし、企業のホームページやパンフレットにありがちな無個性で無機質なつまらない内容になっていないのは流石。 今年36歳を迎えた若手経営者の熱い思いが込められている。社員らが楽しく仕事をしている様も伝わってくる。 そして本の構成にも「漫画っぽさ」を忘れてはいない。
 個性的なのは経営理念にも表れている。「つくる人を増やす」の一言。短すぎてピンと来ないが、色んな思いが込められている。 詳しくは本を読んでみていただこう。 行動指針も「カヤックスタイル」を言い表してる。ふざけていると思われそうな項目が並ぶが、本気である。 表紙に書いてある「給料はサイコロを振って決めています」というのもその一つだし、 判断基準を「漫画っぽいか?」に置いているのも一つ。
 心配なのは本当にこれで会社はやっていけてるのか? 今日現在、ホームページも更新されているようだし、まだ潰れてもいない。 ホームページには財務状況も公開されているが、売上も年々伸ばしているようだ。 経営の「収支が成り立たなくなったら、それは社会に貢献していないということ」。そのときは潔く「解散」、とも書いている。 それは「面白法人」でなくなったときなのであろう。
 どうしても軽さ、軽薄さすら感じてしまうのだが、 Google社にも共通した何かも私は感じる。突き抜けた明るさのようなものを。 そうした会社が一つでも日本に存在することが素晴らしいと思うし、奇跡にも思える。 従業員数97人の彼らから学ぶことは色々あった。

○印象的な言葉
・一緒に働く仲間、尊敬しあえる関係、対等な関係、自分も負けていられないと思える関係。喜びを共有。とことん付き合う。
・人を楽しませる、面白いと言わせる。独自性、個性
・ユニークであり続ける仕組み:新規事業にこだわる、新しいものをつくる「ラボラトリー」。収益性が着たいできないものも作っては潰してきた。つくりたかったから。 ちょっとした思い付きを、いかに早く、数多く具現化するかが勝負。他社でも事業として伸ばしてくれるところがあれば譲渡。数にこだわるインキュベーション組織。
・利益は目的を達成するための手段、目的を達成した後の結果。社会に貢献するために利益を得る、貢献した対価として利益を得る
・ありきたりな経営理念は心に残りにくい。忘れてしまう。一言で覚えられて、力をもつ言葉。迷ったときに、道しるべになる言葉。
・つくることは見つめること、自分を深く理解すること、価値基準を知ること、与えること、つながること
・新たなコミュニケーションや価値を生む
・自分の人生を迷いなく仕事に集中させる
・経営理念に沿って人を集める。価値観が一致したチームになる。多様性より似た者同士。
・サイコロ給:基本給×サイコロの出目%。減ることはない。人の評価は曖昧なもの。サイコロの振れ幅は人の感情による振れ幅より小さいはず。
・スマイル給:お金にはならない(0円)だが、その人の良いところを給与明細に記載。仕事直給や、阿吽の呼給、菩薩給など、
・漫画のヒーローのような法人。オリジナリティ、ありきたりでない道を進む。変わり続ける。ちゃんと稼ぐ。
・凡人であることを受け止め、その上で頑張る。数を打つ、継続する。
・社名の響きには感性が表れる
・カヤック:イヌイットが使う小船。過酷な環境でも沈まない。イヌイットは土地と動物に深い敬愛を持つ。土地に執着しない。素早い決断をよしとする
・人の思いをみんなで共有し増幅させていくことが、よい社会をつくっていく
・領域(技術やジャンル)を絞る
・クライアント、ユーザ、自分たちの三者をハッピーにする
・YESの数だけ、NOも言う。NOの100倍、案を出す。
・レベニューシェア:売上に応じた成果報酬。
・初期費用をもらって売上が目標値を超えたら成果報酬ももらう
・受託のよさ。自社よりクライアントのブランドで出したほうが影響力がある場合もある。クリエイターとして別の表現に挑戦する機会。表現の幅が広がる。創造性をフルに使って提案。 制限があったほうが創作意欲が湧くことも。実験したことを提案。
・絵のオンラインショップ:絵の良し悪しは決めない。主観だから。面積で価格決め。世界のどこかに一人くらいは「いい」と思ってくれる人がいるはず。
・戦略は即興、無計画。丸腰だからこそ、よいものが生まれることもある。リラックスして楽しめば、面白いものが生まれる。変化に強い組織。
・元気玉:アイデアに行き詰ったときに、メーリングリストに窮状を訴え、みんなの知恵を借りる。誰かのアイデアに触発されることも。
・企業活動すべてが「クリエイターによる作品」。会社の制度やビジネスの仕組みそのものが表現の対象。
・財務情報は企業の通信簿。公開することは経営陣への健全なプレッシャー。
・固執しない、おおらかさ、素直だから毎年変化する。達観。
・マイペース。自分でペースを作れない人を集めても自律型組織になりにくい
・素直に反応できる力がセレンディピティを引き寄せる。出会った全ての情報には、ためになるヒントが隠されている
・会社を辞めたい理由を突き止めることができれば、協力して取り除くことが可能かも
・退職願を受理せず、放浪させる。あえて他社も薦める
・定型的な教育の取り組みはない。
・互いに作ったものを発表しあう勉強会。自分で学習する人が多い
・イントラネットで業務に必要なマニュアル、社員のタスクや活動状況、社員同士が語り合う場、成功談・失敗談、エピソード、人事評価などを共有
・席替え、人事異動も意識的に活用し変化を与える
・感情的になっているとき思考停止する。自分を客観視できない。いろいろな視点で物事をみられるのが「自由」
・自分が組織に与えているものが多いと実感できれば自信をもって楽しく仕事ができる。出し惜しみしない。
・外部に発信しているか、時代の流れに敏感か
・表面は柔らかく、中身は芯が強く、骨太
・「狙い」を持ち、何かを成してやるという意欲と活気。発見をサポートする自由でフレンドリーな雰囲気。探索を続ける職人としてのこだわり。
・仕事のこの楽しくなさは、どこが間違っているのか?
・リシアス・プレイ:遊びのようだが真剣。演じているが本気。創造的であるためには、いかにも働くという姿勢では足りない
・人間存在の二重性:何かのために働き、他方で何かを共にする人たち同士で集う。そこに神業的で祝祭的な場が生まれる
・好きでもないところに居続ける自分を好きになれない。自分のためにも仲間のためにも、社会のためにもよくない。
・他人任せな人と仕事をしても楽しくない

-目次-
代表ごあいさつ ―「ずっと」楽しく働いてこられた理由
経営理念 ―社員全員が暗唱できなければ意味がない
行動指針 ―サイコロで給料決めてます
沿革 ―1998年、資本金3万3000円でスタート
事業内容 ―「絵の測り売り」から「どんぶりカフェ」まで
戦略 ―ユニークであり続ける仕組みを持っています
財務 ―上場するかどうかはわかりませんが、全部見せます
組織・採用 ―あなたのつくったもの、見せてください!
CSR活動 ―本来はこういうことですよね?
事業所一覧 ―フィレンツェと静岡に支社があります
お客様の声 ―はっきりいって褒めすぎです
解説 理念経営の新世界