読書メモ

・「ジャパンクールと情報革命
(奥野卓司 :著、アスキー新書 \752) : 2010.06.27

○印象的な言葉
・本歌取り。和歌は一種のパロディづくりの連続。原典の知識があればより深く楽しめる新たなコンテンツが生まれる
・遊牧社会こそ情報社会
・「モノ語り」づくり(コンテンツ)
・GNPからGNC(Gross National Cool、国民総魅力)
・外伝の系譜。サブストーリー
・ジャパンクールの底流はアニミズム
・情報社会、脱工業化社会。知識を生産財とする社会。情報を生産し、消費する社会
・80年代のアメリカは「失われた10年」と称される屈辱の時代。失業率の急上昇で支持を失った共和党
・日本は根本的な産業構造の転換を果たせないまま。経済大国のノスタルジーに浸っている
・既存のコンテンツに触発される形で別の新たなコンテンツが派生。二次創作物
・コンテンツを媒介にするコミュニケーション、コミュニティを含んだ文化
・著作権者の許可なくコンテンツをアップロードすることは違法だが、それに対応できる課金の仕組みが確立していないのが問題
・同人誌などがキャラクターや内容を真似ているのが違法だとしても、オリジナルの拡大に寄与している場合もある。利益を得られていない状況は変わらない。自滅。
・絵画や彫刻がもつ価値。有名な作家による唯一の作品に生じるオーラ。コピーされた瞬間にオーラは失われる
・源氏物語は江戸時代にパロディが大量に作られ、逆に源氏物語が古典として成立し、伝統として残されるに至った
・伝統芸能は近代に編集、再編されることで知られるようになる
・江戸時代には落語に原作者はなく、著作権を主張するものなどいなかった、噺を師匠から弟子に口伝てで伝えた。それぞれがアレンジし、表現の仕方も変えた
・情報社会では情報への対価は享受者の一方的な価値判断によって支払われる「御布施」のようなもの。御布施として課金する新たな著作物ビジネスモデル (→任意の後払い。果たして払ってもらえるか?売上予測のできない不安定なビジネス)
・文化的な連続性をもつ日本。文化的連続性をもたない地域のほうが地球規模では圧倒的に多い
・地球の大部分の文化と空間は定住した農耕地や製造拠点をもたない遊牧社会。遊牧民族が世界の歴史をいくたびも変えてきた。 我々は遊牧社会の国々を省いた世界史を学んできたために、世界全体が段階的発展を果たしたように信じ込んでいる
・英国が工業社会への転換を余儀なくされたのは農耕社会が成功しすぎたため。小麦の生産量が需要を遥かに上回り、生活に見合う対価を得られなくなった。 新たな消費欲求を顕在化させることで工業社会は成立(→工業製品の過剰供給の現在に似る)
・元の社会の生産力の過剰により新たに生まれた潜在的なニーズが新たな技術をきっかけに顕在化し、社会が新たな段階に移る。 生産物の物質的価値が失われたとき、それに付随する情報の価値が相対的に重視される。(→ブランド、物語性、歴史、伝統、文化)
・定住しないからこそ「モノ」でなく「コト」、情報を重視する
・歴史とはすべてが物語り。今日の人間の解釈で過去を解釈したもの
・食に困ることがなくなった結果、生産性向上より楽しみや遊びを重視する社会へ移り変わった
・江戸時代の歌舞伎には時代に合った趣向を加え、ニュースネタや噂を取り入れた
・アメリカが世界を納得させることができないのはソフトパワーに欠けているから(ジョセフ・ナイ)(→歴史が浅いから、独自文化がないから)
・プロとアマチュア、ファンの三者ネットワーク(家元、目付け、数寄者)。プロの演者、師匠、弟子、目利きに至るネットワーク。プロとアマの世界に連続性のあるネットワーク。
・中国国内で上映される映画の4割は共産主義教育映画。中国のTVで放映されるアニメは子供向け教育アニメ
・江戸時代に誕生した粋(江戸では「いき」、上方では「すい」)。町民の間で生まれ成長
・江戸の大衆文化から現在のジャパンクールに至る4つの連続性:表現手法、展開、創作者から享受者までの関係、価値観と美意識の連続性
・モノ語りづくりは双方向で
・歌舞伎には善悪二元論では割り切れないキャラクターが登場。多色刷りの価値観。粋か野暮か。
・動物や生物以外のモノに対しても魂が宿ると考え、親しみを覚える日本人
・金魚や朝顔の品種改良に見る日本人の「遊び」。モノづくりの技術をモノ語りづくりに展開。その逆もありうる
・アンケートによるマーケティングリサーチが全く意味を持たないのが東アジア型の情報社会。量的調査の限界は現在の中心は分析できても、明日の中心の予兆を知ることにはつながらない。 分析の時点で既に現在の中心は過去になっている。
・メインストリートから新しいものは生まれない。裏筋で作られる実験的な商品、評価の定まっていないマニアック商品
・文化は中心ではなく、常にその周縁で変化し、新しいものが生まれてくる
・モノ語りつくりの未来はロングテールの尾のニッチマーケットにある
・ユーザの生活の場をフィールドワークすることで彼らがどんなモノ語りをもとめているのかを知る
・ユーザ自信が新しい使い方を工夫できる

<感想>
・日本の駅前シャッター通りは活気を失い荒廃、不潔で危険なダウンタウン化
・ネットバンキングこそ過疎地に向く
・クラウドコンピューティングによりパーソナルな情報をネット側に吸収、管理されてしまう。端末はもはやパーソナルコンピュータとは言えない。ただの端末
・人種が入り混じるネット時代の新たな民族、文化が発生する可能性。ネットで助け合い、アイデンティティを維持
・産業革命にしろ、革命とは短期間でなしとげられるものではない
・メーカーは製品を通じて新たなライフスタイルを提案していく必要がある

-目次-
第1章 日本は「モノづくり」大国か?
第2章 「涼宮ハルヒ」の教えたこと
第3章 工業社会の後に「情報社会」が来るという嘘 ――江戸時代は「情報社会」だった
第4章 「モノづくり社会」から「モノ語りづくり社会」へ
第5章 東アジアの「モノ語りづくり」産業 ――台湾・韓国・中国へと伝播するジャパンクール
第6章 農耕社会・日本が情報社会に生きる道 ――アニメ・アニマル・アニミズム
第7章 情報社会のユーザーの姿を探る法 ――今振り返る江戸時代型「モノ語りづくり」