読書メモ
・「「依存症」の日本経済」
(上野 泰也:著、講談社 \1,500) : 2010.09.17
内容と感想:
日本では10のよくない依存体質が観察されるという。経済全般、産業構造と規制、教育・マスコミ、マネーとマーケットなどの分野で見られる依存症を
全部で10個挙げ、各章でそれぞれの問題点を明らかにしている。問題点が明らかになれば対策も考えられる。
例えば、製品輸出や国防の米国依存、資産運用は預金依存、公共事業は建設業依存、個人消費は女性依存、教育は学習塾依存、などなど。
そうした依存体質がこの国を沈めさせると警鐘を鳴らす。
依存はある程度仕方がないとしても、弊害が出るほどの依存体質ではまさに病的である。治療が必要だ。
さて、少子高齢化が課題の日本。
第11章では秋田県が人口減少・少子高齢化で10年先を走っている現状を取り上げ、秋田県を考察することで「日本の未来図」を考えている。
私が最も興味が引かれたのもこの章だ。私自身、地方で生まれ、地方で暮らしているから人ごとではない。
まず秋田の良い面。小学生の全国学力テストが全国トップクラスを誇る。
その要因だが、学校が地域の拠点として根付き、地域・家庭・学校の連携が学力向上に結びついているからという。
少人数学級でのきめ細やかな教育指導や、習熟度別授業を取り入れ、優秀なスーパーティーチャーによる指導技術の向上も図っているそうだ。
一方の負の面。高齢化で彼らが動ける範囲が狭まっている。公共交通機関は路線や本数の増加は期待できない。これは日本全国で起きている現象だろう。
高齢者宅への訪問販売の充実が必要だと述べている。観光資源の活用や産業構造の転換などを図っていかないとこの先、厳しいと見る。
日本人の平均年齢はたしか50歳近いと聞いたことがある。世界の平均は20代だ。年をとることが悪いとは言えないが、少子高齢化が進めば国として活気を失っていく。
このまま静かに衰退の道を選ぶのかどうかは国民の意志にかかっている。
○印象的な言葉
・建設投資額はピークから4割減。農業など他分野進出・転業支援を
・観光資源はたくさんある。文化も観光資源になる。「何々に縁がある地」というだけで外国人を呼べる
・オーストラリアでは人口が増加。資源ブームを背景にした好景気で海外から労働者の移住が増えた
・公共事業による「ハコモノ」の建設は経済の生産性向上には役に立たない。施設の維持補修費などに後年も財政負担がかかる
・体力と技術力のあるゼネコンは展望が明るい海外需要を取り込む。中小の建設会社は海外に打って出る体力や技術力がない
・食糧安全保障は平時ではなく有事を前提にした概念。日ごろから各国と良好な外交関係を築き上げておくことが重要。
他国より生産性が低い農作物は輸入に頼るほうが経済全体のパフォーマンスは向上する。輸入先の多様化によるリスク分散
・カロリーベースで自給率が高い先進国では大量の輸出が恒常化している。背景には農家に対する厚めの補助金支給がある。発展途上国の農業生産を圧迫している。
・日本は農家の保護ではなく、生産性向上を目指すべき。営農規模の拡大。バイオテクノロジーなど研究開発。主要農産物の備蓄強化。安全性をアピール。輸出の促進
・フランスは経済に対する国の介入が伝統的に強い
・日本はルールと組織を作ることに重点が置かれ、ルールや組織がワークしているかどうかの検証は二の次になりやすい。不要になったルールや組織がそのまま残されている
・規制緩和が経済へ及ぼす効果は事前にはつかみにくい。規制強化の影響の度合いは事前に想定しやすい
・教育インフレ:授業料等の上昇。補修教育、教科書、学習参考教材が値上がり
・中堅層の教員にやる気がない。頑張っても報われない、児童生徒の学習意欲が低下、PTAがクレーマーの集団と化している
・読者の本の選び方がランキング依存になっている
・景気が悪いときほどマスコミ報道に関心が集まる
・中国という国を経済以外の面まで含めて十分研究した上で、投資するか最終決断すべき
-目次-
第1章 日本の個人消費は「女性依存」 −婦人服売上高にカギがある
第2章 お父さんのこづかい減少でわかる「交際費依存」体質 −「消費弱者」に逃げ場はあるのか
第3章 なお残る「建設業依存」と構造調整圧力 −中小・非製造業は生き残れるのか
第4章 食料の「海外依存」は本当に問題なのか −40%の食糧自給率が意味するもの
第5章 緩和への熱が冷め「規制依存」に逆戻りする日本 −このままでは国ごと沈んでしまうのか
第6章 教育はどこまで「学習塾依存」を強めるのか −ゆとり教育が生んだ3つの弊害
第7章 景気判断や買い物で「マスコミ依存」する日本人 −景気の波と報道の影響力の関係
第8章 投資に移行しにくい家計運用の「預金依存」 −間接金融中心で何が悪い?
第9章 主導権を握れず「外国人依存」が続く金融市場 −ブレークスルーを生む政策を打ち出すために
第10章 日本経済はやっぱり「米国依存」 −否定された「デカップリング論」
第11章 ケーススタディ:少子高齢化の秋田県は「日本の未来図」
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