読書メモ

・「iPhoneアプリ成功の法則
(日経BP社出版局:編、日経BP社 \1,800) : 2010.08.14

内容と感想:
 
帯には「サンデープログラマーで4000万円以上、2人の会社で3億円を売り上げる」と景気のいい文句が躍る。 甘い言葉で本を売ろう、開発者を釣ろうとするが、世の中そんなに甘くない。
 iPhoneやiPadの人気で、iPhoneアプリにソフトウエア開発者の注目が集まっている。 一攫千金を狙う者も大勢、世界中からアプリ市場に参入してきている。 App Storeには既に20万種類以上のアプリが登録されているというから凄い。 App Storeという仕組みの魅力が開発者を惹き付けた理由の一つでもある。
 iPhoneの登場で、スマートフォンが世界を変える、ライフスタイルを変えると直感した人は多いだろう。 単純に面白いことが出来そう、と考えることができた人、フットワークの軽い開発者は既にアプリを作成して、世に問うている。 しかしそこには確実に収益を出している者もいれば、利用者の少ない作者もいる。
 本書は、そんなiPhoneアプリ事情を作成者側からの視点で描いている。 第1部では8人の人気アプリ開発者たちが自ら、アイデア発想法や、開発のコツ、アピール術などを紹介している。 第2部では市場動向や販売戦略について解説。
 しかし、アプリ市場も既にデフレ?と思える状況だ。 「一発芸的なアプリは出尽くした」(第6章、8章)という開発者もいる。 本書に登場する人の中には既にアプリ開発で起業し、収益を上げている方もおられる。 出遅れたが、これから参入しようという人にも参考にはなるだろう。
 ビジネスとしては難しいという開発者の声もある。 第2章の深津氏は「本当に欲しい人がある程度いるようなアプリなら、コンスタントに売れ続けるのでは」とも言う。 第3章の廣瀬氏は「皆が買うアプリではありませんが、必要としている人はいる」というし、 第4章の柳澤氏は「まだ大企業が本気で「いける」と思えていないから、僕たちにも入り込める場所がある」。 一方で、第6章の宮田氏は「iPhoneアプリ開発のためだけに起業するという行為はまだ止めたほうがよい」と言っている。 第7章の森氏はアプリ開発のコンサルティング、法人向け専用ツールの開発で収益を出している。
 今後、iPhoneアプリ市場はより短命になるだろうと、第2部では書かれている。 売上はApp Storeのランキングに依存するらしい。浮き沈みが激しいようだ。 アプリ単価の主流は115円だそうだが、世界のユーザを相手にできるから、広く受け入れてもらえれば、単価は安くても数が出れば、凄い儲けになる。 第2部でも指摘されているが、マイク、ビデオ機能、コンパスを使ったアプリが少ないようだ。依然としてチャンスはあると考える。
 Apple社の成功に追随して、GoogleはAndroid搭載スマートフォンと、「App Store」に似た仕組みでアプリ開発者やユーザを引き込もうとしている。 MicrosoftやNokiaも同様。 こうなると開発者としては、どの端末にアプリを提供すべきか迷うところだ。数が出るところに向けて作るという戦略もあれば、 その端末ならではの特定ユーザ向けに作る、開発者自身が使って使い心地のいい端末向けに作るという戦略もある。 一番いいのはどの端末でも動くような仕組みを構築することだが。また、クラウドと連携したアプリにもチャンスがあるだろう。 各企業の開発者の囲い込みが熾烈になってきた。
 iPhone以外の端末向けにアプリ開発を検討している者にも本書はヒントを与えてくれるだろう。

○印象的な言葉
・口コミで伝えたくなる
・ユーザの反響、反応が直接プログラマーに届く。リアルタイムに。レビューを見れば売れている理由も分かる。ユーザと近いところで作っていく。自己表現。
・膨大なアプリの山に埋もれる
・サプライズを狙う、ニッチ市場を狙う。喜んでくれる人の存在。ブルーオーシャン。魔法のように見える。
・海外を狙うなら多言語化。翻訳業者に依頼。海外ユーザのサポートも想定問答集を用意。サポートも任せ費用も出す。言語不要のアプリも。
・作りたいものを作る、という自由。実験を楽しめる。やろうと思えばやれる環境。
・ブログの動画でアピール。プレスリリース、雑誌広告。愛好者がいそうなところにアプローチ。
・大手と真っ向勝負はしない。大企業は費用をかけて開発してもコスト回収できないリスク。
・無料版の先行公開から有料版につなげる。価格の変更しやすさ
・期間限定セール
・シンプルなデザイン、機能をそぎ落とす、わかりやすさ。コンセプト、タイトル。ときには要望(コンセプトに合わない)は受け入れない。
・頻繁なアップデート。素早いリリース
・気持ちよさを追求、ユーザに想像力をふくらませてもらう。音が出る、ビジュアル重視。演出、使い勝手が重要。指が画面に触れたときの感触。人に見せるシーンも多くなる
・コード公開。同じ苦労をほかの人がしなくてもよいように。バグもどこをどう直してよいか教えてもらえる。
・Cocos2d:フリーのゲーム用エンジン
・税務関係の審査に時間がかかる
・楽器が弾けなくても演奏を楽しめる(→好きな楽曲を取り込めるといい)
・情報が少ない中で、やりたいことを実現するにはどうするかだけを考える。用意されていそうなライブラリを推測して利用
・iPhoneにはガベージコレクション機能がない。自分でメモリ管理
・自分でコントロールできないところを楽しむ。再現性がないことを魅力にする
・チープな機能でも面白い
・インターフェースのガイドラインの遵守、アップルのビジネスを脅かさない
・アイコンが第一印象を決める
・競合アプリを無料で出すことで場が荒れる。(→値下げ競争、質の低下)
・ユーザが増えるとサポート対象も増える。メールでのサポート。信頼感。
・売れ行きがApp Storeランキングに依存し過ぎている。ランキングから落ちると露出がなくなる。ランキングのアルゴリズムは未公開。(→良いものは使い続けられるから、それでいいのでは?)
・コンテンツは別企業から提供してもらい、売上を配分(レベニューシェア)。分業。
・国語辞書の魅力を再発見。言葉の魅力。言葉との出会い。コンテンツの魅力を引き出すアプリ。ぱらばらとめくって眺める楽しみ。(→学習する辞書)
・Twitterでは小さな声を見つけられる。ユーザの反応を自分で探しに行く。噂はあっという間に広がる
・バグにはまずユーザに現状を報告。命や金銭にかかわる緊急性の高いものでなければ、説明して謝って迅速に対応すれば待ってもらえる。
・RPGなどはノウハウもマンパワーも必要。ゲームは総合的な芸術の力が求められる
・ユーザ同士で遊んでもらう場を提供
・ネット対応アプリ。サーバ管理。ソーシャル機能内蔵アプリ。
・iPhoneを使っていないときに使うアプリ。毎日使うものは飽きないようなデザインに。
・アップルの登録手続きが遅いときは「まだか」と問い合わせる
・Web上のユーザの人気投票で要望を聞く。要望の取捨選択は難しい(→リスクでもある)
・アップルはアプリ審査が拒否される理由は教えてくれない(→不親切)
・アート作品。誰かが同じ時刻に同じ場所で撮影した写真を見る
・DaRuMa:災害情報収集用のDB。GPSの位置情報の誤差を調整できる
・情報を得るために外に出る(→もって外に出掛けたくなるようなアプリ。モバイルのよさ)
・面白いと思ってもらえるアプリ作りには精神的な余裕が必要。ばかばかしい発想
・有料で高いと言われるより、無料で楽しんでもらえたほうがよい
・アプリそのものではなく、その周囲で経済的な基盤を確立して、アプリは無料で使い続けてもらう仕組み
・オープンソースを利用するならコピーライトを表示。アップルもそこまで審査し切れていない。アップル経由で指摘、苦情を伝える。
・不満足なアプリには星一つ付くだけ。レビューを書く手間もかけてもらえない
・先行者利益が大きい
・マイク、ビデオ機能、コンパスを使ったアプリが少ない
・無料版で探りをいれて、いけそうなら本腰を入れる
・アプリで使うアイテムや毎月、利用ライセンスを課金できる「アプリ内課金」

<感想>
・CMに使われる効果は大きい
・iPhoneに音源はある?MIDIは使える?
・滑るゲーム:スキー、スケート、ボブスレー。水上バイク、パラグライダー

-目次-
第1部 成功者に秘訣を聞く
 第1章 和田 純平(MiniPiano、FingerPiano)
 第2章 深津 貴之(ToyCamera、QuadCamera)
 第3章 廣瀬 則仁(大辞林、ウィズダム英和・和英辞典)
 第4章 柳澤 康弘(LightBike)
 第5章 金田 進哉(LCD Clock、MyWebClip)
 第6章 宮田 人司(memory tree)
 第7章 森 琢磨(NatsuLion for iPhone、Tweeter)
 第8章 若林 大悟(SingingCat、Star Snake)
第2部 iPhoneアプリの市場動向と販売戦略
 第9章 APPLIYA 小田嶋 太輔
 第10章 AppBank宮下 泰明、村井 智建