読書メモ
・「大人のたしなみ「ビジネス理論」一夜漬け講座」
(渋井真帆 :著、宝島社 \1,300) : 2010.04.08
内容と感想:
評価の高い8冊のビジネス書を取り上げた解説本。
この本に出版にあたり、著者が主宰する女性限定のビジネス人材養成スクールの卒業生が協力している。
取り上げた本を彼女らにも読んでもらい、解釈やアイデアをもらったという。
各書のエッセンスが詰まっているから、一冊でポイントを押さえられてお得である。手っ取り早く理論武装するにはもってこいである。
もっと深く知りたい場合は原典をたどればよいだろう。
ビジネス書といっても範囲は広いが、ここで取り上げているのは、経営戦略、業務改善、マーケティング、社会論などがテーマの本である。
本のタイトルを見れば、どれも聞いたこのある名著ばかりである。
ビジネス・ノウハウものはなく、「理論」が中心である。
最後の「富の未来」(トフラー夫妻:著)の解説の中に「非同時化」という言葉が出てくる。
それは変化のスピードの差を意味する。
経済はそれを取り巻く社会の産物であり、社会制度に依存する。「経済発展の速度を速めることができたとしても、社会の主要な制度が時代遅れになるのを放置していれば、
富を生み出す能力がいずれ低下する」とトフラーは指摘する。
これは現在の日本にも当てはまるもので、経済と社会制度・法律の関係をよく言い表している。
一般に法律など制度の整備が時代の変化についていけないことが指摘される。
経済の現場では新たな機会を求めて、先読みし市場を開拓し、それが生活様式さえ変えていく。
しかし制度が追いつかないために、規制の網が及ばず、ビジネスの暴走を許したり、逆に前例がないからと許認可をもらえず、せっかくの収益チャンスの足を引っ張ったりもする。
しかも、国によってもスピードの差がある。
非同時化の影響を小さくするためには政治がスピード感をもって動かねばならない。創造的・先進的な経済に対して、保守的な政治・行政ではスピードの差は埋められないだろう。
その差を埋めてくれるとすれば有能な官僚組織ということになるだろうか。行政が時代の変化に柔軟に対応するためにも、即応できる組織に改革していく必要があるだろう。
○要約
・ブルー・オーシャン戦略:
コスト削減や差異化からの脱却。新たな需要の創出。未開拓市場の創造。戦略の土台はバリュー・イノベーション。
コストを押し下げながら、価値を高める(低コストと差別化の両立)。競争のための要素をそぎ落とし、未知の要素を取り入れる。
代替産業へ、(現在の)顧客以外に視点を移す。他の誰も競争要因として認識していない価値。市場を創造したら規模の拡大を通してコストの優位性を築き上げる。
いつか必ず模倣者が現れる。
・「ザ・ゴール」:
全体最適の手法。ボトルネック(制約条件)のパフォーマンスを上げる。制約条件を見つけ出すのが難しい。勘と経験。
継続的な改善プロセス。
・「ビジョナリーカンパニー2」:
偉大な企業。良い企業が偉大な企業になるための飛躍の法則。「1」では偉大な企業がそれを維持し続ける法則を描いた。
良好な実績の後に飛躍への転換点がある。準備段階と突破段階。規律ある人材・考え方・行動。第五水準の経営者は自尊心の対象を偉大な企業を作ることに向けている。
個人としては謙虚で控えめ、職業人としては意志が強く大胆。シンプルだが恐ろしく効果的な戦略「針鼠の概念」。3つの要素のすべてを満たす戦略。
それはキャリア戦略にも当てはまる(やりたいこと、やるべきこと、やれること)。弾み車が自律的に回転しつづけるシステム「規律の文化」
・行動経済学:
経済学と心理学の融合。プロスペクト理論。限定合理的な判断。明確な基準がない中での判断基準「ヒューリスティクス」。
その結果生じる判断や決定の偏り「バイアス」。
・「ウェブ進化論」:
既存機能の置き換えがWeb1.0。Webの情報は玉石混交だが、表現者の絶対数が増えれば、自ずと玉の絶対数も増える。玉を見分ける技術も日々進化している。
広く薄くでも集積できれば新たな価値を創造できる。創造性や果敢な行動を刺激するオプティミズム(楽天主義)に支えられたビジョン。インターネットの開放性、可能性、未来志向。
・「ネクスト・ソサエティ」:
知識社会、知識労働者。製造業の地位低下は製品の実質価格低下と新しい生産方式による合理化で労働者がそれほど必要でなくなったから。
知識は容易に移動し、境界がない。教育の機会による上方への移動。テクノロジスト。知識労働者は資産としてバランスシートに隠れている。CEOの仕事はオペラの総監督。
企業と知識労働者は完全な相互依存関係。上下、主従の関係はない。
・「ネクスト・マーケット」:
貧困層を顧客に変える。BOP(ピラミッドの底辺)マーケット。貧困層の自立支援。顧客として扱われることで社会の一員としての誇りを実感。
夢の実現に手を貸す。マイクロ・ファイナンス。ピラミッド型からダイヤモンド型へ。思いやりのある公正な社会。
・「富の未来」:
欲求を満たすものが富。お金のやりとりだけで換算できるものだけが富ではない。効用がある何か。富の第一の波で農業文化が生まれ、第二の波で工業文明が出現。
第三の波は20世紀後半から登場し、発展途上で全貌は明らかになっていない。その富は知識や思考・サービスといった頭脳労働に基づく。現代は3つの波が並存。
欧州は第2の波の価値観を維持しようとし、変化の波に対応する柔軟性に欠ける。中国は3つの波を同時に進める複線戦略をとっている。
時間、空間、知識の3つの変化が第三の波を引き起こしている。自分で生産し消費する「生産消費者」による生産消費活動(非金銭経済)。
○印象的な言葉
・難しいことを分かりやすく、分かりやすいことを面白く
・日本人は部分最適の改善にかけては世界一
・適切な判断と正しい行動の地道な積み重ね
・選択のパラドックス:過剰な選択肢
・初期値効果:初期値に設定されているものが選ばれやすい
・保有効果:所有しているときの方が価値を高く評価しがち
・損失回避性:損失がもたらす不満足は、利益がもたらす満足より大きく感じられる
・満足には「物欲」と「快」があり、それらを最大化するよう目指す
・アマゾン・ドットコムはネット小売業者からeコマースのプラットフォーム企業へ変貌。アマゾン経済圏を作り出そうとしている
・競争が激化する社会に対して、非競争的な生活とコミュニティを作り上げる。仕事以外の関心事を育てる。貢献と自己実現の場。
・知識を最新に保つための継続教育
・「なーんだ、そんなこと」に気付き、本気でやるかどうか
・中国では法律は未整備だが契約は履行する。インドは法律は発達しているが履行する風土が発達していない
・知識は多くの人が同時に使える「非競合財」。使い減りしない。使う人が多いほど新たな知識が生み出される可能性が高くなる。知識は無尽蔵。
・知識経済に基づく農業が実現すれば世界の貧困を一掃できる(→知識の共有により自給自足に近いことが可能になった。知恵の共有により低コストで生活水準を維持できる)
・従来とは異なる資本:知識資本、社会資本、人的資本、文化資本、論理資本、環境資本、無給の生産消費者の寄与
<感想>
・人々が求めているが、誰も応えてくれていない課題、世に存在しないサービス
・「ちょっとついでにxxするか」
・第三の波により多様な家族形態が生まれる。個の時代?家族さえなくなる?
-目次-
第1章 青い大海原に勝機あり!「ブルー・オーシャン戦略」
第2章 劇的!業績改善ストーリー「ザ・ゴール」
第3章 企業の、そして人生の飛躍の方程式「ビジョナリーカンパニー2」
第4章 勘定と感情は友達だった「行動経済学」
第5章 インターネット世界に何が起こっているのか?「ウェブ進化論」
第6章 来るべき未来の羅針盤「ネクスト・ソサエティ」
第7章 究極のプラス思考本「ネクスト・マーケット」
第8章 新しい『富の波』に乗るのは誰だ!?「富の未来」
|