読書メモ

・「幸福の方程式 〜新しい消費のカタチを探る
(山田 昌弘著、電通チームハピネス:著、ディスカヴァー携書 \1,000) : 2010.09.09

内容と感想:
 
「物質的豊かさと幸福は結び付かない」と頭では分かっていながら、私たちが「物質的豊かさから逃れられない」理由を 本書では探っている。その上で、「物質的豊かさを超えた幸福の形があり得るのか、あるとしたら、どういうものか」に迫っている。 消費低迷、市場の飽和に直面するビジネスパーソンには発想の転換を求められる時代だ。本書はそんな時代を読むためのヒントになるだろう。
 今、求められているのは幸福をもたらす画期的な商品を開発することではなく、そのモデルの延長上で考えても解は出ない、と著者はいう。 そうではなく、「新しい幸せの形を検討」すべきだという。 「それを明らかにすれば、おのずと新しい消費の形が見えてくる」とし、本書では従来の消費社会と幸福観を振り返った上で、 新たな幸福観を解き明かそうとしている。
 商品を買うことではない幸福のあり方のモデル。その鍵は「つながり」と時間だという。そしてそれを満たす 新しい幸福の物語(ストーリー)を仮説として3つ挙げている。それは自分を極める物語、社会貢献の物語、人間関係の物語。 第3章から5章ではそれらの物語において得られる幸福とはどういうものか、そこではどのような消費が行なわれるのかについて述べている。
 第6章では究極の消費は「仕事」だとユニークな見方をしていて興味深い。仕事は先の3つの物語の全てを包含する活動なのだ。 「仕事が幸福の原動力」となる。 人生で最も長い時間を過ごす「仕事」を通じて得られる幸福感が大切だというのは理解できるだろう。 仕事を軸に見れば、そこにまつわる新たな消費(製品、サービス)の形も見えてくる。 今の雇用状況を改善し、ワークライフバランスを確保できる社会づくりが求められる。それが仕事における幸せの増大につながる。 「豊かな社会とは、仕事の質・内容が豊かな社会」というのには同感だ。自らの仕事の取り組み方で仕事の質を豊かにしていくことも必要だろう。
 また今後は、「幸福だから消費する」という方向に向かうとして、従来のような幸福を得るための消費を否定する。 終章では成熟社会の日本では「つながりを作り出すための消費」が大きくなり、それをサポートする産業がこれからの経済をリードすると結論付けている。

○印象的な言葉
・幸福サポート産業。他人を幸福にすることに幸せを感じる。他人を喜ばせることで遣り甲斐を感じる
・幸福を解く5つの鍵、幸福のペンタゴン・モデル。これを用いて商品の魅力を分析できる
・幸福の道具としての消費。幸福を得るための道具としての消費
・自分を極める物語、社会に貢献する物語、人間関係の中にある物語
・手ごたえ消費。手間や不便を消費する。適切な難易度。苦労が報われたという感覚。成長を実感。手仕事のよさ
・つながり(承認)を消費する。承認によって自分を肯定できる。社会に役立っているという納得感
・福祉国家とは消極的幸福、不幸がないという状態
・その商品を買うと幸福になるという物語の中に生き、その商品を手に入れていく過程で幸福を実感する
・消費社会には「家族消費の時代」の物語と「ブランド消費の時代」の物語がある
・家族消費:物語をほとんどの人が共有。家族全員で消費する
・ブランド消費:消費の個人化。ブランドは物語を保証する。家族でなく個人の幸せを追求。買い続けることが必要、買えなくなったら不幸に転落
・ブランド消費の行き詰まり:飽きてきた。主体的な消費でない。
・幸福は目標を達成することによって、あるいはそのプロセスで気付かされ、結果として感じるもの
・幸福の3要素:お金、健康、人生の充実感
・幸福の濃さ。夢中になれる時間。時間密度。夢や目標と結び付いていること
・裁量の自由:自分の行動を自分で好きなように決定できる。自分が物語の主人公
・「はまる」消費:没頭。ライフワーク
・天才とは更に高い課題を見つけて持続的に努力する人
・コミックマーケットの先進性:運営はボランティア。報酬はゼロ。主催者に近いポジションという自尊心。自分の好きな世界を守るという思いを共有
・日本の食糧廃棄量は年間2千万トン。12兆円。
・居場所を見つけられれば、安心して生き甲斐を追いかけられる
・与える消費:プレゼントはくれた相手が何を選ぼうか悩んでくれた時間と労力がうれしい
・自分の能力を発揮できる仕事、個性を活かせる仕事、裁量の自由が利き、自分が納得できるように仕上げていける職人のような働き方。裁量労働、在宅勤務。
・国のGDPが国民の幸福度を表わすのではなく、国民の幸福の水準が国のGDPを規定する

-目次-
第1章 戦後消費モデルの変化と幸福の物語
(物質的豊かさと幸福との関係/消費社会の「物語」、二つの段階/消費不安の時代/脱・消費社会の幸福)
第2章 幸福が見えれば消費が見える
(なぜ今、幸福ブームなのか/幸福を解く鍵は何か?/幸福のペンダゴン・モデルの考え方/消費の物語に代わる新しい幸福の物語)
第3章 「自分を極める物語」の幸福と消費
(「揺れ」が消費を創造する/手ごたえ消費/新しい萌芽)
第4章 「社会に貢献する物語」の幸福と消費
第5章 「人間関係のなかにある物語」の幸福と消費
第6章 究極の消費としての仕事
終章 つながりと幸福の弁証法的関係