読書メモ

・「iPhoneの本質 Androidの真価
(日経コミュニケーション:編、日経BP社 \1,900) : 2010.07.25

内容と感想:
 
本書は今、最もホットなスマートフォンであるiPhoneと、Googleが仕掛けた組込み機器用OS・Androidをテーマに アプリケーション開発者や機器開発者、サービス提供者ら業界の方々が語ったものである。 2008年12月に出た本で、情報はやや古いが、当時の時点での最新の状況や、将来への展望、期待などが各々の視点で語られている。
 第1部はiPhoneを取り上げ、対応アプリやWebサービスなどビジネス展開が主に語られている。 第5章で赤松正行氏はiPhoneを「身体的なデバイス」と表現している。 「ハードウエアとしての特徴をできるだけ排除」したというのは、あのシンプルなフォルムを見たことのある人なら納得であろう。
 第2部はAndroidがテーマ。 オープンなOSであるから、そのオープンさを売りにスマートフォンを初め勢力拡大中である。 Googleだからクラウドとの融合を意識している。クラウドについてはApple社も意識しており、あまりユーザには意識させないで、 それとなくクラウド・サービスでライフスタイルを変えようとしている。
 第7章で郡山龍氏はGoogleがオープン・プラットフォームを使う目的を、「サード・パーティのアプリケーションを呼び込むこと」と分析。 また、Googleにとっては「グーグルのサービスを使ってもらえる携帯電話を増やすのが目的」というように、ユーザに検索サービスを使ってもらい、 その目に検索連動型広告が触れる機会を増やせれば、ケータイでも何でもいいのだ。
 Android OSはケータイ以外の組込み機器にも搭載が期待されている。冷蔵庫、TV、コピー機、カーナビ、カラオケ、健康機器などにも可能性が広がる。 これと同様の展開を「広告会社」ではないApple社も意識している。 iPhone搭載のOSは直近ではiPadやApple TVにも使われ、自動車のコンソールにも使われるという話もあるそうだ。 第8章、10章、11章は日経コミュニケーションが主催のディスカッション。
 スマートフォンをターゲットにしたビジネスには、決済機能が欠かせない。 グローバル市場を相手にした決済が可能となれば、ビジネスチャンスは更に広がる。 ネットなら流通コストもほぼゼロ。一人から一円ずつ集める「チリも積もれば・・」型のビジネスが可能。 アイデア次第で「日本にいながらにして世界を相手に」できることになる。 パッケージソフトのようにパッケージ製造費用も「在庫を持つ費用、販売の場所代」も不要となる。 ここでも流通の中抜きの効果が発揮される。個人での起業も夢ではない。初期投資が少なく、リスクも小さい。
 Apple社のiTunes Music Storeや App Storeなぞは流通チャネルまで押さえて、垂直統合ビジネスを完成させている(Android陣営はそれを追いかける形)。 個人でもその仕組みに乗っかれば、アプリ販売などのビジネスになるのだ。 勿論、そのビジネスが「長続きするかどうかは別の問題」と第3章のディスカッションの中の発言にもあった。 売り切りのアプリでは「浮き沈みが激しい」と言う。 アプリの急増で「増えれば増えるほど埋もれてしまう」状況がもう既に来ている。ネット上の情報と同様、玉石混交になっている。
 iPhoneに Androidケータイ。ケータイからスマートフォンへ。Microsoft社も黙っておらずWindows Phoneを投入してきている。 ますます競争が激化している。それを見ているだけでも楽しい。

○印象的な言葉
・世界で売れるソフト、コンテンツ販売、位置情報の活用、全世界でコスト回収、新しいコミュニケーション、決済機能
・ソフト技術者のプライドを刺激
・iモードは世界では伸びない
・よいタイミングで、よい場所で、よい仕事
・わがまま、やりたいことをやる、楽しいことをやる、最新のものに触れたい
・コミュニティサービスの価値は人
・ライフスタイルの切り替えにはコストがかかる。メリットをはっきり見せてあげる
・実演デモで製品のよさを伝える
・人目を引くのは難しい。ブログや各種メディアと連携。レコメンド欄などにコメントしてもらう。星印の評価。アイキャッチで目に留まるアイコン
・ダイナミック・センソリー・プログラミング:動的でリアルタイムな、感覚的・身体的な
・ガラパゴス携帯:日本に適した機能が豊富。極端な特殊性。生物としての強度みたいな点で疑問。(→純粋培養、過保護)
・テキストは重要じゃない、テキストを超えるものを作ろう。視覚だけに頼らない。音、振動
・電子コンパス(地磁気センサー)
・ノキアもクラウドにアプローチを始めた「Ovi」
・もはやPCには目新しい入出力デバイスが見当たらない
・欧米ではネットワーク機器、業務用機器、測定器にはLinuxのシェアが圧倒的
・オープンソースを利用した製品であっても、開発からサポートまで一定の品質を提供するディストリビュータの存在は重要
・組込みソフト・ベンダーの期待はアパッチ・ライセンス。自分で好きに改変できること
・携帯電話はニッチ化に向かう。特定機能に特化
・家電はクラウドとつながることで進化する
・ファインダビリティ:情報の発見しやすさ

<感想>
・ケータイだけにアプリを提供するだけでは視野が狭い。もっと多くのデバイスへ提供できる可能性

-目次-
【第1部】 iPhoneの本質
・第1章 iPhoneで起業する
――iPhone米国事情と開発者支援プログラム(中島聡)
・第2章 iPhoneアプリ開発記
――“紙の再発明”構想がiPhone上に結実(清水亮)
・第3章 iPhoneアプリ分析
――iPhone向けアプリ/サービスの傾向と対策(林信行ら)
・第4章 iPhone対応Webサイト
――iPhone対応Webサイト構築のコツ(正健太朗)
・第5章 アートにつながるiPhone
――人々を魅了するiPhoneの本質に迫る(赤松正行)

【第2部】 Androidの真価
・第6章 創造的開発の現場から
――Androidとクラウドが切り開く新モバイル市場(佐々木陽)
・第7章 オープンの意義を知る
――携帯電話のオープン化トレンドとAndroidへの期待(郡山龍)
・第8章 通信事業者の視点
――端末オープン化への期待と課題(中馬和彦、山下哲也)
・第9章 MVNOの視点
――Androidが加速する端末とネットワークのオープン化(福田尚久)
・第10章 非ケータイへの応用
――クラウドとの融合で変貌する組み込み機器(三浦雅孝ら)
・第11章 位置情報活用最前線
――オープン端末が生み出す新位置情報サービスの姿(関治之、末吉隆彦)
・第12章 Androidとクラウド
――クラウド時代を支えるAndroid(丸山不二夫)