読書メモ
・「早わかりサブプライム不況」
(中空 麻奈 :著、朝日新書 \700) : 2010.06.12
内容と感想:
リーマンショック後の2009年1月に出た「サブプライム」本。
著者は外資系証券会社に勤める「クレジット(信用)アナリスト」。
サブプライムについては既に語り尽くされた感はあるが、
本書では証券化の基本、世界のマネーの流れを説明し、世界同時不況で何が起きるのか短期予測も試みている。
彼女は危機の震源地・米国の大底は2010年と見ている。2010年6月の今現在、世界の関心はEUに移ってしまっている。
これを見る限りでは既に米国の危機は去ったと言えるのかも知れない。
米国政府がリーマンを破綻に追い込んだのは、他の金融機関に公的資金を入れるためのスケープゴート、
外国の政府系ファンドに迷惑がかからない大手金融機関として選ばれたのがリーマンだった、との仮説を著者は立てている。
第5章では今回の不況でアメリカの威信は揺らいでいるとはいえ、彼らが作り上げた「マネーシステムはまだまだ健在」であり、
これからも「世界のマネーがまるで吸いつけられるように米国に向かっていく」という。
その仕組みを「自動還流システム」とも呼んでいる。米国から見ればそれほどによく出来たシステムなのだ。
意外に立ち直りが早いのはそのためだ。
最後に書かれているように、今回の金融危機で比較的傷の浅かった「日本の金融機関はグローバルに見ると相対的に有利な立場」にいるらしい。
だから「世界に進出するいい機会」だと言うが、証券化商品がよく理解できなかったから手を出さなかっただけで、
日本の金融機関がそうした金融工学を駆使して、世界に打って出るだけのスキルがあるのだろうか。
○印象的な言葉
・日本の地銀危機。証券化商品に手を出していた。業界再編。数が多過ぎる。
・大数の法則によりリスク分散。保険事業もこれに基づく。
・わずか5%のサブプライムローンが証券化商品全体の品質を悪化させた
・金融工学という人間の判断が持ち込めない切り離された世界で格付けが算出された。その格付けが正しいか検証する術もなかった。モデルの盲信。
・会計基準では、保有資産の価格が額面の半分になった場合、損失処理するルールになっている。評価損を出す場合、その損失分は引当金を積んで処理する。
価格が元に戻れば、戻り分が利益(戻り益)となる。余裕があって、将来、市場が回復すると期待できれば引当金を積む。
・国際ルールでは銀行は自己資本の12.5倍までしか貸し出しできない。景気が悪くなると予想貸し倒れ比率が上がるため、引当金を積み増す必要がある。
そのため貸出金を圧縮するため、貸し渋りが起きる。引当金の12倍の貸出金の削減が必要。
・日本のREITが暴落し、新興不動産会社が次々と破綻していったのは米国の金詰まりの結果。投資していた外資系金融機関が資金を回収した。
・2007年は欧米金融機関のサムライ債(円建て債権)の発行が急増。資金調達コストが低く、高い利回りだった。日本の金融機関も買っていた。
そのうち、リーマンブラザーズの分は経営破綻で債務不履行となった。
・日中2カ国だけでGSE長期債(ファニーメイ、フレディマック)の46%を保有。
・CDSは投機の手段としても利用された。保険をかける会社に貸出金が存在しなくても、将来、その会社の信用が落ちると予想すれば契約する投資家がいた。
CDS契約でAIG以外にも巨額の損失を出す金融機関が出ると思われたが、実際には損失は小さかった。契約自体は数多くあったが「売り」と「買い」が相殺されたため。
・米国と世界のマネーは繁栄も衰退も運命を共にする「一蓮托生」
-目次-
第1章 世界一簡単に「サブプライム問題」を解説する
第2章 「金詰まり」のマグマが蓄積された
第3章 なぜリーマン・ブラザーズは破綻したのか
第4章 世界同時不況で起こること
第5章 世界は米国のために動いている?
第6章 日本はどこへ行く
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