読書メモ

・「反「デフレ不況」論 〜それでも日本企業が勝つ理由
(日下 公人、長谷川 慶太郎:著、PHP研究所 \952) : 2010.10.02

内容と感想:
 
一章、四章は日下氏と長谷川氏の対談。二章、三章は両氏がそれぞれ書いている。 いずれも日本を褒め、勇気付け、鼓舞する言葉で満ちている。 しかし、第二章で長谷川氏は「一国がどんな政策を講じても、デフレを抑制したり転換することはできないだろう」と、 デフレに関しては諦めムード。果たして無策でいいのだろうか?
 また、第三章では日下氏が「そもそも経済指標が右肩上がりでない状態を不況と呼ぶのは正しいか」とその前提を疑っている。 供給過剰に陥っている状態ではGDPなどの数字には意味がない、という。 「GDPは横ばいでも日本には世界に発信できる文化の華が絢爛と咲き誇っている」、 「数字で測る経済は終わった、と考えれば、従来型の景気対策はしなくともよい」とも言っている。 従来型では無意味だ。賛成だ。今求められているのは誰もが安心して生活していける社会資本整備だ。
 マスコミが煽るからだろうか、我々はずっと不安を抱えながら生きている。経済成長が止まったからか、何か閉塞感を感じている。 GDP成長率という数字に囚われすぎているからかも知れない。GDPでは幸福度は測れなくなっている。 それでも日本は十分に豊かだし、世界に誇る技術もあるのだから、もっと自信をもっていいのだと両氏は言おうとしている。

○印象的な言葉
・ソフト部門への構造転換を
・日本企業は「番頭方式」。社長は番頭を管理する責任がある
・ベスト・ペイの会社
・2H1L(ハイテク、ハイクオリティ、ロープライス)
・デフレは繁栄の証。平和な時代はデフレ
・辺境的発想から抜け出せ
・高望み病。日本人は文句ばかり言う。早く家に帰りたい「休み病」。日本人は勤勉さを失った
・日本の製造業は日本人の心を輸出
・米国では車の5年リースが一般的。リース会社はリースから戻ってきた車を中古車市場に出す。レクサスは新車の85%で売れる。他社より高い。リース会社が価格を決める
・トヨタで実際にものづくりに従事している人は社内の十数%。
・インテリジェンスを働かせて危機管理ができる人間がエリート
・米国でのトヨタのリコール騒動ではトヨタに同情的な州が多かった。トヨタのアメリカ国内の部品調達率は9割。アメリカ国内で調達するほうが安い。労賃が低い。
・アメリカ勅許商標庁発表の特許取得長者番付のトップ10に日本企業が6社
・イラクは復興ブームで、結婚ブーム
・タクシー業界は最も熱心なEV(電気自動車)ユーザ。安いLPガスも電気には敵わない
・セコムの警備サービスはアメリカでも急速に拡大
・日本の宅配サービスも海外で好評。結婚披露宴サービスも輸出されている
・ナイジェリアは注目のマーケット。人口1億6千万。スーダンも有力
・成長著しいMINTs(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ)諸国。これらはネクスト・イレブンにも含まれている。
・日本の輸出品の2割が消費財、8割は生産財(素材、部品、資本財・機械設備)。日本は非価格競争力(品質・性能、信頼性、納期)が世界一
・アメリカは抵当流れになった物件を平気で安値で即刻処分するから住宅産業をスピーディに再建できる
・韓国経済は生産財、資本財を自給できず日本に依存してきた
・造船量で韓国が日本を上回ったとはいえ、エンジンは日本製。ロイズが保険をかけるのは日本製
・陸上輸送はトラックより鉄道が有利。より輸送コストが低いのは水運
・南米二大大河、アマゾン河とラプラタ河の沿岸が、ミシシッピ河沿岸に匹敵する農地になると注目されている。水運の整備が全くできていない。カスピ海沿岸も有望。
・世界では海底油田の開発ラッシュ
・日本企業に不可欠なのは経営幹部の育成。決断力。語学力、歴史
・日本は既に近代化を達成し、次のステージにある。可愛さ、クール、親しみやすさ、という質の充実が求められている。GDPといった指標では測れない価値が生まれている
・日本教:謙虚、素直、あっさりしている。暗黙知、共感力、以心伝心、相手を察する。数値化、可視化できないものに対する敬意。「自然体でアッサリ暮らせ」
・英国人は言葉を信仰しているので、口に出したことは本心。そうした社会では言葉が増える。喧嘩もある
・学者、マスコミ、政治家は「わけづくり」を職業としている
・日本は国政が安定し、国がしっかりまとまっている。国民一人あたりGDPでも豊か。国民は十分に知的。文明的なインフラが整い、文化をもつ。住み心地もよい。モラル、道徳。
・中進国がどこの国の真似をするかによって先進国が決まる
・日本の製造業はトップを走る。ガラパゴス化、孤立するのは当たり前
・アメリカには古代も中世も存在しない。中国には近代がない。米中は歴史という時間軸に隙間のある国。アメリカ人には歴史を尊ぶという意識がない。進歩というウィルスに感染している。
・日本には長い歴史の中で蓄積された目に見えない資産が、無意識に常識として共有されている
・キリスト教の教えより仏教の教えのほうが深い。儒教は「尚古の精神」(昔は良かった)。
・欧米ではセカンド・ジョブで働く時間が長い
・傍流経済学の復活:歴史経済学、マーケット経済学、後進国経済学、生活経済学。人間味を加味した経済学。経済を横に置いた人間学
・歴史の一回性:あらゆる出来事は一回限り
・商品の価格の周りには、新鮮さや潤いなど雰囲気や、満足・不満、信頼、店員の親しみやすさなど数値で表わせない要素が絡んでいる。それをうまく説明すれば人は安心し、納得し買う。 「わけをつくる力」も生産力のうち。
・使う人の顔が見えない生産:働く楽しみが消え、やり甲斐は失われた
・商品やサービスの良さを理解し、共感してくれる人だけに売る。注文生産、受注生産、相対取引、お裾分け的取引
・ハプニングの満足、意外性の価格、期待を買う消費、変身の効用
・日本のインテリは低レベル:近代病、欧米崇拝病、国家万能病、科学技術病、経済病などを背負い込んでいる
・日本の大衆は専門がないから総合的な判断ができる。直感を働かせる。智恵を周りに伝える方法が発達している
・作り手がハードに心や魂を込めて、それが芸術品の段階にまで高まるとハードとソフトが一体になって新たな価値を生み出す
・欧米では今でも工員と職員の格差がある

-目次-
第1章 トヨタ・ショックが日本企業を強くした
 トヨタ批判は「程度の低いスタンドプレー」
 リース料金が証明する日本車の強さ ほか
第2章 百年デフレは日本の時代
 インフレは戦争の産物、デフレは平和の産物
 百年デフレの時代 ほか
第3章 「わけあり商品」と「芸術品」
 デフレは「繁栄の証」
「日本教」とものづくり ほか
第4章 二〇一〇年は重厚長大の時代
 日本型雇用が「日本型ものづくり」の原点
「職員」と「工具」の格差がなくなった ほか