読書メモ
・「覇権の終焉 〜アメリカ衰退後の世界情勢を読み解く」
(中西 輝政:著、PHP研究所 \952) : 2010.09.08
内容と感想:
2008年の世界金融危機はアメリカの覇権の崩壊にもつながりかねないと見る人は多い。
タイトルからも想像できるように、本書もそうした文脈で書かれている。
国際政治学者の著者が、そのアメリカの将来を読み解き(第一部)、また、そのアメリカと同盟関係にある日本が激変する世界の中でどう歩むのかを考えている(第二部)。
第三部の3つの論文は20年以上前に書かれたものであるが、今、目にしている世界は
そのとき既に著者には見えていた流れだという。それだけ著者の洞察が正確だったということを示す。
あえて本書に掲載したもの、その内容が現在も有効であり、国の政策に反映させるに足るものだと考えているからだ。
同時にそれは長い間、日本が問題を先送りし、何もしてこなかったことを意味する。
その第三部は日本外交について論じたものである。
その第五章では日本外交は常に「状況対応型」ならざるを得ないと書いている。
それは「日本は何をしようとしているのか」、「どこへ行こうとしているのか」が明確でないために起こっている問題だとしている。
それが20年経った今でも変わっていないことに、国民の一人として情けなさを感じる。昨今の対中問題にしろ、対ロシア問題にしろ、日本の外交力への不安は募るばかり。
国家ビジョンがないから、周辺国に振り回され、その都度、状況対応せざるを得ないのだ。
これでは他国から舐められてもしょうがない。
また、「日本は自立する道を求められる」、と著者はいう。安全保障のことだ。戦後65年も経って、未だに自立できていないのは問題だ。
国民にその意識はあるだろうか。
著者はこれまでマクロ・ヒストリーへの関心をもとに、日本の大きな戦略、国家戦略論に関心を向けてきた、という。
日本が自立するための提言も行なってきた。集団的自衛権の行使、憲法改正の必要性も訴えてきた。だが国民的な議論は高まっていない。
しかし世界は変わった。「日本もこれまでのように惰性では立ち行かない事態が来ている」、と彼に言われなくても国民は敏感に感じ取っているのではないだろうか。
問題は政治だ。政局・政争に明け暮れ、国民、国家のために政治が行なわれていないことに苛立つ。そういう政治家を選んでいるのは我々なのだが。
○印象的な言葉
・金融救済や税収の大幅な減少による膨大な財政赤字が長期にわたりアメリカの世界における行動を大きく制約する
・混血のオバマ大統領は「異質な世界」との橋渡しの役割を課せられて登場
・ロシアの日米分断工作。北方領土問題、シベリア投資、エネルギー協力などで甘い期待を日本に抱かせる
・属州出身のローマ皇帝。北アフリカ出身者が多かった。大繁栄の背景はどこの出身者も受け入れたこと。ローマをキリスト教徒が支配するようになってローマでなくなった。
寛容な宗教体系であったから、一神教が入り込むことを許し、多神教は駆逐されることになった
・強国型の体制
・北朝鮮に核を作らせた元凶は日本。日本の国立大学で学び、大量破壊兵器の製造に欠かせない最新技術を使いこなす若い技術者が日本と北朝鮮を行き来していた
・日米同盟の枠内での核武装。英連邦との第二同盟
・欧州統合はドイツの陰謀
・国連の時代は終わった
・2008年夏のグルジア紛争:NATOの東方拡大という米国の拡張志向の欧亜政策が壁にぶち当たったことを示す
・ソ連崩壊時、米国はロシアまで一気に解体しようという動きがあった。ロシアの少数民族共和国の独立支援によって
・アフガンで戦っているNATO軍はロシアを経由して物資を送っている
・一神教の欧米人には直線史観がある。理念に目が眩んだとき、全くの盲目になる。理念に狂ったとき大きく道を誤る。大いなる弱点
・多様化は個性のせめぎ合いを意味する。対立と競合こそ進歩をもたらす
・ドイツは情報機関による確かな情報を根拠にイラク戦争に真正面から反対した
・真の経済大国は自分で資源を確保でき、金融政策を決め、高度技術を開発して守り抜くことができる国。技術で世界標準を決めていける国
・日本再生には社会保障の再整備、教育。財政再建。情報能力を初めとした外交・軍事機能の向上。集団的自衛権の行使、憲法改正
・サミュエル・ハンチントンは「文明の衝突」でアメリカが消滅するという危機意識を訴えたかった。アメリカが本質を失いつつある。
アメリカ独自の価値観としての「普遍主義」(グローバリズム)を無理に世界中に推し進めるのは滅亡の道。誤った普遍主義を捨てることがアメリカらしさを取り戻せる。
・文明の衝突のなり、グローバル市民社会、世界政府が作られるのはアメリカ人の夢。そうなるとアメリカは本質を失い、ローマ帝国と同じ消滅の道を歩むことになる
(→それでもよい。平和と秩序があるなら)
・ローマの本質:生え抜きのエリートから成る元老院支配。多神教。兵士として前線に赴く堅固な独立自営農民とそのモラル。これらが基盤
・アメリカの本質:プロテスタントの理念によって成り立つ、理念の共和国
・アメリカ南北戦争は第一次、第二次大戦をしのぐアメリカ史上最大の戦死者を出した。連邦を離脱しようとする南部の各州を「神の国」からの離脱として、北部は許さなかった
・マサチューセッツを初め多くの植民地は株式会社として建国された
・カトリックのスペイン帝国と修道会イエズス会は世界中に教区を広げたが、広がれば広がるほど理念の純粋性が失われると知り、縮み志向に転じた
・アメリカには移民が急増。アメリカの価値を受け入れない移民すら容認。いずれ連邦議会もアメリカ的価値観とかけ離れた人たちで占められることもありうる
・安全保障で重要なのは最悪の事態を想定し備えを考えること
・六カ国協議を続けても北朝鮮の核保有が既成事実化する可能性が高まるだけ
・英国は平壌に大使館を持ち、北朝鮮国内に情報網を敷く。英国は日本に情報をくれている。豪州もインドも日本に協力を申し出ている
・日本で核開発を始めるには100本以上の法律を通す必要があり、10年がかりとなる
・台湾国民党の高級幹部の多くは台湾人でなく、アイデンティティは大陸人。英米とのつながりが深い
・孫文は日本に非常に世話になりながら本質的には反日政治家だった
・沖縄の日本帰属は確定していない、というのが中国共産党と国民党の立場
・中国が沖縄にミサイルの照準を合わせれば、米軍基地は無力化される。そのとき米軍は沖縄から撤退する。米兵のいない国をアメリカは守るか?その不安に付け込んで中国は日本に
近づいてくる。「中国の傘に切り替えませんか」
・短期のペシミズムと長期のオプティミズムの組み合わせこと戦勝の極意(戦略論)
・ドイツ人の絶えず何かに不安を感じ、落ち着かぬ心、一時に集中して精力を向ける傾向、尊大さ、自分中心主義、絶えざる劣等感、感傷的な感性。
予期しがたい「ドイツ的豹変」に結びつきやすい。自意識過剰、自己憐憫への陶酔癖
・日本は先の戦争に至る以前に、「自己中心」的な立場と「自己憐憫」の情から行動する国であることを世界史に示した
-目次-
第1部 世界は多極化に向けて動いている
アメリカの覇権の終焉
ローマとアメリカ ―帝国の消滅
第2部 激変するアジアにどう立ち向かうか
核の脅威から日本を守るには
台湾の変化が日本への脅威となる
第3部 なぜ日本は世界の流れを読み違えるのか
「冷たい平和」の時代
同盟外交の倫理と駆引き
湾岸に沈んだ新秩序
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