読書メモ

・「ものつくり敗戦 〜「匠の呪縛」が日本を衰退させる
(木村 英紀:著、日経プレミアシリーズ \850) : 2010.09.13

○印象的な言葉
・ホモ・ファーベル(工作する人)、ホモ・サピエンス(知恵のヒト)
・技術者の戦争責任
・「知の統合」と「コトつくり」。ものつくりは「コトつくり」により補完され強化されるべき
・「ものつくり神話」に挑戦。批判するのは「ものつくり」ではない
・一品料理の世界:カイゼンを通して成熟度をじりじり上げる得意技を発揮できない領域
・日米の製造業24種のうち21業種はアメリカ優位、非製造業でも14業種中、11はアメリカ優位と日本の技術者は冷静に見ている(平成16年の調査)
・携帯電話のソフトは数百万行、トヨタ・レクサスは一千万行を越える
・理論、システム、ソフトウエアが技術の世界で主導権をもっている。日本の三大苦手科目になっている
・産業革命はそれが起こってから一世紀を経た19世紀にトインビーが名づけた。それ以前には革命の認識は無かった。革命を推進した発明家のほとんどは職人出身。
・熟練が機械や装置に組み込まれ、「作り出すことの喜び」が失われ、「ものばなれ」が生まれた
・公理から定理を導き、更にそれを使って別の定理を出すのが幾何学。定理や命題は公理を使って証明すべき事実。 演繹的な論理の体系こそが西欧的な思考方式のエッセンス。東洋では生み出せなかった。欠けていたのは普遍的な合理性を求めてやまない心、論理的な整合性に価値を置く生き方。
・第三の科学革命が機械をシステムに変えた。複数の要素が有機的につながってまとまりをもつ。
・アジア諸国の追い上げは技術の普遍化を象徴する。生産設備をシステムとして備えれば短期間のうちに誰でも一定レベル以上の品質の製品を作り出せる
・日本は職人の腕に依存。技術が人間中心。熟練や経験など個人的な技能に技術を収斂させる傾向が強い。精進と修練により得られた匠の技を重く見る。 普遍的な枠組みで技術を表現することが苦手。暗黙知に頼る傾向が強い。
・江戸時代から労働力は過剰だった
・戦前の日米の国力格差は「戦争経済研究班」、「総力戦研究所」、参謀本部の調査によって明確にされていた。それを国の政策決定に使えるように統合するプロセスが無視されていた。
・ゼロ戦の名声は海戦後のほぼ一年しかもたなかった。機体形状が極めて複雑、多くの工数と熟練工の手を必要とした。前線の2〜3割しか戦力にならなかった
・戦中の日本は兵器をシステムとして運用する思想と能力を欠いていた
・1960年代の高度成長期まで日本の技術は海外の導入技術一色だった。技術ただ乗り論。
・有機質のシステム工学:人間的な要素を重視。システムと人間との調和
・システム工学はハードのシステムを作るだけでなく、それを作る人間のシステムも同時に「システム化」しなければならないことを明らかにした
・1970から80年代のアメリカの産業は活力を失い停滞する。金に糸目をつけない軍事技術がコストに縛られる民間技術の活力を奪った。優秀な技術者が軍関係に引き寄せられた
・基盤となる技術を普遍化し、技術の標準を獲得し、そこから生まれる周辺技術の差別化を図る。システムの枠組みを公開することで需要を高め、要素技術やアプリケーション技術で優位に 立とうとする戦略。
・ソフトウエアは作られた瞬間に誰でも理解し、真似できる。名人芸とは対極的。ソフトは技術の普遍化の一つの究極の姿。
・理論を学ぶことで全体像を知る。論理的な思考力を身に付けることが出来る。問題解決の手法を見出すことができる。理論を適用することで技術的な壁を破ることができる。 現象の予測ができるので、金のかかる実験や試作を省くことができる。技術は理論化されることで普遍性を獲得できる。
・並列推論マシン(第5世代計算機)には、それを使って解くことのできる意味のある現実の問題がなかった。推論がコアとなるとの強い思い込み
・ソフトウエアは人間の能力に依存する、極めて人間的な技術
・技術の主戦場は技や匠とは対極的な世界にある。技や匠への愛着を断ち切らなければならないときにきている
・現在、人々が求めているもんはモノではなく、モノを使うことによって得られる様々なコト。
・戦前・戦中の兵器開発の失敗の軌跡が、今のものつくりの路線とどこがで重なる

-目次-
序章 日本型ものつくりの限界
第1章 先端技術を生み出した二つの科学革命
第2章 太平洋戦争もうひとつの敗因
第3章 システム思考が根付かない戦後日本
第4章 しのびよる「ものつくり敗戦」
終章 「匠の呪縛」からの脱却 ―コトつくりへ