読書メモ

・「逆説の日本史 15 近世改革編
(井沢 元彦:著、小学館 \1,600) : 2011.12.27

内容と感想:
 
六代将軍・家宣から老中・松平定信の時代、18世紀全般を扱っている。 日本史の定説を懐疑的に見て、新たな見方を示す井沢節が炸裂している。 「暴れん坊将軍」こと8代将軍・吉宗は名君どころか暴君、バカ殿であった!? 寛政の「改革」を行なったとされる松平定信も、幕府滅亡の原因を作ったバカ殿。 一方で、「悪徳政治家」のイメージを植え付けられている側用人・田沼意次は「極悪人」どころか、真逆の評価をしている。 私が昔、習った正徳の治や、享保の治、寛政の治は必ずしも「改革」(=善)ではなかったということ示されている。 天明の大飢饉への幕府の無策が、幕府への信頼の失墜、明治維新に繋がっていくことが分かる。

○印象的な言葉
・側用人の重用。老中会議を無力化するシステム。老中は譜代大名の出身、側用人は実力本位で選ばれる
・サツマイモの普及で飢餓を過去のものにした
・田沼意次は賄賂好きの悪徳政治家という偏見。賄賂伝説は松平定信時代にでっち上げられたもの
・松平定信はバカ殿。「寛政の改革」は田沼の貨幣統一政策を否定し、日本の安全を進言した林子平を抹殺した。改悪であり、幕府滅亡の原因を作った
・鎖国は主体的決断によりなされたものでなく、「なしくずし」になってしまったもの
・綱吉の「生類憐れみの令」で殺人が激減
・明から清に王朝が変わったあと、海禁(海外貿易禁止令)がゆるめられ、商人が多数長崎を訪れるようになった
・近代以前は不定時法で、日が沈む前と沈んだ後をそれぞれ6等分して時刻を決めた。季節によって差がある
・絵島生島事件は単なるスキャンダルに見せかけた政争。この事件が将軍吉宗を誕生させた
・推論をまったく排除しては歴史研究は成立しない
・松平新之助として部屋住みの身であった若き日の四男坊・吉宗は、頼方と名を変え、越前丹生に3万石の領地を与えられ独立の大名となり、紀伊家の当主となる
・吉宗は新井白石の政治を否定し、綱吉へ回帰した
・吉宗の右腕・大岡忠相。ライバルの尾張藩主・徳川宗春
・水道もポンプもない江戸時代の火事では、破壊消防しかなかった
・明暦の大火のような火事は「町火消」設立以後、なくなった
・直訴することは死刑になる。身分をわきまえず批判したことが罪になる
・人類の歴史とは飢えとの闘争史でもあった。インダス文明が滅んだのは気候変化による農業生産の激減にあるのではないか
・薩摩国は地味もよくなく、餓死者が多い国だった。稲のように面倒な世話のいらないサツマイモは栄養価も高く、状況を一変させた
・戦後の食糧難を克服できたのは水稲の改良で「農林一号」が生まれ、米の増産があったから
・江戸幕府には町人から法人税や消費税を取ろうという発想がなかった
・安定した食糧供給により都市の住民は増えたが、様々な物品は供給が追いつかず物価が上がった。米だけが安かった
・歴史を知ることは、同時に現在を知ること。未来を予測すること
・吉宗は百姓から年貢を絞れるだけ絞った。農民を苦しめた。そのツケで一揆が頻発
・吉宗が作った御三卿のシステムは、尾張出身者を将軍にさせないための仕組み。三家はすべて吉宗の血統。大名ではなく、決まった領地はない
・後鳥羽上皇が反乱(承久の乱)を起こし、失敗したため鎌倉幕府の政治が西日本に及ぶようになった。室町時代から武士が荘園を奪って行った。 武士が日本の土地の大半を自分のものにしたのが戦国末期。
・田沼親子は開国を目指していた。日本を通商国家にしようとしていた。農業収入に偏りすぎていたのを商業収入にシフトしようとした
・新井白石の「正徳の治」により元禄文化が消滅した
・天明の大飢饉:岩木山、浅間山が噴火、日照量が激減し、大冷害が発生、疫病も広がり、餓死者・疫病死者合わせて30万人が死んだ。「打ち壊し」が全国に広がった。 飢饉に対する幕府の無策が幕府への信頼を失墜させ、尊王の意識を国民に植え付けた。 欧州でも大飢饉が起こり、飢えた民衆の怒りがフランス革命を引き起こしたとも言われる
・非武装中立はありえない。武装していなければ中立は守れない
・日露戦争が起きたのは、ロシアが中国に代わって東アジアを支配しようとしたから
・縄文人の末裔である武士、弥生人の末裔である天皇・貴族
・性悪説の「悪」てゃ「自然」の意味。人間は自然状態では善でも悪でもない。自らの修養により善に行くことができる
・家康が朱子学を導入したのは明智光秀を出現させない体制を作るため
・光格天皇は途絶していたり簡略化されていた朝廷儀式を復興した。57代、約900年間も中絶していた天皇号を復活させた。それ以前は「院」と呼ばれていた

-目次-
第1章 徳川幕閣の展開と改革1 六代将軍家宣の新政編 ―側用人を重用した権力機構
第2章 徳川幕閣の展開と改革2 八代将軍吉宗の支配編 ―「改革の英雄」の実像を暴く
第3章 徳川幕閣の展開と改革3 将軍吉宗VS尾張宗春編 ―経済政策にみる明と暗
第4章 徳川幕閣の展開と改革4 田沼意次VS松平定信編 ―「幕府をつぶした男」と「天皇」の復活