読書メモ
・「グリーン・ニューディール 〜環境投資は世界経済を救えるか」
(寺島実郎、飯田 哲也、NHK取材班 :著、生活人新書 \700) : 2010.07.19
内容と感想:
本書はNHKのTV番組(2009年3月放送)をベースに書籍化された。
アメリカで金融危機発生後に就任したオバマ大統領は、大不況の中、経済再生のための政策「グリーン・ニューディール」を打ち出した。
TVのスペシャル番組もこの環境投資をテーマに日米の取り組みを取材したものである。
本書は第一部がアメリカ、第二部が日本を取り上げている。
そもそもアメリカでグリーン・ニューディール政策が登場したのは、不況に対する経済対策でもあるが、
一方で現在のようなエネルギーの使い方をしていては持続可能な社会とならないという危機感もあった。
太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」の比率を上げていこうとしている。
再生可能エネルギーは小規模、分散型、非効率で経済的コストも高くつく、不安定と欠点が多い。
しかしエネルギーの効率的な供給管理の技術が発展すれば実用可能と期待されている。
この政策が出される前から、シリコンバレーでは環境ビジネス関連のベンチャー企業が増えてきていたという。
その中でも電気自動車メーカーのテスラモーターズは最近(5/21)、トヨタと提携したことで話題になった。
従来のガソリンがぶ飲みの車に乗ってきたアメリカ人が皆、電気自動車に乗り換えたとしたら、これはインパクトが大きい。
産油国は危機感を感じるだろう。電気自動車は電池が肝である。充電に時間がかかるという課題もある。
充電のためのインフラ整備も普及のための課題だ。
アメリカの送電網は老朽化し、更新の時期に来ているという。インフラ投資にはタイミングが良かった。
電力の効率的な供給管理を目指す技術が「スマートグリッド」だ。
これにはインターネットを組み合わせるが、Google社は電気の使用状況を消費者に伝えるためのソフトを開発している。
深刻な経済悪化により米政府は財政出動を迫られた。どうせ出すなら、
効果があり、将来に財産が残る形で支出すべきと主にインフラ投資に充てているようだ。
燃費のよい車に買い換えるための補助金を出したりもしている。
環境ビジネスへの民間投資を引き出すための制度変更も行なっている。
これらの取り組みで果たして、アメリカ経済は再生できるか?
日高義樹氏はその著書(「アメリカの日本潰しが始まった」)の中で、既に、グリーン・ニューディールは失敗したと書いていた。
もともとコストが高い再生可能エネルギーの効果は限定的で、期待された国内雇用・産業の創出も空振りだったようだ。
第8章ではGE社が中国を「環境ビジネスの主戦場だ」と考えている、と語っている場面がそれを象徴している。
グリーン・ニューディール政策の資金はGEなど大企業に流れ、国内ではなく中国など海外投資に向かったのだ。の中で
アメリカは失敗したが、日本は独自の道を進めばよい。もともと環境技術には強かった。
京都議定書の削減目標もあるが、今後も本気で進めば、世界を圧倒できるはずだ。
それを後押しするためにも、政府は予算を環境関連などを戦略分野として集中投資するよう配分すべきだ。
○印象的な言葉
・グリーン・カラー:ホワイトカラー、ブルーカラーに代わる新たな労働者
・シリコンバレーがグリーンバレーに。環境ベンチャーが集積している
・1980年代末は米国衰亡論一色だった時期がある
・70年代にも再生可能エネルギー・ブームがあった。当時はモータリゼーションを変えるまでの技術がなかった
・米国のエネルギーの無軌道な使用が敵(中東や中南米の反米産油国)を強大にし、地球を脅かす
・電力網とインターネットの融合
・グリーンエコノミー、グリーンジョブ、グリーンファンド、グリーンリカバリー
・アメリカの強み=システム構築力。技術と性能にこだわるのではなく、全体最適をめざす構想力と新しいビジネスモデルが大事。
単品の技術開発や製造だけにこだわっていてはコモディティ化、値下げ競争に巻き込まれるだけ。
・単品の技術をつなげるプロデュース力、コーディネート力
・カリフォルニア州の住民の環境意識の高さが地方政治を動かし、国をも動かした。自動車の温室効果ガスの排出削減、電力会社に自然エネルギーの割合を増やすよう義務付けた。
・テキサスは風が強く、土地も広く風力発電に向く。発電という新しい産業ができ土地資産価値が高まり、学校債を発行できるようになった。電力会社からの税収も入る。
・風力発電装置は部品が巨大なため設置場所の近くで部品が製造できるとコストメリットが大きい
・電気自動車のバッテリーを町全体の蓄電池として使う。1日のうちで自動車に乗っている時間はわずか、ほとんどの時間はどこかで駐車している
・Repower America
・スマートグリッド:規模が大きいほど、変動しやすい自然エネルギーの問題も解決できる
・2007年にはアメリカから産油国に70兆円が流れていた。世界人口の4%のアメリカが、世界の原油消費の25%を占める
・超高圧電線網なら長距離でもロスなく送電できる
・日本の温室効果ガス排出量は2007年度で1990年の排出量を9%上回る。
・米中に温室効果ガス排出削減義務がない中、日本だけが対策を進めることは国内企業の国際競争力をそぐ恐れ
・リチウムイオン電池:電力需要の大きな変動を平準化するバッファの役割。電気自動車に搭載することで動く蓄電池となる。寿命は自動車の寿命以上に長い。
災害時の非常用電源設備にもなる。
・電気自動車の充電インフラ整備:買い物の合間に充電。
・カセット式電気自動車の電池交換方式で充電時間を不要に。長距離移動への不安も解消(→電池の規格化が必要。電池の在庫を大量にもつ必要がある)。イスラエル、デンマークで採用が決まる。
・太陽光発電よりコストの安いバイオマス発電、風力発電
・運輸部門が日本のCO2総排出量の2割を占める
・風力発電設備を設置するには送電線や建設用道路の整備費に多額の費用がかかる。日本には風力発電の適地が少ない。風に恵まれた長い海岸線がある。洋上風力発電。
・政府が直接お金を使わず、債務保証することで民間の資金を引き出す
・権威的配分:皆が満足するよう公平に振舞うのではなく、ある層からは嫌われるのを承知の上で、国家をある方向にもっていく
-目次-
第1部 アメリカ グリーン・ニューディールが変える経済と社会
太陽光が雇用を生む
風力発電で地域を再生する
次世代電力網「スマート・グリッド」の衝撃
“グリーン・ファンド” ―投資が当たれば利益は莫大
オバマ大統領と「グリーン・エコノミー」
グリーン・ニューディールを支える若者たち
環境技術で“勝ちにくる”アメリカ
第2部 日本 世界一の技術力と迷走する環境政策
「グリーン産業革命」は、日本が起こす!
始動「日本版グリーン・ニューディール」
越えられない省庁間の壁
風力発電で地域活性化 ―理想と現実
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