読書メモ

・「偽善エネルギー
(武田邦彦 :著、幻冬舎新書 \760) : 2010.07.28

内容と感想:
 
太陽電池や電気自動車がエコだというのは単なる「エゴ」に過ぎない。誤ったエネルギー政策を指弾する書。 著者は「はじめに」で本書は「利権とは関係なく、科学としての事実」を書いた、と言っている。 現在のエネルギー問題には利権がからんでいるものが多いこと、誤った情報が多いからだ。 エネルギー問題は我々の子々孫々の代の生活にまで関わる問題であり、今の世代には責任がある。
 本書を読めば石油はいつかは枯渇し、太陽電池や風力発電といった代替エネルギーも石油に取って代わるほどのポテンシャルがないことが分かる。 第一章の最後では「ないものはないと決意してしまえば、そこから将来は見えてきます」、 「決断するときにきている」と著者はいう。果たして我々はどう決断すればよいのか?
 本書では、地球温暖化に関しては誤報や不適切な報道が続いていることを指摘している。 また、エネルギー問題で日本の将来を暗くしているのは無策だから、とも言っている。解決策はあるのだ。 まず、石炭を見直そう、といっている。石油のように偏在しておらず、埋蔵量も豊富だ。 更に、オイルサンドなど「使いにくい石油」の利用技術を確立することで、石油に代替できるとしている。 そして原子力発電だけで電力は十分に賄える。非効率な太陽光や風力発電なぞ作るだけ資源の無駄なのだ。そう言われるとショックを受ける人は多いだろう。
 第三章ではハイブリッドカーのオーナーには厳しい現実が書かれている。 自動車製造、修理を考えると資源やエネルギーの消費量はトータルではガソリン車と同じ、だそうだ。 プリウスに乗っていてもあまり胸を張れないらしい。
 本書から学べることは、日本で何かにつけ危機を煽る輩は利権がらみと思ったほうがよい、ということだ。 国民の不安に付け込んだ「不安商品」を売りつけようとしているのだ。 将来、本当にエネルギー不足になったら江戸時代の生活に戻るしかないかも。私が生きている間にはそんな自体にはならないが、 我々の子孫をそんな状況にしないためにも、的を射た新エネルギー技術の開発を進める必要がある。

○印象的な言葉
・エネルギー問題も利権にまみれている
・xx(資源)の寿命が30年、というのは30年でxxが枯渇するという意味ではなく、30年先にしか探査しない、という意味。相場を操作するための口実。 売る側はいつも「足りない」と喧伝する傾向にある。産油国は「石油がなくなる」とは言わない。別のエネルギーに頼り始めると、石油が売れなくなるから。
・原発技術には危ないものがある。地震国・日本の原発は安全だが安心はできない。耐震性と人災をクリアすれば安全。安全性に絶対を求めず、危機に備える。 いざというときのために準備しておくのは健全。
・人口密度が高い国では太陽エネルギーは非効率
・風力発電は自然に悪影響がある
・バイオ発電には大量の植物が必要
・豊かな生活とエコな暮らしは矛盾する
・あらゆるものが石油だのみ。石油がなくなって困る分野の技術開発が必要
・電気自動車はCO2は直接出すことはないが、エコカーではない
・1966年以降、(500億バレルクラスの)巨大油田が一度も見つかっていない
・世界は年間の消費量と同じ大きさの油田を発見しないと、石油が足りなくなる恐れが出てきた
・原発を持つ=原爆を作ることができる。原発と原爆は原理は同じ。原発は原爆を少しずつ爆発させている。
・地震で倒れない原発を作ることができるのに作らないのは人災
・地震学という不完全なもので判断して、原発に安全(完全性)を求めるのは無理な話
・この世に絶対安全はない。納得できる程度の安全が必要
・税金を出した先に天下りしたい役人にとっては、技術が有望そうに言っておいて、いつまでもグズグズしているのが好都合
・太陽電池は税金で補助すると売れるが、補助が止まると売れない、という現実が太陽電池が有用でないことを証明している。 太陽電池で作る電池で、次の太陽電池を作れない、という性能にとどまる。総合収支がマイナスの状況。
・日本のように気圧配置が一定せず、台風が多いところは風力発電に向かない
・日本の森林を全部燃やしたとしても、エネルギー消費量の1.5%しか得られない
・日本が年間使用する木は木材に5千万トン、紙に3千万トン。森林が生長する量よりも多い
・石油も穀類も水に例えれば水源は数ヶ所しかなく、受け取っている国も限られている
・日本の農地総面積は道路総面積より小さい
・広い太平洋や大西洋の海水面を上げるだけの水源は地上にはない
・1940年頃から地球は寒冷化していた。1980年頃から温暖化に転じた(2000年頃まで)
・国連の世界気象機関は異常気象と温暖化との因果関係ははっきりしない、としている。温暖化と騒いで時流に乗り、研究費を獲得しようとする者がいる
・ウランの埋蔵量は300年分
・核融合は重水素が原料。海中に膨大に存在する。今の核分裂炉が核融合炉に代わるのは確実
・環境を守るなら何もしない方が良い(養老孟司、渡辺正)
・寒冷化したときに食糧難にならないためには暖かいほうがよい
・環境を汚すリサイクルは努力しても効果がない

<その他>
・少しずつ古い時代のライフスタイルに戻っていく。より原始的な世界に戻る

-目次-
第1章 エネルギーの現状を把握する ―石油、原子力、太陽、水力、風力の問題点
第2章 食糧と温暖化問題を考える ―エネルギー問題から派生すること
第3章 日本のエネルギー問題 ―将来に必要な備えとは
第4章 エネルギーの未来と私たちの生活 ―今後、向かうべき方向とは