読書メモ

・「日本経済を衰退から救う真実の議論
(片山さつき :著、かんき出版 \1,500) : 2010.10.20

内容と感想:
 
2005年の郵政解散後の総選挙で自民党から刺客として出馬、初当選した著者は、 2009年の総選挙では民主党の勢いに押されて涙の落選。 現在はコンサルティングや講演、評論活動を行なっているという。 ただの「小泉チルドレン」と一緒にしてはいけない。元大蔵官僚である。
 その彼女が「7つの自立」と「3つの対立軸」をキーワードに政策提言したのが本書。 日本の再生には「個人、地方、若者」の自立、「鎖国妄想・財政破綻・将来不安・政の官」からの自立が必要だとしている。 そして将来不安を取り除くためには「小手先対応から王道へ」、「事後処理から先見の明へ」、「目先の利益より将来への投資を」 の3つを肝に銘じておく必要があると述べている。 本書では日本が直面するテーマをほぼ網羅している。
 著者の政策の基本方針は「セーフティネットをしっかり構築したうえで、成長戦略を進める」ということ。 官僚経験や、自民党にいた側から見た民主党の政権運営への批判なども興味深い。 一期だけとは言え、国会議員としての経験も反映されている。感情論に陥らず、冷静に課題を分析しているところが好感が持てた。
 財政破綻回避のためには(国民の)「政治と行政への信頼をとりもどすことが先決」だと書いている(第7章)。 改革を推し進めるにも、国民の後押しが必要になる。信頼されない政府には何もできない。 言葉を大事にし、国民を見下したり、欺くようなことはしないことだ。 そして著者の言うように国民のほうも「依存」より「自立」した個を確立していく必要がある。

○印象的な言葉
・健全な保守自由主義の再生
・互酬性:皆が必要な便益を受けられるための費用は皆で出し合う。共同体を維持するための知恵
・日本の右派は国家主義と全体主義から統制主義に向かいがち。左派は社会主義、計画経済から統制に向かう。右翼と左翼はイデオロギー的な分野以外は体質が似ている
・レーガン減税:減税すれば税収が増える「ラッファーカーブ」、減価償却を加速すれば設備投資が拡大する
・道路公団民営化・自立の成果:海外進出が始まっている道路会社
・地方自治体で財政的に自立できるのは東京都と愛知県の一部くらい
・アメリカの年次改革要望書は、アメリカから一方的に改革を求めるものではなく、日米両国政府が相互に提出し合ってきたもの
・米国の民間保険会社はかねてから日本の保険市場への参入を図ってきている。構造協議という公式ルートを通じて認められた。 外資系の保険会社はがん保険や医療保険、障害保険といった保険のニッチ、第三分野に入ってきた。
・民主党政権の郵政民営化見直し政策(公社に戻す案)は、株式売却で入るかも知れない歳入や、毎年入るはずの税収をフイにする
・才能のある人を伸ばすようにしないと社会全体が先に進まない
・みんなが賛成する意見が皆を幸せにするとは限らない
・亀井前金融相のモラトリアム政策は発想事態が社会主義的、経済の新陳代謝に逆行。緊急避難をいつまでも放置しておくと日本の国際競争力は衰退していく
・小泉政権の5年半の間に何もかもトップダウンで決まることが定着し、その結果、役所の機能が劣化、指示待ち化が進んだ
・財務省を味方にしても他の役所がついてくるような時代でなくなった。財務省にも他の役所を守るような力もない
・政治に求めるもの:行政の無駄遣いの見直し、景気対策、経済の成長戦略。チマチマした節約政治ではなく全体のパイを大きくするような政治
・事業仕分けは要・不要、やるなら「国か地方か」、やり方は「官か民間委託か」などを仕分けるべき。国家的な科学技術プロジェクトや防衛など国家戦略レベルの問題には向かない。
・医療、介護、年金などの制度改革は制度が複雑すぎ、利害関係者の調整が難しい
・政治家は骨太の方針を決め、官僚が細かい無駄遣いの防止や、個別の事業の存廃をやるのが本来の役割分担
・日本人は今、競争に疲れて優しさ、緩さに回帰しようとしている。休みたい、というムードが日本を覆っている
・日本人が純粋培養的に唯我独尊にならないようにするには、世界史と日本史を地理と組み合わせて必修科目とすべき
・ムラ社会、タテ社会では組織の掟にがんじがらめになり、組織に個が埋没しやすい社会は対応が遅れたり、状況判断を見誤ったりすることになる
・グローバル化反対論は単なる保護主義で、世界全体の利益に反する
・民主主義と市場主義は車の両輪。自由主義の経済的な側面が市場主義で、政治的な側面が民主主義
・社会の一体性の維持に力強く対処できるのは政府。市場は必ず失敗するから、政府が介入する
・自分で判断をするという個を育てることが教育の第一の目的。独自の議論を展開する教育。自由主義は個人主義が確立していない限り確立できない
・セーフティネットを整備するために実態調査をしっかりやるべき。貧困者の数、生活保護者の数
・職業事情に合わせた教育システムへの改革
・英国の予算審議では四ヶ月ほどかける。年度の最初は必ず暫定予算になる。国会議員と官僚は接触してはいけないことになっている。与野党には予算編成に関与する部会もない。
・旧大蔵省は1990年代に徹底的に叩かれ、ほぼ解体された。一連の不祥事、バブル崩壊後の失策の責任が原因。財務省は既に霞ヶ関の盟主ではなく、経済対策のとりまとめもできない存在。
・支持率を落としても国益のためにやっておくべきことがある
・特別会計の剰余金。余ったら国債の返済に充てるのが当然
・特別会計は「隠されていた」わけではない。国会に資料が出されており、誰でも見ることができる。誰も見ていなかったということ
・「埋蔵金」頼みには限界がある。財政再建には焼け石に水の規模しかない。恒常的に発生するものでもなく、使い切ってしまえば終わり
・医師は偏在しているだけでなく、総数が足りない
・今後増えるのは医療、介護、年金など「人」にかかる予算が圧倒的
・財政赤字の累積は政策の自由度を奪う。活力ある経済社会の実現に大きな足かせになる
・国頼み、政府頼みでなく、どんな社会を作りたいか、という個人の意思表明が民主主義の礎
・自由を支えるものは自立
・税は社会の会費。受益と負担。受益超過家族の例はシルバー年金夫婦、逆に負担が重いのは独身サラリーマン
・税源移譲だけでは地方の財源はよくならない。中央で税収を確保し、地方の格差を埋めるかたちで配分する制度を残すべき
・産業構造転換に必要な人材育成、訓練、給与の確保を行なう企業に対して、税額控除を認めるのがよい。アジアの成長を生かす。
・アジアに共通通貨を創設する場合、円は極めて重要な役割を演じる。ユーロが事実上、ドイツマルクであるように。前提として日本の財政規律の回復が必要
・アジア域内の貯蓄余剰を域内の発展に生かすアジア債券市場の実現と拡大
・国債を日銀引き受けに頼るしかなくなったとき、事実上「日本の財政は破綻した」という烙印を押されることになる
・既得権に甘く、新規参入を阻む「日本というシステム」に対する苛立ちと不安のマグマ
・基軸通貨ドルが安定していなければ、日本経済の安定もない
・政党のシンクタンクを充実させ、政党内での政策の議論の水準、完成度を官僚ベレルよりも上に引き上げること

-目次-
プロローグ 真実の議論
第1章 小泉構造改革とは何だったのか
第2章 反構造改革キャンペーンの真相
第3章 官僚主導から政治主導へ
第4章 政策理念の対立がないのはなぜか
第5章 「議会の祖国」イギリスに学ぶ
第6章 財政健全化への王道
第7章 七つの自立をめざして
おわりに