読書メモ
・「社会主義化するアメリカ ―米中「G2」時代の幕開け」
(春山昇華 :著、宝島社新書 \648) : 2010.05.09
内容と感想:
金融危機の対応策として数々の金融機関に巨額の公的資金を投入し、実質的に国有化したアメリカ。
自動車会社まで国営化してしまった。著者はそれをアメリカの「社会主義化」と評している。
誰もがそう感じていることだろう。
オバマ大統領は前政権の負の遺産を引き継いで始動したが、行き過ぎた資本主義の後始末のために、巨額の財政出動必要となり、
民主主義の盟主という立場とは逆行せざるをえなくなっている。
彼は新しい「資本主義と民主主義のバランス」を求めて模索をしていることだろう。
著者は「資本主義と民主主義は相性はよくない」という。アメリカなど西側陣営が冷戦に勝利したことで、資本主義と民主主義の勝利となった。
しかし、それらは経済システムと政治システムという違いがあり、決してベストな組み合わせというわけでもない。
こうした現状に対して第6章では、新たな価値観「人道主義」の重要性を説いている。
民主主義、社会主義、資本主義は「人々の要求に応じて無限に社会福祉を増大させたなら、いずれの主義も破たんに追い込まれる」と喝破する。
破綻しない社会福祉の実現のためには人道主義が必要という。
また、真の社会福祉の確立は「各国が独自に考えるものではなく、グローバル政府によってのみ、実現されうるものであるかもしれない」と、
究極的には世界政府による富の再配分の必要性を示唆している。
さて、現在は各国が世界不況からの脱出を目指しているが、
第5章では「経済対策の規模と、なりふりかまわぬ度合い」は米中が抜きん出ているとし、
「米中経済が世界の中でいち早く立ち直る可能性が高い」と予想している。サブタイトルの「G2」も勿論この二国を指す。
しかし、既にアメリカは財政出動の余地がなくなってきている。
今や大盤振る舞いの財政出動ができるのは大量の貿易黒字を溜め込んだ中国だけなのだ。
それを世界中が期待し、中国市場から利益を確保しようとしている。
その中国の財政出動のキーワードは「インフラ整備、農村支援、社会保障」。
これら内需主導の経済成長に各国が群がる構図。
社会主義化するアメリカが、社会主義の中国に急接近しているのは単なる偶然か、それとも必然なのか?
アメリカは民主主義の旗を降ろすのだろうか?底力を発揮して素早く景気を回復させ、覇権を復活させることができるか。
○印象的な言葉
・金融商品版PL法
・先進国の貧民問題
・中国が目指す「小康社会」。ほどほどに豊かな社会。科学的発展観
・リーダー不在の欧州。呉越同舟、まとめる力がない。ECB(欧州中央銀行)にはインフレ防止の義務はあるが、経済成長の義務はない
・パラダイム(ものの捉え方、考え方)はマジョリティになった価値観
・中国の健康保険の普及率は10%台。普及率が上がれば将来不安が解消され貯蓄を減らし、金を消費に回す
・最後には政府が救ってくれるという金融機関の甘え。過度なリスクを取らせる
・金融機関の真実の姿よりも、投資家に安心感を与えられるか否か
・市場関係者によるレッテル貼り(不健全、危険、不安など)
・ロシアに資本主義は出現したが、民主主義は出現していない。欧州はロシアにものが言えない。ロシアは怖いもの知らず
・中国人はワーワーうるさい、ロシア人はじっと我慢
・政治は様々な批判や監視があってこそ正しく機能する
・モノを言わないことは中立ではなく、時として「罪つくり」
・モノ担保から信用担保へ
・金本位制時代は頻繁にデフレが発生
・米国の契約万能主義:契約優先。文面さえ守れば何をやってもいいという傲慢。契約者の無知に付け込む。素人を食い荒らす
・WTOはアメリカ主導の流通ルールを決める場
・米国は国民皆保険制度導入で企業が負担している健康保険費用を減らして競争力を回復させようとしている。1500万人もの無保険者がいる。
・リスクテイクする仲間を募るだけのブローカービジネス。右と左を結び付けるだけで、自らはリスクを取らない
・中国の農民には耕作権が付与され、その売買も可能
・ローマ帝国の覇権が消滅し中小国が乱立した中世ヨーロッパは「暗黒の時代」。経済の効率が劇的に低下、貿易量が急速に縮小
・貿易のない自給自足経済では国民は高コストの生活
・民主主義:個人の多様性を容認。パワーが分散・希薄化。資産や便益の再配分を重視。お金で人間を評価する資本主義への反発。
単純な多数決制度のため、内容の良し悪しとは無関係に物事が決まる「多数の暴政」。人気取りのバラ撒き
・庶民の(国への)ぶらさがり志向、すねかじり願望
・グローバル化し、サイバー化した企業の効率的な監視は不可能。世界市民がネットを通じて世界政府を監視
・大多数が貧しくなる社会主義。少数のエリートが物事を決定。政治的には一党独裁。宗教を否定
・福祉の概念:施し。敗者への思いやり。再配分によりコミュニティを維持発展させる
・現在の日本の年金制度はもはや保険制度ではない
・富の源泉が他国に移転することで生じた損失は、その国に投資することで回収する
・過去に溜め込んだ資産を少しずつ食い潰しながら、日本はゆっくりと確実に衰退する
・世代別選挙区制度:若者を代表する候補者が政治家になれる仕組み
-目次-
プロローグ
第1章 オバマの出現
第2章 金融危機は繰り返す
第3章 アメリカ流資本主義とは何だったのか
第4章 社会主義に舵を切ったアメリカ
第5章 米中融合 ――G2時代の幕開け
第6章 グローバル化がもたらしたもの
第7章 先進国日本が進むべき道
あとがき
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