読書メモ

・「小宮一慶の「深掘り」政経塾
(小宮一慶 :著、プレジデント社 \1,500) : 2010.07.17

内容と感想:
 
本書では政治経済、教育・安全保障をテーマに今の日本の課題・問題を「深堀り」している。 著者は物事を深堀りするためのポイントとして以下の3つを挙げている。
 −疑う、分けて考える、つなげて考える
著者の問題の「とりあげ方」を通して、読者に「深堀りポイント」を理解し、「仮説力」や「分析力」をアップしてもらうことを狙っている。
 目次を見ると「?」と思うテーマがいくつかある。 「最低賃金を上げると百貨店の客がもっと減る」、 「景気が回復すると日本は大ダメージを受ける」、 「税金は、消費税に統一すれば不公平感がなくなる」、 「太陽電池が普及すると戦争が起こりやすくなる」など。なぜ彼がそういう仮説に至ったか、その思考プロセスを本を読みながら辿ってみて欲しい。
 生活保護支給額に満たない所得であっても働く人の話題の中では、 「フルに働いても、生活保護でもらうお金の水準まで稼げないのが現実なら、むしろその人たちに賃金との差額を国が生活保護として与えるべき」だと言う。 そうすれば現在、生活保護を受給する人の働く意欲も湧くはずだと。働いていると生活保護を受けられない、だから生活が苦しい、という矛盾に答える政策だと思う。 不正受給を減らすためにも、社会福祉コストを抑えるためにも是非、政府に検討してもらいたい。
 また、「不必要に厳しいJ-SOXをもう少し緩めるべき」という話題。 この法律により「企業活動が不必要に内向きになり、本来のお客様に向かっての活動が阻害されている」という。 実際、そのせいで上場を敬遠している企業もあると聞く。
 日本の会計基準が国際会計基準を使うようになる前は、「日本の業績をよく見せることが米国の国防上、有効だった」というのには驚いた。 背景には冷戦構造があったという。古い会計基準で企業業績をよく見せることで国民の不満が抑えられる、つまり日本の「共産化を防ぐため」だったと。 そんなことは私もこれまで考えもしなかった。 冷戦が終わると、その懸念はなくなり、一転して、アメリカは日本に「国際標準」(グローバルスタンダード)を迫るようになるのだ。
 日本の「今」を広く知るのにもいい本だ。

○印象的な言葉
・景気指標から傾向、前兆を読み取る
・多面的に見る、白黒だけで考えない
・時間軸、広がりでつなげる
・物事には広がりと深さがある
・大半のアメリカ人は株をもっていない
・本当にお金に困っている企業には怖くて貸せない銀行の矛盾
・クラウン・ジュエル:誰もが欲しがる価値の高いもの。M&Aでは買収する会社の、収益力に恵まれた最も魅力的な部門
・自己資本比率はどんな業種でも10%を切ると危ない。企業の中長期的な安定性を示す。 短期的には流動性比率(120%以上が望ましい)、当座比率(90%以上が安全)を見る。
・事業リスクが高まる時期ほど企業は現金や預金を増やし、万が一の場合に備える
・タクシー会社は料金が安いほど良い会社。乗車率を上げて経営を成り立たせている。質の高いサービスでたくさんの法人利用客が付く
・有望な産業:航空機、ロケット、精密機械、アニメ、ゲーム
・企業は適正な利益が出たら、起きている問題の95%は解決する
・J-SOX法対策で、企業の監査費用が極端に上がった。不祥事が原因で大手監査法人が減少。新たな価値も生まず、だたの「経理の番人」が厚遇を受けている
・アメリカでは監査法人がコンサルティング業務を兼業することを禁じている。日本は禁止されていない
・この不景気がなければ外資によりもっと日本企業が買収され、余剰人員が整理されていたかも知れない。 景気が回復すると買収は再開される。それに備えるために戦略的合併に進む企業が増える。
・1998年の外為法改正こそ金融ビッグバンの皮切り。対日直接投資額が倍増した。
・会計ビッグバンによる退職給付債務の開示により、隠れ負債だった将来支払うえき退職金や企業年金を開示する必要が起きた
・環境を考えるなら高速道路無料化より鉄道利用を勧めるべき。運送会社に対する無料化なら、運送時間の短縮、顧客も喜び、運転手も疲れない、環境にも優しい。
・道州制:お金のない地域は貧しいなりに独自色を出し、自然豊かな生活を演出し、精神的に豊かな生活を提供
・投票率が引く理のは豊かさの裏返し。切実でない
・子供の数に応じた票を親に与える
・納税額に応じて企業に票を与える。納税するインセンティブにも。
・義務と権利はワンセット
・米国上院は各州に二人の議員。一票の格差より州としての平等を確保
・日本で首相選出に民意が反映されないのは議会制民主主義の限界。日本を危うくする。(→首相を選んだ国民が責任を取れるようにすべき)
・首相公選制:任期を決め、その期間の責任と権限を与える。長期的視点から政策を打てる。外交でも相手国が本気で対応してくれる
・省庁の局長や審議官クラス以上の数百人を政治的任用者(ポリティカル・アポインティ)にし、政権交代時には総入れ替えし、下野した政党のシンクタンクに移ってもらう。
・所得の種類が沢山あると徴税にために所得を捕捉するのが難しい。消費税は仕組みがシンプル、確実に徴税可能。課税最低限以下の所得の人には後で戻す。 生活必需品には課税しない。サラリーマンも確定申告させるようにし、納税意識を育てる
・日本のGDPが500兆円。国と地方で年間歳出が100兆円。消費税は20%あれば全て賄える。
・世界的に相続税はなくす動き。日本では相続した人の9割以上は相続税を払っていない。最低でも6千万円以上を相続した人が対象。
・日本の政治には会計的な考え方がないのが諸悪の根源。資産という考え方がない
・日本医師会は日本の医療行政に大きな影響を及ぼしてきた。開業医の業界団体。日本の医療制度は診療所に有利な形になっている。
・少子化対策が喫緊の課題といいながら、産婦人科・小児科の医師が減っている
・食料安保は輸入先を分散すればいい
・弱者と怠慢者は違う。怠慢者を社会が救うのであればどんどん増える
・入学定員に達しない4年制の私大は46.5%。ほとんどが補助金頼み。お粗末な大学へは補助金を打ち切るべき。税金の無駄遣い。専門学校に助成すべき
・ストックに依存した内需拡大は早晩、失速する。エネルギー自給率が極端に低い日本は外貨を稼ぐ手立てが必要
・現在は憲法制定当時とは時代背景が変わっている。当時はミサイルは配備されていなかった。ミサイルが飛んできたらお手上げという状態は問題。
・自衛隊はあくまでも自衛のための「必要悪」
・抑止力となる爆撃機や空母をもつ。そこまで考えているという意思だけは示すべき
・ロシアは地球温暖化により恩恵を受ける国。シベリアの凍土が溶ければ、農業ができる
・質の高い外国人を移民として受け入れる。産業基盤を強化できる人。期間限定の就労ビザでもよい(アメリカのグリーンカード)
・イギリスでは市民権取得を目指す移民に歴史や習慣を問うテストを実施
・観光は裾野の広い産業。二次的な波及効果を含む経済効果は国内生産額の5.6%、雇用は6.9%。

-目次-
はじめに −新聞を読むだけでは仮説力、論理的思考力は身につかない
パート1 経済問題を深掘りする
 1 日本人は金融リテラシーが高いから「投資より貯金」する
 2 JALの行く末は、ダイエーの来た道を見よ
 3 なぜ規制緩和も規制強化もタクシー業界を救えないのか
 4 最低賃金を上げると百貨店の客がもっと減る
 5 REIT救済は「不動産市場安定化のため」という茶番
 6 焼け太り監査法人栄えて国滅ぶ
 7 景気が回復すると日本は大ダメージを受ける
パート2 政治問題を深掘りする
 8 高速道路を無料にすると道州制が加速する
 9 一票の格差を是正するより、票数の格差をつけよ
 10 私が首相公選制を推す理由
 11 税金は、消費税に統一すれば不公平感がなくなる
 12 「かんぽの宿」やっぱり一括売却しておくべきだった
 13 なぜ医療の「業界内格差」は放置されるのか
パート3 教育、安全保障を深掘りする
 14 日本の食料自給率はぜんぜん低くない
 15 大学進学率50%の時代に大学を半減させるという考え方
 16 「憲法九条を維持しながら仮想敵国を爆撃」はできるか
 17 太陽電池が普及すると戦争が起こりやすくなる
 18 この期におよんで「移民法」がない日本の行く末
結びにかえて −外国の友人に日本のどこを見せたいですか?