読書メモ

・「日本経済を襲うエキゾチック金融危機 - 最新ヘッジファンド入門
(草野豊己:著、毎日新聞社 \952) : 2010.10.03

内容と感想:
 
リーマンショック直前に書かれた本。 タイトルの「エキゾチック(exotic)」とは金融派生商品(デリバティブ)など複雑で難解になった金融市場のことを表現している。 巨大化したデリバティブ市場が現物市場、実体経済までも左右している エキゾチック時代に対して、旧来の株式・債券など現物を扱う金融市場などは「プレインバニラ」と呼んでいる。 そのエキゾチック時代には、「金融市場から商品市場まで全てをクロスマーケットで分析しなければならない」と著者はいう。
 本書では著者の長年のヘッジファンドとの取引経験に基づき、世界金融の本当の姿に迫っている。 執筆時点で現在進行形の金融危機を素人にも分かりやすく解説し、既にリーマンショックを見透かしていたような巨大金融機関のハイリスク・テイカーぶりを描いている。 そして金融市場で主役にまで躍り出た、謎の多いヘッジファンドの本当の姿、投資戦略にも触れている。 その上で、世界経済がどこへ向かうかを予想し、それに対して我々日本人はどう対処していくべきか述べている。
 リーマンショック後の景気後退を経て、約2年。徐々に回復に向かっているかに見えるが、相変わらずの金あまりで、資金が流入する新興国では新たなバブルが膨らみ始めている。 各国経済の傷が癒えていない状況で、またバブルがはじけるようだと、日本への影響も小さくないだろう。

○印象的な言葉
・本質は信用(クレジット)バブルの崩壊
・ヘッジファンドの最先端戦略「CTA」:上場されている金融先物、商品先物に限定投資
・デリバティブの複雑な金融取引は人為的な運用ミスを引き起こす可能性が高い
・カウンター・パーティ・リスク:相手先リスク。相手が契約義務を履行できないリスク
・世界の金融機関や中央銀行が保有するアメリカGSE債は、破綻しなくても格付けが下がるだけで大きな問題。GSE債の保有高1位は中国、2位が日本。
・30年前は世界の名目GDPと同じ規模だった世界の金融資産は2006年末には3倍にまで膨らんだ。歪みを是正し終え均衡点に行き着くまでの道のりは遠い
・企業の倒産確率をベースに算出したスプレッド(金利上乗せ分)は世界的な金余りで、リスクに釣り合わないほど低下していた
・本来は分散させるために始まった信用リスクが結果的にヘッジファンドに集中した。そのヘッジファンドが巨大複合金融機関と一体化していた
・金融機関のリスク資産は強烈に膨れ上がり、一国の金融当局の手に負えるものではなくなっていた
・これほどの規模の市場を規制なしに野放しにすることは許されない(ソロス)
・CDSは本来、銀行同士がリスクを分散させるために始めた取引。運用競争が激しくなる中、ヘッジファンドが参入
・サブプライムローンを証券化したRMBS、それを再証券化したCDOが、サブプライムローンの不良債権化で資産劣化。そのCDOをヘッジファンドが最も多く保有していた
・証券化商品の格下げで、それを保証していたモノライン会社の経営が悪化、モノライン会社も格下げされ、モノラインが保証していた他の金融商品も格下げされた
・モノラインは証券を保証するにあたりCDSを活用。引き受けた保険の再保険としてCDSをヘッジファンドに引き受けてもらっていた。 証券・債券のデフォルト率が高まれば、ヘッジファンドに保険の支払い義務が発生する。
・欧米の金融市場ではヘッジファンドがシェアの半分を占めていた。市場に厚みを与えて非効率性を正す脇役から、あらゆる相場を主導する主役に躍り出ていた
・ソロスの運用理論:誤った認識はいずれ市場に再帰現象を引き起こす
・グローバリゼーションとITの進展が巨大ヘッジファンドの時代を終わらせた
・商品先物市場は金融先物と比べて流動性や規模の面で著しく劣る
・ロボット・トレーディング:ロボットのわずかな暴走が世界中に連鎖反応し、大きな衝撃となる
・外国人投資家に世界の景気敏感市場と位置づけられている日本
・日本は高い原材料を輸入し、安い工業製品を輸出。これによりGDPの5%に相当する所得が海外に流出している
・金融機関の貸し渋り、貸し剥がしが長引き、実体経済の悪化が長期化すればCDS危機に火がつくことになる
・ヘッジファンドの投資手法は個人投資家にも必要になっている

-目次-
序章 エキゾチック時代の金融危機
第1章 これから始まる米国発「スーパーバブル」崩壊
 もはや「サブプライム問題」ではない
 「信用リスク崩壊」―21世紀型金融危機の本質
 CDS危機の4つのステージ
第2章 21世紀型金融を動かすヘッジファンド入門
 早わかりヘッジファンド
 ヘッジファンドの最先端戦略「CTA」
第3章 「バブル転がし」は永遠に続くのか ―世界経済のパラダイムシフト
 商品相場高騰 ―サブプライム敗北でヘッジファンド資金が流入
 欧州経済 ―米国の規制強化を嫌い欧州へ流れた投資マネー
 米国経済 ―世界経済の米国一極時代の終焉
第4章 「エキゾチック金融」に目覚めよ、日本!
 「グローバル」に目覚めよ!
 「クロスマーケット」に目覚めよ!
 「エキゾチック金融」に目覚めよ