読書メモ
・「ユーロが世界経済を消滅させる日」
(浜矩子 :著、フォレスト出版 \1,400) : 2010.07.24
内容と感想:
米国発のサブプライム・ローン問題で世界金融危機が起き、各国の迅速な対応で危機を脱し、景気は回復に向かっているが、
それも束の間、危機が欧州に飛び火した。ギリシャの財政危機が明らかになると、ギリシャ国債を保有する他のユーロ加盟国に不安が広がり、通貨ユーロの下落が始まり、
その影響が世界全体に広がる様相となった。第二の世界恐慌の始まりかと言われた。
米国が住宅バブルに沸いているとき、欧州も同様にバブルになっていた。それがはじけたわけだ。
ギリシャの後には、ポルトガル、アイルランド、スペインなどが待っていると言われた。
本書は今そこにあるユーロ崩壊の危機を叫ぶ。
欧州の危機の現状や、ユーロの歴史、遠く離れた日本からは分かりにくいEU特有の力学、本音と建前などを描いている。
単一通貨ユーロの最大の問題は、こうした金融危機が起きたときに、ユーロ加盟各国に為替政策や金融政策の自由度がないことだ。
ECB(欧州中央銀行)に身を委ねるほかない。
自国で対応できない結果、ユーロ圏は「一連托生」となる恐怖に覆われた。
「一つの政府なくして一つの財政なし」と、通貨だけの統合という中途半端な地域統合の限界を指摘する。
「要は、政治も財政も、すべてが一元化された事実上の欧州合衆国を構築しておくべきだった」という。
それがないから当然、一元的な財政政策がない。今回のような危機に機動的に対応できないのだ。
しかし「財政の一元化に踏み出すことは、国家主権にかかわってくる大問題」と矛盾があることも確かだ。
さて現状はどうかというと、つい先日(7/23)、欧州の主要銀行に対するストレス・テストの結果が公表され、
おおむね予想どおりということで市場では不透明感が少し薄らいだようだ。
しかし危機が去ったわけではない。
根本的な問題は解決されたわけではない。
EU各国が財政赤字に苦しむ。ユーロ防衛のために財政赤字削減を優先させれば需要は落ち込み、景気回復も遅れる、
財政赤字は減らない、ユーロの信頼度も下がると悪循環になる恐れがある。
EUの「結束なき統合という方便の限界」が試されている、と著者はいう。
EUは現在、金融の統一的な規制・監督体制の整備に取り組んでいる。少しずつ改善し、危機を乗り越え、よりよい形への統合に向かうことが期待される。
○印象的な言葉
・ユーロ圏解体説
・汎EU的金融監督、財政統一は無理
・ベルギーがEUの心臓部。複数民族のつぎはぎ国家。社会が二重構造。
・不況の中、移民労働者の痛みが最も強い。一転、難民となった。移民への差別
・シェンゲン協定:EU内を人が移動しやすくする。好景気のときはこれが労働力確保に有効だった。テロリストの入国も容易。
・ギリシャの二大得意分野は海運と観光。どちらも世界の景況に左右される。リーマンショック対応で財政負担が大きく膨らんだ。
リーマンショックがなくても財政状況は危険領域にあった。EU加盟の七光り効果で低利融資にありつけたのをいいことに、借金依存型の経済に走った。
・ユーロ圏に入るには財政赤字やインフレ率など資格要件がある
・ユーロ圏のある国が債務不履行に陥ると加盟国が支援するしかない
・PIGS諸国をみな救済すれば、EUに財政節度の管理能力なしと見られる。ユーロが見捨てられる
・1971年のアメリカのドル金交換停止。いくらでもドルを刷ることができるようになり、伸び伸びとインフレ的な経済拡張政策を追求。ドル不安定化が世界を悩ます。
その無責任姿勢からEUを守るために通貨統合に向かった。統一ドイツを一人歩きさせたくない、という危機意識もあった。政治的な要請が通貨統合をもたらした。
・独仏枢軸がEU深化の求心力
・EUには節度のない金融機関に歯止めをかける統一的な規制・監督体制がない。金融行政は各国バラバラ。いざというときに団結の核を欠いている。
緊急時の支え合いと分かち合いのための枠組みがなかった。
・EU大統領の役割は欧州首脳会議の常任議長。任期は2年。大きな政策方針を決める権限はない
・東欧諸国のEU入りの結果、東欧の人々は社会主義時代より給料が減った。以前は過大な賃金だった
・アイルランド:花崗岩に覆われた固い台地。肥沃な土地はほとんどない、大半は放牧地。緑豊かな国「エメラルド・カントリー」。
EUからの補助金で経済成長し「エメラルド・タイガー」ともてはやされた
・EUの試練:金融監督、財政統合、求心力
・時代は集権から分権に向かいつつある。財政統合は時代に逆行する
・英国、スウェーデン、デンマークは通貨統合は通貨主権の放棄につながると、ユーロを導入していない。
(→地理的にも独仏の争いに巻き込まれずにすむと考えた?)
・世界は通過大調整を必要としている。ドル時代の終焉が必要。それには大きな衝撃が伴う
・欧州主要金融機関の資産規模は一国のGDPの数倍に達するものもある。それが破綻しようものなら救済は不可能
・オーストリア:650年間、ハプスブルグ帝国の中核的な存在、中部欧州に君臨。金融機関は秘密主義。
・要はドイツ
・EUは羊頭狗肉方式の統合だった。浅知恵。条約に条約を重ねてきた。やりやすいところから手をつけた。
・外枠づくりから入る共同体構築は自分らしくありたいと思う人々の魂の逆襲に見舞われ頓挫する
・EUの最終的な目標形をリセットし、新たなビジョンを組み立てるべき
・ECBの単一的な政策金利では経済を安定させられない。国ごとに金利を決めさせる
-目次-
プロローグ ―2010年、欧州発!第二次グローバル恐慌が始まる!
第1章 静かなる崩壊の足音 ―EU内で今、起こっていること
第2章 何のため、誰のため? ―ユーロを巡る歴史と現実
第3章 なぜ、どうして? ―リーマンショック前後にEUで起こったこと
第4章 解体に向かうか、統合欧州 ―建前統合・本音バラバラ、行きつく先は?
第5章 巨大なドミノが崩れる時 ―通貨大パニックは欧州から始まる
歴史に学べ! ―資料1・駆け足で見る!欧州統合の歩みとその到達点
歴史に学べ! ―資料2・駆け足で見る!基軸通貨「ポンド」の歩み
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