読書メモ

・「勝間さん、努力で幸せになれますか
(勝間和代、香山リカ :著、朝日新聞出版 \1,000) : 2010.05.01

内容と感想:
 
香山氏が「勝間を目指さない」的な本を出したことから二人の対談がセットされた。 私はその本は読んではいないが、対談の中で香山氏が指摘しているように、勝間本が誤読されている可能性がある。 彼女が批判していることは、どうやら勝間氏を理想モデルとした人たち(カツマーというらしい)が過剰に努力し、それでも満たされずにいるということらしい。 勝間氏も自著を読んだ人が、本の通り実行して勝間のコピーしてもそこに幸せはないと言っている。
 タイトルが示すように本書は香山氏が勝間氏に質問する形式になっている。 「すでにこの競争社会で十分、疲れきっている人は、ここでさらなる努力を求められて、いよいよすり切れ」ていくことに香山氏は疑問を感じている。 あとがきにもあるが、「すべての人が効率化を図り、生産性を上げていく資本主義社会のゲームに組み入れられる必要があるのだろうか」というのはもっともな意見である。 同じように感じている人は多いのではないか。 努力してもなかなか報われない人、努力したくてもできない人たちを代弁して、勝間氏に迫っている。
 第1章で香山氏は「この10年、弱い立場の人、心やからだの弱い人がとてもひどい目にあってきた」と日本社会を批判。 現代の一揆が起きてもおかしくないのだが、今や日本は分裂した社会になっている、みな利己的で共同体が壊れているから不満が結集しない。 そもそも弱い人には立ち上がる気力も体力もない。それをサポートするシステムが弱い。
 二人の対談で面白いのは価値観、人間観の違いである。 話がかみ合わないところがある。だからこそこの対談が生まれたと、必然性を感じる。 第3章で二人の立場の違いを香山氏が明確に分析している。 彼女の仕事は患者のマイナスの状況をゼロにするところまでであり、勝間氏の本の読者は既にプラスなのに、それ以上になっていきたい人向けなのだと。 また、第6章では、勝間氏は上から引っ張り上げる目線だが、香山氏はこぼれ落ちる人たちをセーフティネットですくい上げる目線、とアプローチの違いを指摘。
 対談を終えた感想として年上の香山氏は、その噛み合わなさ加減を「人生哲学の違い」と表現している。 「上昇の勝間、下降の香山」と称し、「私はこっち側でやっていく」と覚悟を決めたという。 いずれにせよ、勝間氏は日本を牽引する立場の人を育て、動かして、その成果を弱者に再配分するように頑張ってもらえればいいのではないか。 どっちがいいというのではなく、どちらも必要な人なのである。

○印象的な言葉
・幸せは自分の外にはない
・勝間のコピーを目指すことはたいへん危険。技術のエッセンスをとらえて、自分なりにアレンジせよ。真似することが目的になっている
・三毒追放:怒らない、妬まない、愚痴らない
・勝ち組の気概:その幸運を感謝し、余禄で世界が二分法で分割されるのを防ぎ、多様性回復に取り組む。負け組の復権のために手を差し伸べる
・よりよき秩序のためにどう役割分担や協力が可能か
・やりがいは経済的安定と新しいことができること
・利己的な社会へのノーが政権を変えた
・頑張らなくてもいい方法を探そう
・社会全体が極端な動きをするようになった。ゼロイチ思考
・小さな喜びを感じる、時間や心の余裕
・もっと上を目指せといった強迫観念
・幸せの交換に貨幣が介在する。生かされている。
・幸せは見つけるもの、感じるもの
・努力しているときは不安が一時的に解消される
・報われないような頑張り方は危険。やり方を変えたほうがいい
・カン違いとか錯覚でもないと、生きていくのはつらい
・ずっと見守ってくれる上司、人生全てを話せるような人、気楽に相談できる人、職場の潤滑油
・やる気も訓練次第で伸びるかもしれない
・人格を叱らず、行為を叱る
・メッセージを効率よく伝えるためのファッション(お洒落)、コミュニケーションのためのもの
・最後は必ず自分の味方をしてくれる人
・宗教をもっている人のほうが幸福度は高い。絶対的な自分の味方と保障してくれる
・リーダーは部下が気付くように、彼らが余裕を持てるようにサポート。チャンスを与え、場所を作り、見捨てずに再教育
・IBMの成果主義、評価指標:Team(チームへ貢献したか)、Win(新しい仕事を取ったか)、Execution(仕事をこなしたか)の順
・働けるのに国の世話になるのはみっともない
・経済的余裕は新しいことにチャレンジする原資
・弱者が居場所を得て、笑ったり、ほっとひと息ついたりしながら過ごせるような優しい社会

-目次-
第1章 <勝間和代>は成功者のアイコンか
第2章 ふつうの幸せとは何か
第3章 努力は楽しいか苦しいか
第4章 仕事で幸せは得られるか
第5章 女と結婚と幸せ
第6章 教育と政治で幸せはもたらせるか