読書メモ

・「ドル終焉
(浜 矩子 :著、ビジネス社 \1,500) : 2010.10.21

内容と感想:
 
「グローバル恐慌は、ドルの最後の舞台となる!」とサブタイトルにあるように、今回のグローバル恐慌が 基軸通貨ドル終焉の最終幕となるかどうか展望するのが本書。
 ドル終焉の第一幕はニクソン・ショックだったという。それに続く、プラザ合意、ブラック・マンデー、アジア通貨危機、ユーロ誕生、暴走金融など、 次々と舞台は展開した。これらの出来事は過去の世界経済の大きな転換点ともなった。 本書ではその転換点となる節目を一つ一つ振り返り、今後の展開を見透かそうとしている。 徐々に米国が自国通貨の為替相場を自分では決められなくなっていく様子が描かれている。
 これまでドル終焉物語は終幕か、という出来事が何度も起きながらもそれを阻もうとする力学が働いてきた。 しかし終幕が先送りされればされるほど、それを求める「エネルギーの潜在的爆発力は高まっていく」(第4章)と言う。 世界はその爆発力を爆発させず、ダメージを抑えながら、新たな通貨体制に移行していけるだろうか? ドルは「もはや基軸通貨ではないのに、基軸通貨の振りを止められない」、「裸の王様」だというが、結局、次に相応しい形は描かれていなかった。
 また、世界ではFTAやEPAなど「地域限定排他的な通商が大流行り」で「分断の通商秩序がはびこり始めている」ことも批判している。 WTOの基本的大原則「自由・無差別・互恵」に立ち返るべきだと著者は言う。
 恐慌対策で各国の中央銀行が行なった財政の大盤振る舞いが新たなバブルを引き起こしかねず、暴走バンカーたちを蘇らせているという。 対策が抜本的な改革に結び付いていないのだ。 第1章でも書かれているが、「情けは人のためならず」という言葉がある。「世のため人のためになっていないと、結局は我が身が破滅する」、 今回のグローバル恐慌に関わった者にその意識があるかどうか分からないが、同じことを繰り返さないためにも、その感覚が問われている。

○印象的な言葉
・過去を知らないものに未来は見えない
・モンスター蘇生の手助けをする各国中央銀行。とんでもなく無理をし、財政の大盤振る舞いをした。米投資銀行は再びリスクの高い金融商品を売り始めている。再びバブルが起こる。 暴走バンカーたちの早すぎる回復が、抜本改革への道を封鎖する。 落ち込み前の生産水準を取り戻さねばならないのか?その水準が正常だったという根拠はあるのか?国債大増発で国家破綻に追い込まれる国が出るかもしれない。
・ユーロ誕生は対ドイツ脅威観から
・資金の偏在構造が問題
・恐慌とは新たな均衡点を発見するための経済活動の自浄作用
・金本位制が管理通貨制度に変わり、信用収縮の脅威からは解放された反面、慢性インフレという代償を払うことになった。通貨節度が守られない限り、インフレになるのは当然。
・知恵と良識と良心を絞り上げる
・戦後、西欧や日本が急速に復興するとアメリカのドルを必要としていた各国には、ドルが滞留するようになった。米国にモノを売るが米国から買うモノがなかったから。 そして過剰に世界に出回っていたドルがいつか暴落するという心配から、各国が米国にドルを金に交換するように迫った結果、ニクソン・ショック、金交換停止となった。
・成長できない米国は基軸通貨国として君臨できない
・レーガノミックス当時、米国は高金利で世界中から金が集まりドル高となった。他国は資金流出を抑えるために追随して金利を上げざるを得なかった。それが実体経済を痛めつけた。 その結果、各国の足並みが揃ってプラザ合意に至った。
・バブル時の日本の需要がブラックマンデーの衝撃をいなした
・EU(欧州連合)は政治的運命を共にすることを展望した連合体。国家主権に関わる政治統合より、経済的メリットの追及を前に出すことで求心力形成に努めた。 欧州共通外交・安全保障政策、国内治安協力が政治上のテーマに上がるようになった。曖昧模糊とした建前だけを共有してきたから団結を維持することができてきた。EU式生活の知恵。
・ドイツは戦争責任について謝り続ける。サッカー場での過激発言にも耐える。嫌味も上手に受け流す
・基軸通貨はその価値が高く安定していなければならない
・英国の強み:独自の金融政策、為替政策、経済運営、金融行政。シティの独自展開。ユーロ圏の外で一大金融センターとして機能してこそ一目置かれる
・WTOは開店休業状態。各国は相手を限定したFTAやEPA作りにまい進している。開かれた互恵の理念とは程遠い発想。実態はブロック経済化の方向に動いている。排除と引きこもりの論理。 世界は分断されていく。
・経済活動はヒト・モノ・カネの三角形。ヒトの辺を圧迫する形で大きく歪んだ

-目次-
プロローグ……「ドル終焉 最終幕」恐慌の向こう側に行けないグローバル経済
第1章 恐怖の無限ループにはまり込んだ地球経済
第2章 ドル崩壊のプロローグ……ニクソン・ショック
第3章 権威失墜……プラザ合意
第4章 時代転換のサイン・・・・・・ブラック・マンデー
第5章 ユーロ誕生という新たな風……EU発足
第6章 互恵主義の萌芽と矛盾……WTO発足
第7章 膨張の恐怖・・・・・・アジア通貨危機
第8章 恐慌ドラマの次のステージ・・・・・・向こう側に辿りつけるか