読書メモ
・「デフレは大好機 〜価格破壊で日本の良循環が始まった」
(長谷川慶太郎 :著、東洋経済新報社 \1,500) : 2010.03.13
内容と感想:
デフレとは何か。「価格破壊」、物価が低落し続けることだ。
「日本は既に10年前からデフレだった」と「はしがき」にある。
「デフレは世界経済全体の基調」であり必然なのだ。
「世界全体が長期にわたる平和を享受できる情勢」がデフレを生む、というのはなるほどと思わせた。
タイトルが示すように著者はデフレは日本にとってはチャンスだと本書で言おうとしている。
序章では、長引くデフレに「ゼロ金利政策、超金融緩和政策が効果がなかったこと」は実証ずみであり、
「一時的なバラまきによる財政政策」ぐらいでは好転させられない、と述べている。
これでは政府も日銀もお手上げなのである。
ではなぜそんな状況が日本の好機なのか?
世界最高水準の日本の環境対策技術があるとする。
省エネルギーの電炉製鋼や、蓄電池など電力関連、電気自動車などで製造技術が世界をリードすると著者は考えている。
国内外にフロンティアがまだまだ広がっているのだ。デフレで買い手不在の日本や先進国以外にも成長を続ける新興国がある。
また、機械工業は「世界最大最強」、日本製工作機械も圧倒的な優位性をもつ、と胸を張る。
しかし、技術力だけでは売れない時代だ。
最近では、日本はシステム構築力が弱いと言われるようになったのを反省して、政府も新興国向けに官民一体となって
インフラ輸出を柱に掲げるようになってきた。よい戦略だ。
鉄道、発電、水道、ガス、道路など日本のインフラは世界でも高水準だ。しかしその市場では他の先進国との競争が激化し始めている。
投資規模が大きいだけに日本がそれをものに出来れば、得るものは大きい。相手国の生活水準の向上に貢献もできる。
19世紀末にもデフレの時代があったという。そのときにも現在と同様、金余り現象が起きていたそうだ。
当時はその資金をインフラ整備に投入し、現在に続く生活の豊かさに結びつけたのだ。
今世紀は新興国や途上国の番だ。うまくお金が回って、貧困がなくなって、みんなハッピーになれればデフレでもいいのでは?
○印象的な言葉
・19世紀後半、四半世紀続いたデフレ。このときは経済成長を阻害しなかった。供給が急増する一方、物価は急落。しかし地球規模のインフラが次々と完成。
社会福祉制度も創設され、社会全体の安定性を大きく改善。相対的な実質賃金の上昇は知識水準を上昇させた。世界の余裕資金が可能にした。デフレが生んだ資金。
・デフレ時にはいずれ必ず値下がりすると考え、買い急がない。金余りになる。
・インフレ時代に必要だった大きな政府と規制
・水運はコストが低い。鉄道輸送はその9倍、トラック輸送では25倍になる
・日本の温暖化排出ガスの約4割が鉄鋼と電力業界が占める
・NAS電池:ナトリウム硫黄電池。電力需給のアンバランスを調整できる
・デフレ時代に政治が対象とするべきグループは「買い手」。支持基盤を変える必要がある。今までの制度、システムを全て見直す必要がある。
デフレ下では経済活動に対する政府の統制、規制は無効、無駄になる。小さな政府にならざるをえない。小さな政府は税金を大幅に削減できる。
・アジアでは冷戦はまだ継続している。共産党の一党独裁体制の国が3つある。中国、北朝鮮、ベトナム。(→ミャンマーも軍事政権が独裁が続く)
・三本立ての年金で最も手厚いのが共済年金。公務員、教職員が対象。
・米国中西部で2008年に93箇所のバイオエタノール工場が建設されたが、ひとつも稼動していない。原料の穀物の乱高下にせい。
・効率的に投資資金の行き先を差配する投資銀行は必要。それに適した人材は一朝一夕にはできない
・電気自動車関連の特許件数は2008年時点で、日本はアメリカの4倍
・電炉による粗鋼生産では燃料コストは、それ以外の5分の1
・昭和初期、官僚たちは「政治任命」は制度上の欠陥として、改革し、行政組織の政治からの独立性を主張した。また軍部と結び付いて政治、政党を抑えた。それが戦争に向かわせた。
・環境対応車が増えると今後、ガソリンの消費量は急速に減っていく。ガソリンにかかる暫定税率による税収も減少する
・自動車業界のEV(電気自動車)化が進めば、業界構造も大変革を迫られる
-目次-
序章 デフレ時代の決め手は技術力
第1章 デフレが求めた政権交代
第2章 「平和と安定の時代」がデフレを生む
第3章 デフレは日本再躍進の大チャンス
第4章 「買い手」の主導するデフレ市場
第5章 日本が世界に示す新しいモデル
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