読書メモ
・「大不況で世界はこう変わる!」
(榊原 英資:著、朝日新聞出版 \1,300) : 2010.11.10
内容と感想:
世界金融危機後の世界不況。世界と日本経済がどのように変化していくかを読み解いている。
「ドルは暴落しない。米経済が最も早く回復する」というのは半分は当たっている。リーマンショックから2年経った今、NYダウ平均はショック前の値を回復した。
ドルは暴落ではないがドル安状態は続いている。
ドルは基軸通貨の地位を失うといった議論をよく聞いたが、世界貿易におけるドルの比重は相変わらず大きい。
財政赤字も膨らむ一方で、一時期は唯一の超大国だったアメリカの覇権は失われつつあるが、「アメリカの力を過小評価するのは問題」と著者は釘を刺す。
とはいえ、バブル時に借金をしまくったアメリカ人は、一気に返済に追われるようになり、貯蓄率も上がっているという。
著者はアメリカ人は過剰債務返済にほぼ5年かかるだろうと見ている。少なくとも5年は消費減退が続くそうだ。当面はアメリカへの輸出は期待できないということだ。
経済面よりも興味を引かれたのは第七章の日本の医療の問題。
現在の医療保険制度、医療システムは事実上破綻していると著者は捉えている。
彼は医療再生のために次のような提言をしている。
財政的に破綻する前に公的保険の範囲を縮小し、財源を消費税などで賄い、公的セーフティネットと民間保険を組み合わせる必要がある。
医療分野は成長産業としても期待されているため、厚生労働省による社会主義的統制も緩めて、活性化させるべき。
そうすることで福祉レベルも上がり、産業の牽引役とすることも可能だとしている。
これからますます高齢化が進み、医療費負担が国の財政に重くのしかかってくる。生命に関わる問題でもあり、スピード感を持った改革が求められる。
○印象的な言葉
・アフルエンザ(金持ち病)
・欧州の主要金融機関はアイスランド、ハンガリー、ラトビア等の国家破綻に近い国への融資を中心に巨大な不良債権を抱える
・21世紀のキーコンセプト:環境、自然、健康、安全、文化
・日本で経済を牽引するのはサービス産業(医療、介護、教育、娯楽)や農業
・米国の中産階級の没落はここ十数年で顕著。グローバリゼーションに適応できる層とできない層に二極化
・バブルのときに将来の需要まで先取りするから、現在の需要が減る
・ドル暴落は2030年前後以降。長期的にはアメリカの覇権は崩れる
・大衆民主主義と民族自決主義を推し進めていったのがアメリカ
・モノのデモクラシー:消費者、モノを買う人として大衆民主国家の一員となる(佐伯啓思)
・日本はアメリカを追い続けていく中で、アメリカ以上にアメリカ的になってしまった。自動車、スーパーマーケット、ファストフード。
・ネット利用で農産物の多品種少量生産が可能(→それを支える流通経路もあり、日本は丁度よい大きさ。地方活性化にもなる)。生産者と消費者が直接結び付く。
生産者の手取りは増え、生産者には消費者のニーズが正確に伝わる。両者の絆を取り戻す
・ネットワーク型資本主義での重要な戦略は全方位
・健康への関心の高まり。マラソンブーム。予防医学。人間ドックは病院のドル箱
・外国のオペラ、オーケストラの日本公演が増加、美術館の展覧会も多い
・忍耐、寛容が世界外交のキーワード。多様性を重視
・社会主義的国民皆保険は国民がそこそこの医療を受けることを可能にしたが、社会主義的悪平等が需給に歪みをもたらし、医療崩壊を招いている。
診療報酬と薬価を自由化すべき。混合診療の導入
・地方分権により文部科学省は廃止し、地方自治体に教育行政の責任を持たせる
・神仏習合:政治的権威と学問的権威の共存。神道と天皇は日本の文化・伝統を代表する権威、仏教は外来の学問を代表する権威
-目次-
第1章 深く長い世界同時不況
第2章 二〇世紀型資本主義が終わる
第3章 “モノ”づくりの落日
第4章 グリーン革命
第5章 二一世紀のパラダイムシフト
第6章 先進国経済の成熟化
第7章 日本の構造改革
第8章 必要なのは「日本回帰」
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