読書メモ

・「立ち上がれ中小零細企業 - 時代は俺たちのものだ
(小林延行 :著、ディスカヴァー携書 \1,000) : 2010.03.27

内容と感想:
 
信州の中小コイルメーカーの社長による著書。中小零細企業への福音の書。社長はオヤジバンドのリーダーでもあるそうだ。 コイルと周辺技術に関して38年間培ってきたノウハウと実績に胸を張る。 本書は金融危機後の日本のモノづくり中小零細企業の生き残りのヒントを説いている。
 「はじめに」では「一介の中小零細企業の社長の独り言」と謙遜しているが、中小零細企業の実態や「モノ造り」への思いが込められている。 著者は金融が実体経済を振り回す時代が終わり、転換期を迎えたと捉えている。世界バブル崩壊で不景気ではあるが、中小零細が活躍する場が多くなると信じている。 中小零細の苦しみも滲み出ているが、自信もみなぎり、元気を与えてくれる書である。
 第二章では「中小零細が下請けから脱するためにすべき7つのこと」を挙げている。 いずれもごく普通で当たり前のことが書かれているように見えるが、要はそれが徹底できるかどうかにかかっているのだろう。 当然だが本書には、とにかく「技術」という言葉が多く出てくる。 製造業は技術力が重視されるが、技術というよりも創意工夫、アイデアは「誰にも負けない世界ナンバーワンを目指している」と語る。
 第五章で中国を初めとする海外生産の拡大に対して、「国内で高品質の安い製品は造れるはず」という。 「部品は日本の中小零細の優れたもの」を使い、ロボットで組み立てる。 中小零細が連携し、「部品を組み合わせ、さまざまな製品」を造ることもありうる。 実際、大手メーカーも国内生産に回帰しているところもあるようだ。 ここに日本再生の可能性を見出している。
 本書には大企業が立場を利用して、中小零細企業からノウハウだけを持っていこうとする実態も描かれていて、自社の技術防衛の必要性にも触れている。
 第五章にあるように、日本の国際競争力が衰えてきたのは、不況もあって日本的経営に疑問を持ち始めたことにあると捉えている。 職場が実力主義となれば自分の生活確保が大事となり、安定・安全を求め、冒険はしなくなる。 これでは発明やアイデアなど生まれる余地はなく、新製品の開発ができなくなった。 協調や和の精神が失われ、疑心暗鬼、ライバル意識が横行するようになった。 士気が落ち、組織として総合力を発揮できなくなった、と分析している。 ここにきて終身雇用など日本的経営のよさを見直す動きもあるようだ。会社とは何かを見直す時期に来ている。 グローバル化してますます国際競争が激しくなっているが、日本は日本のよさに自信をもってやれば活路は見出せるはず。

○印象的な言葉
・自社技術を守る。大メーカーは中小零細企業の技術を正等に評価すべき
・欧米企業は技術を買ってくれる。技術料も払う。日本メーカーは海外メーカーにおいしいところをもっていかれる
・「匠」の技を機械に置き換える。自動化
・中小零細企業同士でコラボ
・広告・宣伝・展示会出展。新聞記事にしてもらう。(県工業試験センターなど)産学官での研究開発。行政関係機関からの応援
・海外展開のコツは「人」。信頼関係がある中での厳しさ、母子の間柄のような上下関係。親としての責任から叱り飛ばすような迫力。
・経営の開示、経営者と従業員が悩みを共有。社長と社員が一体になれるのが中小零細企業。幹部に経営参加させる。利益配分をみんなで決める。喜びを分かち合う。
・本当によいものが求められる、細かな気遣い、文化の違いが製品に現れる。目の肥えた日本の消費者
・まず人に与える
・ISOへの不審。金を出して、書類を整えさえすれば取れる。取引では形式重視のため取らざるをえない
・中小零細企業の自由さが、創意工夫、新たな発想を生む。気ままに伸ばしていく。コンプライアンス遵守はタガをはめ、中小零細企業を追い込む
・メーカーは金型発注時に図面添付を条件にしてくる。それでも発注額は安い。金型製造は図面をもとに中国に外注。リピート発注は来ない (→目先の利益を追うだけで、日本を貶めるだけ)
・技術漏洩の防衛策をとる中小零細企業には「試作」を発注するメーカー。国内には開発品・試作品の発注は必ずある
・中小零細企業は自分でどうにかする、自活するのが真骨頂。小回りが利く
・他がやらない、他では造れないものを造る。特殊で難易度の高いものを手がける。難しそうだが、どうにか考える。理屈やセオリーにとらわれず、やってみる。
・特許アドバイザー:技術防衛方法、契約上・商取引上のトラブル解決、技術連携の音頭とり
・経営革新法:低金利で設備導入資金を借りられる。経営革新計画を県に申請
・夢→目的→計画→行動→成果
・社内改革:自分たちのことは自分たちで決める。規律の確立
・営業はムダの積み重ねの果てにある大きな収穫を得るためのもの
・セルフコントロール(自律)の会社。ルールが要らない自由な会社。自覚を持ち、思いや感情をコントロール。
・常に資金でヒーヒー言っている会社は、打たれ強い。早めに手を打ち、潰れそうで潰れない
・開き直り。来るなら来い、と気持ちを定めると、不運もそこで止まる。逃げると、畳み掛けてくる。今できることをやるべき。
・日本は消費型経済から、必要なものを必要なときに必要なだけ買う「生活型」に変わる
・アインシュタインは武力や金の力でなく、「日本は世界の盟主になれ」と言っている(→本気なのか?)
・遊牧民族は一つのことをじっくりやる持続力(職人気質)よりも、瞬発力、商人的な気質
・品物を売る時代ではなく、信用を売る時代
・日本製品と他国製品との違いは部品精度の違い。部品を作る国民性に根本的な文化の違いがある。
・中国人はノウハウは自分だけのもの、人に教えたら損という考え方。中国で技術伝承はありえない
・チームワークに優れる日本のものづくりは異分野融合を行ないやすく、独創性を育てる(田中耕一)
・日本の「あいまいさ」:相手の立場を考えた優しさ、思いやりからくるもの。暗黙の了解、阿吽の呼吸、以心伝心で理解する。
・海外で製造拠点を次々と移すのはコストがかさみ、ムダが多い
・日本の技術者への海外からの引き抜き
・会社は大きくしない。大きくなると経営者・従業員の関係がぎくしゃくする
・遠い過去にゴキブリやネズミが生き残ったように中小零細は不滅
・永久社員制度:自分の子供や身内を入れ、親も会社ぐるみで最後まで面倒を見る
・会社はみんなのもの。プライオリティは会社に対する思い入れの深い順。

<感想>
・日本メーカーの製造部門の海外進出。現地の発展に貢献したとポジティブにも捉えることができる

-目次-
プロローグ ロックに込めて歌う、中小零細企業の現実と希望
第一章 中小零細の技術はタダ!?技術を盗む大企業
第二章 中小零細が下請けから脱するためにすべき7つのこと
第三章 中小零細の典型例を見る わが会社セルコ
第四章 この大不況を生き延びろ!